第15話 死亡フラグのへしおり方2
「見ない顔だな。誰だ?お前?ロビンのお頭、いや、元お頭は一緒じゃないんだな」
うーん、見るからに脳筋って感じ。
ムキムキで刺青のびっしり入った裸の上半身。
下半身はロボでデザインがモロに天使のそれ。って、これ、下半身も裸ってことで、実際全裸なのでは?大丈夫かコイツ?変態か?身長は私の倍はさすがにないけど、デカくてゴツい足もあって、余裕で3メートルはありそう。
太い両腕にはさっき見たばっかりのAの方のジャベリンが右に、左にはデザイン的にはパイルバンカーじみている装備が付いていた。
これって、もしかしなくてもPの方のジャベリン?
ロケットランチャーて言うよりも、ぶっといバズーカから長大な槍の穂先が覗いていて、本体には4本のニトロンポーションのシリンダー。
Pの方のジャベリンは追尾有りなんだっけ……車も一撃で大破するような装備だ。喰らえばひとたまりもないだろう。
スキンヘッドにもでかでかと刺青が彫られている。それは組織の名前と同じだった。
トランプの黒のスート、スペード、クラブのAと8のポーカーでいうところのツーペアに、裏返しの1枚の計5枚のカード。
西部開拓時代の伝説的な保安官の死に際の手札。
揃えれば死を招くとされる不吉の象徴の組み合わせ。
死神に掴まれた手か。
雑魚敵とお揃いのバイザーで目は見えない。
それでも睨んでいるのが分かる。
「ただの雇われだよ。ロビンは今頃は元の身体を取り戻して、地下通路を抜けた頃じゃない?」
「ハッタリだな。ここの地下は排水を流すデカい暗渠だ。そんなものが仕込めるか」
あら、意外に賢い?嘘にしては結構ありがちだから、即座に否定されるとは思わなかった。そういや確かに近くに水路があったな。あそこに繋がる暗渠があるのか。
そんなところまで調べて知ってるってことは、たまたま見つかって踏み込んできた訳じゃないのか。
「もしかして、この廃工場って目をつけられてた?」
「当然だろう。こんな怪しいところ、疑うなって方が無理だろう」
「ロビンのリプレースメントを持って行ったのもお宅ら?」
「当然、回収したぜ。その上で、のこのこ戻ってくるとは、俺は思ってなかったけどな。結局、間違ってたのは俺だったな」
「ん?一度入ってきたことあるなら、なんで表のトラップに引っかかってんの?」
「あれは今のお頭が花火を上げろって仰せだったからな。カラス避けにそのままにしておいたトラップをドアノッカー代わりに鳴らして教えてやっただけだ。こうやって元お頭の護衛が出てくるようにな」
リプレースメントを隠すなら、リプレースメント工場の中。
うーん、確かに。
ロビンはバレてないって自信ありげだったのは何だったんだろう?
そういうイベントだから、って言われたらそれまでだけど。なんかずさんだ。
見事に袋の中のネズミだ。
カラス避けってのは、文字通り小鬼鴉とかが入ってこないようにってよりは、他の関係ない人間が入り込んでくるのを防ぐためか。関係ない半グレみたいなのが中にたむろってたら、確かに面倒は増える。
「それはご親切にどうも。さて。それで?呼ばれて出てきましたけど、御用向きをお伺いしても?」
「俺は正直なあ、奴はもうどうでも良いんだ。どの道、終わりだ。俺が知りたいのはドミニオンの件だ。お前はどこまで奴から聞いてんだ?」
「天使?」
ドミニオンは天使の総称だ。
人間、天使、そして妖精。
なぜ今、天使のことを?
「また惚けてんのか?」
「いや、本気で知らないけど」
お互いに顔を見合わせてしばしの沈黙。
いや、待てよ、確か天使の階級って……?神話を題材にしたゲームほどじゃないけど、この辺の宗教的世界観を題材にするゲームはある。ドミニオンは、そうだ。
第9階層、第8階層、第7階層、第6階層、第5階層、そして。
第4階層。
このゲームでは、第3階層から上は月にしかいないから、地上における最高位の天使。
ロビンは元のリプレースメントに戻ることが本当の目的じゃなかった?バレバレでも、ここに来れば何とかなると思って?
ロビンは出会った時に何て言っていた?
組織の停滞を選んだ、それが不満で下剋上された、そう言ってなかったっけ?
停滞期を迎えた組織を大きくするには?
そうだ。
今までにない大きい仕事を計画するか。
それがドミニオンに関する何かだった?
ロビンはそれを用意していて、そしてそれを知られて下剋上された?
「そうか。らしいな。奴が簡単に他人に話すはずがなかったな。まあいい。わざわざここに来たってことは、ここにあるって事に違いねえ。カラスを駆除して、ゆっくり調べりゃ済む」
そう言って、おもむろにAの方のジャベリンが向けられた。
カラスか。
この世界の人間から最も忌み嫌われる害獣か。
蒔かれた者発動。
敵のジャベリンの3本の光輪が輝く。
銃弾を避ける時とは違って、向けられた瞬間にではなく、間を置いてから横っ飛びに躱す。
さっき散々予習は済ませてきた。
後ろで聞こえた爆発音は車両の1台が吹き飛んだのだろう。
問題はもう一方だ。
当然のようにPの方のジャベリンが私に向けられている。
7本の光輪が輝く。
追尾ってのは、どの程度?CW弾くらい?それともミサイル並みに?空蝉切っちゃう?いいや、新スキルか!?どっちの?
