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フォックスレイン→ケルベロスヘッズ  作者: ぎじえ・いり
ロビン・ザ・デッドマンズハンド

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第14話 チャンドラー2

 水路沿いに伸びる片側2車線、反対側2車線の道を進んでいく。

 と、不意に甲高い音が響いた。

 振り向くと対向車線の車が強引にUターンしていた。

 即座にチグリスが反応して速度を上げる。


「え、見つかった?なんで?」

「考えるのは後!飛ばすよ!」


 今までの滑らかさが嘘みたいに、エンジンが唸りを上げて乱暴に前の車を抜いていく。シートベルトをしていて良かった。体に横Gが掛かって引っ張られる。


 首を後ろに向けて覗き込むと、後ろのパネルに映っていたのは、妙な武器を担ぐ男の姿だった。

 やたらゴツい腕、ロボ腕?に担がれたそれは、形状的にはロケットランチャーに似ている。

 違うのは先端のロケット砲弾部分がまんま槍の穂先だった。

 それも青白く発光している。リキッドなのか、あれ。


 確かにニトロンポーションのシリンダーが2本、担いでいる肩の上の部分に平行に取り付けられている。

 見るからに恐ろしげなのは、発光する穂先から幾本もの極太の針のような光刃が生成されては消えてを繰り返していた。


 そしてその穂先のすぐ前には3本の光輪。あれはヘイロー?

 男は直進が安定した瞬間にそれを放った。

 ミサイルなんかのように尾を引く炎も煙もない。

 3本の光輪をくぐった瞬間に、光輪は強く発光して消える。


 放った瞬間は、あれ?今、撃ったよね?と思うくらいには、わずかな静止。直後の3本の光輪が消えた瞬間に、驚くほどの速さで、穂先は白く強く輝いてまっすぐ飛翔する。

 あ、これは当たるかも、と思った瞬間、車が真横にスライドしたかと思うほどに、急な動きであっさり躱した。


 飛び去った穂先はたまたま前を走っていた車に直撃する。

 当たった瞬間、無数の針が、飛ぶ前とは比べ物にならないくらいに大きいそれが飛び出し、まるで正面衝突事故を起こしたみたいにバウンドした。当たった箇所の針はすぐに消えたものの、事故そのものという感じで激しく損壊している。


 チグリスは慌てずハンドルを切って、制御を失ってのたうつ車を躱した。

 

「あ、ごめん。あれ、私たちのお客さんだ。勝てないからって、ジャベリンに鞍替えするなんてねぇ。天使腕付けるゲヘナあるなら、カスタムに使えば良いのに。ってか、レースにとっとけば良いのに、元気が良いなぁ。臨時収入でもあったのかな?」

「はあ?デッドマンズハンドじゃないってこと?」


 ナイルが気を使ったのか、追ってきている車の詳細をくれた。

 ティエンロン・センティピード・ビートルズ……長いチーム名だな。

 どうやらロビンたちが前に出たレースで戦ったドライバー達のようだ。

 フルブラインドのいかにもレーシーな濃い緑のスポーツカーだ。

 見た目通りの早さで、実際に直線で距離が詰められている。


「この間のレースでちょーっとぶつけてリタイアさせちゃった事のお礼参りかな」

「プレイヤーってこと?」

「そうだね。この車、そういえばプープで晒した事あったっけ。カラー変えてるのにすれ違った瞬間分かるなんて、実はファンかぁ?」

「ぜったいちょっとじゃないでしょ、それ」

「いやいや、あれくらい躱せなかったあっちが悪いよ」

「なんかあの槍、ジャベリン?っての食らったら、もしかして一撃でアウト?」

「んー、一撃かどうかは当たった場所次第かな。Aの方だしね」


 ジャベリンというのは、要は天使の使う武装の一種らしい。

 通称AとPが主に流通していて、Aはアークエンジェルが、Pはパワーが携行している武器で威力は見ての通りだ。Aの方が安く、ある程度ゲームに慣れた人間なら探せば結構簡単に手に入るものの、特に追尾効果もないし、撃った瞬間にラグがあるから、躱すのはそう難しくないとか。安いといっても、私の手持ちでポンポンは買えないくらいには高いけど。


 Pの方はさらに威力が高く、追尾効果もあるし、さらにラグもほとんどなく、めちゃくちゃ優秀だけど、流通量も少なく、馬鹿みたいに高いとか。あの光輪はやはりヘイローで、あれにはエンチャントの効果があって、Pは7本の光輪が生じる……単純に倍以上の威力があるってことかな。


