第2話 フォックスレイン2
「オロカモノ的にはやっぱりプロ剣が戦犯だよ。アイツがアンサー仕舞い込んだ時点でさ、もう冷めたじゃん。え?お前抜かないの?ってさあ。あそこでアンサー抜いてたら文字通り大正解。一気に雑魚ミサイル片付いてさ。そしたらモーネルとか蘭千鴉とかだってさ」
「はいはい。それ言うなら私もだよ。アンサーほどじゃないけど、カボチャで似たようなことは私にもできた」
オカオカは自分のことをオロカモノというよく分からない一人称を使うけど、別に愚か者、つまり馬鹿ではない。むしろ馬鹿っぽく振る舞っているだけでは?と常々思っている。
本人には言わない。
フルダイブ以前のゲームと違って、多くのプレイヤーはロールプレイを重視している。ゲームの中の役割というよりも、リアルの自分とは別の人格、アバターを纏っている。
それはAIが発達して、リアルの自分とは無縁の声、思考が可能になったことが大きい。
かつてからのゲームのように、担当している声優の声ひとつでキャラクターの印象が全然変わってしまうのと同じく、容姿と同等に声というのは重要な印象だ。
何を話しているのかと同じくらい、どんな声で話しているのか、それがその人のキャラクターを決定づける。
AIの発達によってリアルの自分とは無縁の声をアバターからの生成が可能となった。
声だけじゃない。その声で何を口にするのかすらも、瞬時に生成できる。設定、自分が思い描く性格、状況に応じたキザなセリフ、気の利いたセリフ、ギャグからシリアス、口説き文句まで。それこそノベルゲームに出てくる選択肢を選ぶみたいに、本人が思いつきもしない言葉すらも自分でたった今考えついたみたいに選んで話すことができる。
HE様様だ。
私はそこまで活用していないけど、いくつもの言い回しが思い出したみたいにぱっと浮かんで小気味良い会話ができるのは、それだけで気持ちが良い。
ここでは誰もが本当にそのアバターのキャラクターになることができる。
では、自分は果たして何者になりたかったのか?
あそこで率先して奥の手、最後の手段を使っていれば良かったのか?
答えはノーだ。
それをしている人もいた。
でもしない人の方が多かった。
私ひとりがそこに加わっただけでは何も変わらない。
どちらかといえばソロでやっている時間の方が長い私では、ヒロイックな振る舞いで誰かの判断を変えられるとは到底思えなかった。
ゲームでも結局現実と変わらないのは人間関係だ。
どう演じていても、根っこは自分。
何よりもその事実に私は冷めた。
お互いに思考に沈んでいたのか、それともオカオカは何か上手い言い回しをAIに探させていたのか、沈黙していると不意に光が射した。
見れば日が登ってきていた。確認するとリアルの方でももう深夜から明け方に大分近い時間帯になっていた。
「んで、ハチさんはどうすんの?」
「どうするとは?」
「諦める?そして世界は我らがビッグマザーによって滅ぼされたのでした、とさ?」
雲ひとつないのに赤い雨はまだ降り続いている。
おそらくこれはサービス終了まで、もう降り止むことはないのだろう。
「ラストダンサー隊はもう無理だよ」
「そだね。どんな結果でも責めない。犯人探しはしない。晒さない。が、お約束だったからこそのメンツだもんね」
私たちくらいの間柄なら冗談半分でもこうやって話せるけど、事実、本気全部で怒っていたメンバーもいた。
当然、そういう人たちは会うことすら難しいだろう。
全ブッパ組の人たちにとってはすべての貯金を使い果たしたのに、こっちはまだ貯金あるからもう1回ギャンブルしに行かない?って言うに等しい。
会えば絶対に何かを口にしたくなる以上、約束を守る気があるなら多分、もう二度と会うことはない。
「メンツ探しからやるにしても1回不貞寝してからかな」
「実際眠いしね。でも、もうちょっと頑張ってみない?」
「ん?なんか当てがあるってこと?」
「オロカモノはさあ、実はソロでもラスボスチャレンジしたことあるんだよね」
問うような笑顔だった。
直感的に、あ、これはバレてるな、と分かった。
それでも気がつかないふりをする。
「ソロだとそもそもラスボスには辿りつけない、でしょ?門番のタコイカ姉妹がキツくて」
あのふたり、パーフェクト貝殻船で……というか、空母と戦艦のセットで出てきて、二人世界大戦、とか言われだす始末だ。歩兵ひとりで攻略しろ、はだいぶ厳しい。
「どこの攻略サイトもプロゲーマー様も言ってたっけね。私も最初、無理ゲーじゃん!って思った。んでも検証に時間かかったけど、無理じゃなかった。ま、簡単じゃんとは言いませんとも。完ソロって訳じゃないし。バグもグリッチもなし。んで、バトルが始まる前に特殊演出が入ってね。トロフィーもらえるんよ」
ほらこれ、と出した手の平の上、宙にほのかに光る1頭の狐のエンブレムが浮かぶ。一匹狼ならぬ一匹狐と言いたいのだろう。
「うん。そうなんだ。すごいじゃん。やるね。みなおしたよ。すごいすごい。さすがオカオカだね」
「いや、棒読みかー?んで、このトロフィー、6人持ってるんよ」
実績解除すると、それを解除した人数が表示される。
自分を含めてそれを何人持っているのかが分かる。
今現在、SNS上でこのトロフィーに言及している人間はいない。
どうやって達成したか、それを公開すれば、トロフィーの価値は下がる。
そしてどうやって達成したかを公開せずに実績だけ公開すれば待っているのはストーキングだ。間違いなくつきまとわれる。
自慢したいなら、サービス終了してから。
6人全員がそう考えたのだろう。
ただでさえ残された時間は少ない。余計なことに時間は取られたくない。
知らないプレイヤーの相手なんて、特に教えて君の相手なんてしていられるか。
「ハチさん、持ってるでしょ?」
「なぜバレた」
「いや、ハチさんソロガチ勢なんだから、私で取れるんならハチさんでも取れるでしょ、確定で」
「ん。分かった。だいたい分かった。つまりこういうことでしょう?」
話の流れから、だいたい分かった。
そういえばこの時間帯にログインしてくるメンツが確かにちらほらいたな、と。
確認したことはない。でも、持っているならアイツらだろうという顔が浮かぶ。
アイツらは私やオカオカみたいにラストダンサー隊に参加していない。そもそもボッチ過ぎて誘われてすらいない奴ばっかりだし、イベントランキングで名前は見たことはあるかも程度で実物を見かけたことすらない人の方が多いんじゃなかろうか?
私らが知っているのは、単純に、なんか似たような時間帯に似たようなことしてる奴がいるな、って認識があるからこそだ。
フレンドじゃない連中に声を掛けるなら早い方が良い。
「ソロガチ勢6人で最初から連携を当てにせずにラスボス戦」
「よくできましたぁ」
こうして私たちは最後の戦いに向けてのパーティー「カーテンコール」を組んだ。