挙動がよく分からない初見を確実に避ける為には?
選んだのはデメリットの大きい、しかしより確実性の高い方の新スキルだ。
加速し身を刻む時の刃発動!
瞬間、周囲が超加速した。
Aの時と同じように横っ飛びに躱そうとして、それを即座に飛翔し、追ってくるジャベリンが見えた瞬間、スキル解除する。
すると、まだジャベリンは放たれていない。
いや、すぐさま放たれた。
スキルとしてはゲイザー系統なのだろう。
要は未来予知だ。最大で3秒間ほど時間を超加速して自分が取ろうとした行動の結果を予測演算して見ることができる。
デメリットとして発動中は動けないし、さらに発動した秒数に応じてダメージを食う。2割ほど持って行かれているけど、喰らえば即死の攻撃の軌道とタイミングがわかったんだから安いもの。
これは今の私では、というかこの距離であの追尾のされ方は躱せない。
即座に空蝉発動。
当然、名も知らない中ボスの目の前に転移する。防御力のないコートがなくなって、ちょっと動きやすくなったのはメリットだ。
さて、初見殺しには初見殺し。
Aよりもさらに派手な爆発音を背後にカインの末裔と一房の髪を重ねて発動。ちょっと距離を見誤ってて相手に近過ぎた。
首は狙えないので脇腹から肩に抜けるように斬撃を振るうと、深々と切り裂く。
なかなかのダメージエフェクト量だが、即死には至らない。さすがに甘くない。
「てめぇ!」
再チャージされたAジャベリンが向けられる。
この距離に入れれば、どちらのジャベリンも脅威ではない。
タイムラグは把握している。
スキル硬直が治るのを余裕を持って待つ。相手がそれを放った直後にストロベリーシェイクを振り上げる。
それでも腕は斬り飛ばせなかった。
裸のくせに妙に硬い。
チタン製の骨でも入っているのか?
下半身がロボットのサイボーグだ。
中身は機械の身体の塊でも、おかしくない。
それともこれが高いイデアスコアに裏打ちされた身体ということだろうか。
狙いの逸れたAジャベリンが雑魚的に飛んでいって爆死したのが視線の端に入る。
次は?後退?格闘?この距離じゃジャベリンは振り回せない。
こっちを向いた瞬間に刃を振れば、それで簡単に回避できる。
いくら超軌道可能なSF武器でも、放った直後にUターンできるような射撃武器なんてあり得ない。いや、あの蟹とクラーケンは除く。あいつらは転移使ってくるから例外だ。
至近の私に対して膝が飛んでくる。何らかのスキルなのか、エフェクトが乗っている。
注視していたので、少し余裕のある距離まで退がって回避。ついでにエフェクトが切れるのを待って、その膝に斬り付けてみた。
硬いなぁ。
体感カニと同じくらいの硬度を感じた。
ただこちらは人間大だ。HPには天と地の差があるはず。それを示すように、カニとは違ってちゃんとダメージエフェクトが出る。
膝を空振りして退がろうとする意思が見えて張り付くように追いつつ斬撃を見舞う。その手のPジャベリンが消えた。Pの方は再装填に時間が掛かるのだろう。もしくはトランストレージに出し入れすると即再装填のスキルのためか?
代わりに握られたのはジャベリンに比べればあまりにも小さい拳銃だ。
映画で見覚えがある。
中折れ式のリボルバーで西部開拓時代を題材にした作品には必ずと言っていいほど登場する、ピースメーカーと並んで有名な銃だ。
なんだっけ?
猫みたいな、そうスコティッシュフォールドみたいな名前の銃だ。確か。
取り回しはそっちの方が確かに良いだろう。
誰も彼もが射撃武器しか手にしていないのは、西部開拓時代由来のチーム名だから?
腕ではなく銃に斬りつけると、硬い音で弾かれた。
あら?斬り壊せるかと思ったけど、想像以上に硬い感触だった。
ジャベリンの代わりに出てきた武器だ。もしかしなくてもイデアスコア高めか。
さらに返す刀で斬撃を見舞う。
攻撃パターンが多くない、というか接近戦に対応できるようにデザインされていない。リボルバーをこちらに完全に向けられる前に、その腕を斬りつける。
それでも敵は引き金を引き、そして何も起こらない。
不発?
続け様に引き金は引かれ、そしてやはり何も起こらない。
不穏だ。
弾丸の代わりに何かの特殊効果が発動している?
相手から舌打ちが漏れた。
狙った効果は出ていないのか。
Aの方のジャベリンを何度か撃たれたけど、この距離だ。向きさえ注意していれば、邪魔は可能だし、避けることも選べる。格闘混じりにまたリボルバーの引き金が引かれるも、何も起こらない。
これだけがとにかく不穏だ。効果が分からないので、ジャベリン以上に注意して、銃口の向きが私に当たらないように対処する。
このままいけば余裕を残して勝てるかな?
なんて余計なことを考えたからか。