「あっちの方が早そうなんだけど?」

「人数多い分、こっちが重いからね。でもねお客さん。決まったコースを走るわけじゃないストリートファイトはね、車の性能だけじゃ決まらないんだよ!」


 そう言いながら強引に前の車を躱しつつ、交差点を曲がっていく。

 抜かれた車があわててハンドルを切って、そのまま角のビルに突っ込んでいた。

 どこで曲がってどの道を走るのかはこちらの自由だ。

 追ってくる分だけ、相手の方が後手になる。

 それでも追いかけてくるスポーツカーも腕は悪くないのだろう。


 こちらが曲がるたびに、距離がやや開くものの、しっかりとこちらについてくる。

 度々攻撃してくる相手と違って、ナイルは銃を片手に持ったまま、一度も撃たなかった。

 どうやら空いた手でルートを調べているらしい。

 最初はただ逃げるために適当に曲がっていたらしいのに、いつの間にかチグリスはナイルが指示した時だけ曲がるようになっていた。


 そうなってからやっと、ナイルはおもむろにドアを開けて、身を乗り出して反撃する。

 相手は撃ち返してくる事なく車の中に引っ込んだ。

 映画ならカッコよく相手の射手がやられてそのままクラッシュする展開だけど、そんなことはなく、追走してくる。


「どうゆう感じで決着つくの?これ?」


 まさかのやられてゲームオーバーエンドは無しにしてほしい。


「んー、ドライバーを撃ち殺すか、普通に撒くか、事故らせるか、車の耐久削り切って大破させるか」

「なるほど」


 要はフォックスレインの騎乗戦と同じか。

 馬とか蜘蛛とかみたいな騎乗できるモンスターがいくつかいて、それに乗って戦う場合、騎乗モンスターにも乗り手とは別にHPがあって、そっちが潰されても騎乗戦は終わりになる。


 私は移動に使うことはあっても、それで戦うのはあまりやり込まなかった。

 結構難しかったのだ。

 そして思い通りに動かない騎乗モンスターにイライラした。


 相手とのレベル差があると、怯んだりするし、プレイヤーよりも成長が遅く、相当やり込まないとトップ層には食い込めない、本当に騎乗戦が好きでとにかく時間を掛けないと思い通りには戦えないと知って早々に諦めたコンテンツだった。


 意外にオカオカが上手かったっけ。

 こっちの車も向いていない可能性あるな……。


「狙うのは?」

「さすがに簡単に撒けるような相手じゃないからね。事故らせるよ」

「了解」


 相手のジャベリンというのは、とにかく威力が高く、そして飛来する速度も速い。

 たまたま当たった周囲の車は一撃で大破していた。こちらは装甲を盛っている車とはいえ、あれが当たればただではすむまい。


 チグリスはそれを簡単に、当たり前のように躱した。

 発射するタイミングを読んでいるだけじゃない。

 相手も当然それを外そうとする。

 それでもチグリスは躱す。

 ただ距離を取ろうとするだけじゃない。


 時には急ブレーキを踏んで、相手の鼻先にぶつかったり、対向車が来ているのに対向車線に飛び込んだり、いつジャベリンが直撃しても、あるいは事故ってもおかしくないような運転をしながらチグリスは笑っていた。


「たまにはストリートファイトも良いもんだね!」


 隣のナイルに言う。

 言われたナイルは呆れているのかと思ったら、こっちも声を出さずに笑っていた。

 ああ、コンビなんだな。

 私は声を出すと舌を噛んでしょうもないダメージを負いそうだったので黙っていた。

 相手も最初は景気良く撃ってたのに、だんだんとケチっているのか攻撃頻度が下がってきた。その代わりにチグリスが躱すたびに事故りそうになるくらいに荒い運転になっていっている。


 終わりが近いのを感じた。

 そうして訪れた長い長いカーブ。


 そこでナイルは銃をストレージに仕舞い、妙な銃を出した。

 形状的には馬鹿でかいオートマチックのハンドガン。

 妙なのは銃口の下にニトロンポーションのシリンダーがふたつ突き出すように付いていた。

 そういう銃もあるのか。


「ちょっとふんばってね。口開けると舌噛むからね」


 警告するやいなや、車がスピンした。

 え?事故?操作ミス?

 感覚が強化されているので、目を回したりはしない。

 ただ冷静に起きたことを私は見ていた。


 車はくるくるとスピンしたままカーブを曲がっていた。

 そんな中、何事もないかのように例の小窓を押し開き、そこへ向かって中から銃を構えるナイル。

 発砲。

 測ったかのように、正確なリズムで三度、車が一回転するごとに発砲音は響いた。


 その間にも車は減速しているのか、敵の車にするすると近づいていき、放たれた弾丸はいずれもフロントに直撃すると、球形の白色エフェクトを出して衝撃で敵の車は制御を失っていく。


 やがてカーブを抜ける直前、こちらの車と敵の車が接触した。

 こちらのテールで相手のフロントを殴りつけるように。

 フロントが大きく破損した敵の車は、カーブを曲がり切れなかった。

 そのままカーブの出口にあった道路脇のフェンス、その切れ目に突っ込んでいた。


 フロントから煙を出していたスポーツカーはそれでも追ってこようと動いていたけど、もうこちらは元のスピードに加速していってあっという間に手近な交差点に飛び込むと、もうそれきり影も形も見えなくなった。


「あははっ!いえーい!」

「ん。おチグ、ナイス」


 チグリスはとなりのナイルに拳を出すと、ナイルも笑って拳を合わせた。

 初めてナイルの声を聞いた。

 ちょっとクラーケンに近い、ボソボソとした喋り方で、思ったよりも可愛い声をしていた。


「いえーい!」


 そしてそのまま後ろの私にも拳を出してきたので、合わせた。

 私は確信した。


 うん。これは私には無理だな、と。


 リアルでも車に乗るけど、どうやったらくるくる回りながら減速しつつカーブを曲がれるのか、全く想像がつかない。

 スキルなのかもしれないけど、それにしたってだ。


「大分遠回りになっちゃったけど、このまま向かうよー」

「安全運転でお願いします」

「あははっ、りょうかいりょうかいー」


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