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フォックスレイン→ケルベロスヘッズ  作者: ぎじえ・いり
ロビン・ザ・デッドマンズハンド

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第13話 ドッグプープ2

 TO:八月朔日様

 ご連絡、ありがとうございます。

 ご依頼のご相談ですね。

 内容(実行日、距離、拘束時間、危険度、弾薬等の必要経費)により、

 お見積りが変わって参ります。

 ご予算もあるかと存じますので、一度、詳細をいただけますと幸いです。

 ※ 当方、守秘義務、厳守いたします ※

 文面が難しい場合には、通話、または直接お会いしてのご相談もお承りします。

 ご検討の上、ご連絡いただけますと幸いです。

 よろしくお願いいたします。



 ……この人、絶対社会人だな。

 仕事を辞めてすぐに、この感じのメールを目にすることになるとは。

 もちろんこの手のビジネスメールのテンプレなんて、AIに書かせればすぐだけど、依頼連絡に対しての即レスと良い、社会人味をかなり感じる。


 社会人と言っても、いろんな人がいるので、だから信頼できるとかいうことはない。ただ、私は初手のこの感じはかなり好印象を覚えた。

 よし、それなら。



 TO:チグリス様

 早速のご返信、誠にありがとうございます。

 不躾なお願いで恐縮ですが、当方、現在カフカエリアにおりまして、

 すぐのご依頼は可能でしょうか?

 ご相談と合わせて、本依頼とは別に、ごく近くのホテルまでの護送を、

 お願いできますと幸いです。

 ※ 私とNPCひとりの計2名 ※

 ※ ホテルまでの危険度は極めて低いと思われます ※

 可能でしたら現在地と目的地の詳細をお送りします。

 ご確認、何卒、よろしくお願いいたします。



 これで送信、っと。

 思った通り、返事はすぐに来た。OKって内容で、依頼料も相談料込で前払い300,000GHN、戦闘が生じて経費が生じた場合は実費別途と、今の私には痛く感じない値段で、依頼書のテンプレが送られてきた。


 ……私から依頼出す場合でもこういうのあるんだ。

 リアルといえばリアルだけど、ちょっと面倒くさくない?


 そう思うだけで、これを相手に言っても意味はないから見積り通りの値段を入力して送り返す。合わせて記載されていた連絡先に前払い分も振り込んだ。

 SNSではなく、直接私の方の連絡先に到着予定時間30分後、到着次第、再度連絡するという内容と合わせて依頼の受領書が返ってきた。


 これでホテルまで送ってもらって、ダメそうだな、って感じたら再度探し直そう。

 ロビンにも内容共有してから、ポエットにも30分後に依頼完了する旨の連絡を直接入れて、念の為、他の運び屋候補を探しながら、チグリスの到着を待った。



 チグリスからの連絡は30分と経たずに来た。

 ロビンとエドガーに声を掛けて部屋を出る。


 ロビンは本当に武器の類を部屋に置いていなかった。ストレージには入っているにしても、わざわざ取り出すよりも、隠しておいた物をさりげなく取る方が不意を突ける確率は上がるだろう。そういう対処をするつもりもなかったのか。


