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フォックスレイン→ケルベロスヘッズ  作者: ぎじえ・いり
ロビン・ザ・デッドマンズハンド

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22/36

第12話 ロビン1

 20階建てのマンション、その7階。

 なんだけど、マンションに入る前に思わず入り口をじっと見てしまった。


 なんかいる。


 白と黒のぱっと見はシスターっぽい、ちょっと不気味なオブジェ。

 なんだっけ、あの頭と首を隠すやつ……ウィンプルだっけ?

 あれを付けた真っ黒い西洋甲冑でも飾ってあるのかと思った。

 それがじっと見ていると、首が動いて私を見ているのが分かる。


 顔の部分はまるで目を閉じた能面のようで、その表情が動くことはなかった。いや、そもそも表情が動くようにはできていないようだ。確かにロボなんだから、目の部分にわざわざカメラをつける必要はない。どこか潰されにくい部分についているのだろう。


 そう、ロボだ、あれ。


 衣服の類はウィンプルの他には纏っていない。シスターの着る修道服をモチーフにしたと分かる鎧じみた装甲があるだけだ。風で真っ白なウィンプルが揺れた。


 ゲームを始めた時に見た街の外に転がっていた残骸は結構なスクラップだったのでわからなかったけど、あれも元のデザインはこれだった、と言われると確かにそうだったか。


 頭の上にはまるで象徴するみたいにヘイローが浮いていた。

 なるほど。

 あれが天使か。


 手にはいかにも軍隊の兵士とかが持っていそうなライフル銃をいやに大きくしたようなそれを持っている。


 ガードマン、なんだろうか?

 あんまりじっと見ているのも不審だし、エドガーは気にせず先導するように天使の近くまで歩いて行く。その内、撃ってこられたりでもしたら面倒なので、近づいていくとパスの提示を求められた。


「入居者でない方の立ち入りには、入居者の許可、もしくはパスのご提示が必要です」


 落ち着いた、綺麗な女性声だ。作ったようなロボットボイスではなく、自然なそれだった。ただし、恐ろしいまでに感情は抜け落ちた、冷たく感じる声だった。


「えーっと、これ?で入れる?」


 事前にポエットからパスをもらっていたのでそれを提示する。

 浮かび上がったホログラムを天使は読み込んでいるようだった。


「失礼いたしました。どうぞお通りください」

「どうも」


 初めて間近で見たけど、本当にまんまロボだった。

 思わず斬れるだろうか?って目で見てしまった。


 カニよりは柔らかそうな気がする。

 いやいや、ここで斬りかかって騒ぎを起こしても、何の利益もない。

 ポエットにも怒られるだろうし、それが原因で賞金を掛けられても仕方がない。


 天使はエドガーをまるでそこにいないかのごとく無視していたので、気にせず中にはいる。登録がしてあって顔パスだったのか、ペット枠なのかは不明だ。


 余計なことを考えつつも、エントランスを通り抜けるとロビーがあった。

 見るからに座り心地の良さそうなソファーがおしゃれに配置されている。

 お高そうなことで。

 現実の自分には縁のなさそうなマンションだ。


 ロビーも抜けて、エドガーと共にエレベーターで7階へ向かった。

 ターゲットの詳細は貰えなかった。相手の素性は詮索せず、ゲヘナさえ払えば誰でも匿う。そういう契約らしく、つまりポエットも知らないそうだ。


 ただ、部屋には確実にターゲットひとりだけ、いきなり大勢に待ち伏せということは絶対にないという確約はもらった。

 部屋番号は701。間違いないことをドアのプレートで確認してからストロベリーシェイクを取り出した。

 期間限定の相棒を見れば、特に気負った様子もなく私の顔をじっと見ている。


 早く開けろって?