「このリプレースメントでは、無駄だ。武器があったところで、どうしようもない」

「スキルとかは?使えるんじゃないの?」

「使ったら自滅する。間違いなく」


 ああ、それくらい脆いと。

 多分、これが基本的な戦闘力なしのNPCなんだろうな。


 フォックスレインにも護衛任務はあった。

 その時と違うのは、あっちだと近づいてくる人間やモンスター、あとは隠れられそうな場所からの魔法を警戒すれば良かったけど、こっちだと遠距離からの狙撃も加わるのか。

 その辺はノウハウがないので分からない。ただ屋内で狙撃もないだろう。


「とりあえず丸腰ってのも良くないんじゃない?使えるかどうかはともかく、武器があるって見せるだけでも防げるトラブルだってあるだろうし」

「それは認めよう。だが、この手に合うような、持ち合わせがない」


 どんだけデカい武器しか持ってないんだか。

 あ、それならちょうど良いのがある。


「じゃあ、これ、身につけといてよ。私はどうもあんまり使いこなせてないしね」


 パイロンで買ったリボルバーをロビンに渡す。

 ロビンはそれを断ろうとしたのか、口を開きかけて、結局何も口にせずに受け取った。

 譲渡確認のインフォメーションが出たので、OKを選ぶと、所有権がロビンに移った。


 さて、とりあえず武器としてというよりは盾がわりに攻撃を受ける用でアマチュアナイフを出した。ロビンに離れないでもらって、くっつくようにして廊下からエレベーターへと向かう。エドガーは正直、ロビンが部屋を出た時点で依頼完了しているはずなのに、付いてきていた。


 こうなると正直、気が散るから早くどっかに行ってほしいのに、一緒にエレベーターの中に入ってくる。

 こういう狭い場所用に短くてマトモな武器もやっぱり用意しないとな。


 問題なく1階まで降りて、外へと出ると正面に車が停まっていた。

 深いネイビーブルーのスポーティーな4ドアのセダンだ。

 事前に画像でもらっていた通りなので、間違いないだろう。


 助手席側に後頭部を刈り込んだボブカットの女性が立っていた。いかにも防弾なんだろうなって感じのアーマーを着込んで周囲を見回している。

 運転席の窓が空いていて、中からお団子ヘアーにサングラスを掛けた女性がこちらに手を振った。


「あなたがチグリスさん?」

「えぇっと、八月朔日(はちがつさくじつ)さん?とりあえず、すぐに出すから乗って」


 こういう任務で危ないのは乗り降りの時で、ミッションによっては偽物のドライバーの時もあるから、気をつけて、とは事前にチグリスから送られていた確認事項だった。

 後部席にロビンが乗るのを見届けてから私も乗り込むと、すぐにナイルと思しき女性も助手席に乗り込んだ。


 車は滑るように走り出す。

 まさか乗り込んでくるのかな?と思ったエドガーは車の中には入ってこなかった。


 良かった。


 もしも乗ってきていたら、ふたりになんて説明すれば良いのか、さっぱり想像できなかった。ふたりに正直に話せば、ロビンはそれを聞いて良くは思わないだろう。なんにせよ、これでポエットからの依頼は完了したのだから、付いてこられても邪魔でしかない。


「ごめんなさいね。色々とマニュアル送りつけてさ」

「いえ、私もこういうミッションは初めてなので、助かりました。あ、あとすみません。名前の読みはあれで、ほづみって読むんです」

「あ、ごめんごめん。了解しました。たかなしみたいなこと?」


 小鳥が遊ぶで小鳥遊(たかなし)は割と有名な難読の名前だ。

 肯定しながらポエットに依頼完了のメッセージを送った。

 エドガー越しに伝わっていたのだろう。報酬は既に振り込まれていた。


「車が実装されてから日が浅いからさ。結構依頼は多いんだけど、お互いに慣れていないからそれで失敗することも多くってさ。いやー、最初は揉めた揉めた。乗せたクライアントが降りて歩いて行ったらズドンで失敗してさ。こっちが悪いだのなんだのって、いや、降ろした後の事言われてもって感じでさあ。結局マニュアル作っちゃった方が確実だったんでさ」

「そうだったんですね」

「あ、別に敬語とか、必要ないですよ?ほづみさんも良ければ、私も普通に話した方がやりやすいんで、大丈夫?」

「大丈夫。ありがとう」

「よし。それじゃあご依頼ありがとうございます。こっちが相方のナイル。とりあえず指定されたホテル向かってるけど、飛ばした方が良い?それとも目立たずゆっくり?」

「目立たずゆっくりで」

「おっけー。変に飛ばすと、天使がうるさいしね。特に渋滞情報もないから、15分もかからないかな。雑談するには短すぎるから、先に本依頼の概要もらっても?」

「分かった。えぇっと、目的地は……」


 目的地はチャンドラーエリア。想定される敵はデッドマンズハンドという組織と、最悪他にも賞金稼ぎが来るかも。戦力は現状私ひとり。私の依頼人は戦闘力なし。そういった概要を伝えた。この間、ロビンは一切話さなかった。


 余計な情報は渡さないと事前に決めていて、それもあって私がすべて話した。

 特にふたりも疑問はないようで、私の依頼人については詮索してこなかった。

 ナイルは最初に目を合わせて目礼をしてきた以外は一言も喋らなかった。私の話を聞きながら、デッドマンズハンドについてであったり、ルートであったりの詳細を調べているようだった。


「うーん、なるほどねぇ。見つからなければただのドライブ。見つかれば相手のケージ内で即座に銃撃戦が始まるとさ」

「実際、どうなの?車に乗っててもその監視システムってのは見つけてくるの?」

「天使の技術に透視カメラってのがあって、それが使われてるとダメさね。フロントがガラスじゃない、モニターになってるフルブラインドの車も持ってるんだけどさ。それ使ってても依頼された荷物(パッケージ)がバレた事あるし」

「変装するとか?」

「賞金の手配レベルによるけど、骨格で把握されてると変装も無意味さね」

「透け具合、調整できるのかぁ……」


 ロビンを見ると、軽く頷いた。

 把握されてるってことか。


「ダメっぽいね。じゃあ絶対ドンパチ必須かなぁ……あ、事前申告しておくと、私、銃撃戦はからっきしなので」

「格好ってか、雰囲気的に思ってた。そうかなってさ」


 チグリスが笑って返す。慣れてるとそういうのも分かるのか。

 いや、使えるなら当然、ホルスターなりで吊るしておく。

 ナイフ1本で歩いていたら、普通に考えたらおかしいか。


 しまった、ロビンに渡さないでハッタリ用でも身につけておくべきだったかもしれない。


 慣れてるプレイヤー、上手いプレイヤーは大抵、どんな装備しているのか、良く見ているものだ。

 まあ、安い銃なんて吊るしていたら、初心者ですって言っているみたいで余計にトラブルを生むかもしれない。油断させるにはそれでも良いのかも?


「でも、初心者さんじゃないよね。車に乗り込む時の動きとか見てても、めちゃくちゃ自然だったし。例のアレ?ヒラエスってやつ?正直、そのリプレースメントのこととか、時間があれば色々聞きたいところだけど」

「私も車のこととか色々興味あるけど、余裕のある時にしよう」

「りょーかい。楽しみにしておく」


 車はなめらかに走っていく。急停止どころか、減速した反動で前につんのめるとかも全くなかった。

 現実と違って、道に信号機はない。交差点に差し掛かると、フロントのガラスに直接信号が送られて、停止する必要がある時だけそれを示すシンボルマークが出る。噂の天使に止められたりすることも当然ない。


 助手席のナイルも店売りになかった、ごつ目のハンドガンを左手に、空いた右手で色々調べながら周囲を常に気にしていて、能力的に不審な感じはしない。なんとなくだけど、このふたりに頼んで良いと思えた。

 必要なことを伝えてちょうど良いタイミングといえばちょうど良いタイミングでホテルについてしまった。


「そしたらごめんだけど、ナイルともちょっと相談したいからさ、時間もらえる?もらった情報を元に調べたいこともあるし。一応、契約書にも書いてあるけど、情報漏洩したら、その時点でアホみたいな違約金支払うことになるから、そこは心配しないで」

「うん、そこは心配していないかな。それで受けてくれる気があるなら、見積もりしてもらって、さっきと同じ流れって感じ?」

「そう。それじゃあ降りた時、ちゃんと気をつけて。ちょっとセキュリティ足りなそうなホテルだから、長居はしない方が良さそうかな?こっちもなるべく早く返答するからさ」


 戦闘必須だから、多分、相手の組織(デッドマンズハンド)のことを調べて、手に負えるかどうか、相談したいんだろう。少なくともこのゲームをやり慣れたプレイヤーが即決できない程度には危険だと判断された、と。


 もしかしたら断られるかもしれない。


 そう思ったけど、それは表に出さないで笑顔で別れた。

 足早にホテルの中へと向かい、特に何事もなく部屋に戻った。

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