 ドアノブ上のセキュリティプレートに天使に見せたのと同じパスを掲げると、ロックの外れた音がしんと静まり返った廊下に響いた。


 即座にドアを開けて内部へ。

 ロックの外れた音でもうすでに戦闘体制に入ったかもしれない。ここからはエドガーのことは気にしていられない。


 ポエット曰く、部屋内に仕込んであるという迎撃システムは無効化済みとのことだ。警戒するのは相手ひとり。

 思ったよりも広い玄関からまっすぐの廊下に人影はない。

 スキルを使うか迷って温存を選択。せめて相手の姿を見てからの方が良いだろう。


 突き当たりの扉を蹴破ろうとして、いや、ここ、私が住むかもしれないんだよなと思い至って、ドアノブを回してやや強めに素早く押し開いて中へ。

 銃弾の歓迎(クラッカー)を想像していたのに何もなかった。

 それどころか、そこにいたのはテーブルで呑気にパスタを口へと運ぶ少女の姿。


 少女?


 17、8かそこらの年齢の、銀髪ロングの少女だ。妖精じゃないらしく、何も混じってはいない。当然NPCだ。

 いや、姿形がどうであれ、この部屋にいる以上は相手がターゲットで間違いないはず。


 少女と目が合う。

 青みがかったグレーの瞳。

 こちらは剣をぶら下げているのに、まったく動じることなくもぐもぐと口を動かしている。なんだこれ。


 まあ待て、と言わんばかりに手を上げた。黒い、肘まである手袋をしている。細く長い手だ。武器が仕込まれているようにも見えない。口の中のものを嚥下して、上げていない方の手でテーブルの上の布巾を取り、口をぬぐう。


 着ている物も薄手のキャミソールに幅広のゆったりとしたパンツというリラックスした格好で、しかも裸足だ。

 無防備すぎる。


「さて、お待たせした。用件は、分かってる。そんな物騒な物、振り回さなくても、ね。きちんと出ていく、から安心してほしい」


 えらく物分かりが良い。じゃあなんで1週間も居座ってたのか?

 予想していた展開、入ってすぐにドンドンパチパチガチャガチャすると思っていたので、呑気に口を開いて会話に興じて良いものか、と迷う。

 視線を素早く巡らせても武器の類は見当たらない。

 エドガーは警戒するように扉のそばでこちらを窺っていた。

 相手もまたエドガーについて、特に口にはしなかった。


「武器は、この部屋にはない。望むのは、交渉」


 部屋にはなくても、ストレージには入っているでしょ?

 気を抜く理由にはならない。


「交渉?」

「ようやく、口を開いた。そう、交渉。私は待ってた。ポエットが痺れを切らして、始末屋を送ってくるのを。予想よりはちょっと、遅かったけど」


 事態がうまく飲み込めない。契約無視してずるずる居座ってたらポエットは殺してでも追い出すと分かっていて、待っていたと。それで殺し屋が来たら分かりましたで出ていく?


「私は追われている。それも、かつての仲間に、ね。天使とは別に、賞金も掛けられている。外に出れば見つかる。出るには護衛がいる」

「裏切られたってこと?誰かひとりくらい力になってくれる人はいないの?」

「始末されたか、厳しい監視を受けている。もう以前からのツテは使えない」


 隠れたまでは良かったけど、そこから抜け出す方法がなかったと。

 

蜘蛛の巣(アラクネスト)で探しても、当たりを引けるとは、限らない。だから待ってた。ポエットが信頼する、腕利を寄越してくるのを」


 なるほど。自分で腕利を探すより、ポエットを宛てにしたのか。うーん、まわりくどくない?


「それなら最初からポエットに事情を話して誰か紹介してくれって言えば良かったんじゃない?」

「ポエットの評判は知っている。余計な仕事はしない。彼女が保証するのは、自分の箱庭の中だけ。そういう契約だ」

「つまりそれって失敗する可能性の方が高いってこと?」

「正直、厳しい。だから成功した暁には、報酬は惜しまない。ゲヘナだけじゃない。欲しい情報や紹介して欲しい人物がいたら、教えて欲しい。ところで名前は?」

「名前は後。どういう状況なの?それ次第じゃやっぱりコレの出番になるかもしれないし」


 ストロベリーシェイクを掲げると、少女は肩をすくめた。


「分かった。私の名前はロビンだ。これでもデッドマンズハンドという組織、そこのリーダー、だった」


 デッドマンズハンドは人間が多く住んでいるエリアのひとつ、チャンドラーエリアにあるウェストサイドを仕切っている中規模の武器売買組織で、天使を襲って得た武器を売り捌いたりもする、かなりの過激派だった。


「天使を襲ってって……死んだらリプレースメントで蘇らせてくれるのは天使じゃなかったっけ?そんなことして大丈夫なの?」

「そうか、君はどこかから来た妖精か。天使には階級がある」


 街の清掃やインフラの整備に運用される、エンジェル。

 パトロールや警備に当てられる、アークエンジェル。

 街の環境システムの管理運用を行う、プリンシパリティ。

 そして、街を破壊する者への対処や、凶悪な賞金首の討伐を行う、パワー。

 更に上にもいるらしいが、街で見ることになるのは主にこの4タイプらしい。


「武器を携行しているのはアークエンジェルとパワーだが、アークエンジェルは、その多くがイデアのない、ただのシステムの、一部だ。監視カメラや警備システムに、バレないように、死角から、イデアのないアークエンジェルを襲う分には、デメリットはあまりない」


 アークエンジェル、それにエンジェルもお掃除ロボットとか、ドローンとかに近いようだ。それくらい数が普及している。ちなみにエントランスにいたのはアークエンジェルだったらしい。デッドマンズハンドが襲うのはそのアークエンジェルが基本だった。そう、最初はそうだった。


「組織が大きくなっていくと、大きな利益が必要になる。それで危険を犯して、パワーを襲うこともあった。私に賞金が掛けられたのは、その頃だ。プリンシパリティや、パワーには、必ずイデアがある。借金で首が回らなくなった人間、賞金首の人間のだ」


 あぁ、クラーケンが語っていたのはこれか。元人間のイデアが用いられているらしい。

 そしてこの辺を殺す、というか壊すと回収されたヘイローの記憶情報から実行犯が特定され、賞金が掛けられる。


 賞金首は基本的に3種類しかいない。

 天使に対する借金が莫大になった場合。度重なる死でリプレースメント費用が嵩んでそれが返せなくなった人間が多いという。


 次に天使から危険だと判断された場合。それは例えば多くの人間や妖精(と言っても賞金の掛かっていない普通の人々だ)を死に追いやったり、街の重要施設を破壊したり、時には誰一人殺さなくとも、何ひとつ壊さなくとも、政治的、思想的に危険と判断されて賞金をかけられる場合もある。街に多くあるマフィア的組織の上の方の人物に多いとか。


 それはそうだろう。立場のある人間は自分で殺したり壊したりしなくても、言葉ひとつ、指先ひとつで済むのだから。


 そして最後に天使ではなく、人間や妖精の組織が賞金を掛ける場合だ。今のロビンも自分が元いた組織から賞金が掛けられている。


「私はほとんど死んだことは、ない。組織を立ち上げた当初に数えるほどだ。だから天使に借金はない。有るのは掛けられた賞金だけだ」


 ロビンの話し方は途切れ途切れで病人を連想させた。テーブルの上の水を取り、一口飲む。椅子を勧められたが座らない。武器を握りしめたまま続きを促す。


「仲間が増え、周囲の組織と争いが増え、それに勝利する度に強く、大きな組織となり、そして賞金額は膨れ上がり、今では40,000,000GHNにもなった」


 あのPKerと比べると、その賞金額の大きさに驚く。同時に思わず握りしめた武器に力がこもった。これはそういうイベントなのか?

Thank you for the 200 points!

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