第10話 アルマスタジアム2
とりあえずアマチュアナイフで良いか。
適当に進んでいくと行く手の先にネズミが現れてこちらへと走り寄ってくる。
なるほど。明るいところで見るとこんな感じか。はっきり言ってかわいくはない。絶妙にキモい。
一刀で斬り捨てる。
その次はカラスだった。その次はまたネズミ。
なるほど、チュートリアルって感じだ。
すぐに飛びかかってくるネズミと少し距離を置いて様子を見てくるカラス。
銃で狙いにくく近接での咄嗟の対応を迫ってくるネズミと銃で狙えば簡単ですよと言わんばかりのカラス。
ここで遊んでれば大体の対応の仕方というのが分かるだろう。
まあ私はどっちも一刀だけど。
草刈り鎌と赤錆を拾いながら進んでいくと、でっかいカボチャが生えていた。
スーパーで売ってるようなやつじゃなく、ハロウィンの時に重さ当てクイズで飾られるようなやつだ。でかい。
どれどれと近づいて行くとカボチャに1羽のカラスがとまった。
あれ?違ったのかな?と思った瞬間、カボチャが割れて、割れ目から炎が吹き出す。カラスは焼き尽くされてポトリと手にしていたナイフを落とした。
見ている間にもずるずると音を立てて蔦が絡まり合い、燃え盛るカボチャ頭の人型を取り、カラスのナイフを手らしきそれで拾ってこちらへと歩き出した。
インフェルノトーチ、通称案山子だ。
とりあえずどういう動きをするのか見ていると、頭を後ろに下げ、そして押し出すように前へ、それだけで頭から火球が生じて飛んでくる。
大きさは拳大ほど。速さはそんなに早くなく、ゆるやかな弧を描いて飛来する。
やや大袈裟に避けて地面に着弾したそれを確認しても、別に爆発はしなかった。
うーん、これなら投石と変わらないのでは。
続け様に2発、3発と飛ばしてくる。
こんなにばら撒いたら火事になるのでは?って見れば心配しなくとも、地面に落ちるとしばらくしたら火は消えた。
遠距離攻撃してくる敵に対応するための訓練かな。
何発か撃つと隙ができるし、そこを狙って近づかなくてもこのゲームには銃もある。近接、遠距離、どちらの練習にもちょうど良い。
ならばとアマチュアナイフを仕舞って銃を出して即座に撃ち放つと生意気にも躱された。
え?マジか。
あぁ、だから案山子はちょっと厄介だと。
ネズミ、カラスと違って明確に回避してくると。多分近づくと手にしたナイフで対処してくるんだろうな。
何発か躱されつつ、それでもどう狙えば良いか要領が分かってきて、火球を避けつつなんとか銃だけで倒せた。
店のターゲットを狙っているよりは確かに良い練習になる。
さて、ドロップ品は、と確認する前に振り向いた。
「何か用です?」
「んー、お姉さん、つれないからさあ、無理にでも遊んでもらおうと思ってね」
入り口近くで話しかけてきた男ふたりだった。
装備が変わっていて、SFっぽいといえばSFっぽい、見ようによってはちょっと変身ヒーローチックなアーマーに身を包んでいた。
顔の部分には顔隠し用のホログラムでドクロが映し出されている。
さらに変わっているのは名前だ。
頭の上に浮かぶそれはさっきは普通だったのに、今は赤く、そして隣にそれぞれ1,260,000GHN、1,640,000GHNの表示。
どうやってか偽装していたそれを、今はあえて隠していないと。
賞金首、つまりはPKerだ。
「邪魔なんで、どっか行ってもらえます?」
「ばーか、名前見て分かれよ。今からお前で遊んでやるって言ってるんだよ」
はあ、なんで目をつけられたんだか。
めんどくさい。
「ちなみになんで私なんです?他にもいっぱい人がいるのに」
純粋に疑問だったので聞いてみたら顔を見合わせて笑い出す。
「たまにいるんだよな。何にも知らない初心者がよ。なんかみんな首から笛を下げてるなって思わなかったか?」
指を輪っかにして調べるのに、NPCならともかく、露骨にその辺に歩いている人をやるのもどうかと思ったのでやらなかった。
あれの有無がどうやら理由だったらしい。
思い至らない私を馬鹿にするように笑う。
「あれはな、吹くと天使に助けを呼ぶことができる救済アイテムだよ。俺らみたいな人間に襲われた時用のな」
ははーん、初心者をPKerから守るための措置か。嫌ならパーティー外の戦力を呼べると。そしてそれすら知らない初心者をコイツらは狙っている訳だ。
なるほど。
私は見た目は防御力皆無のコートを着て、しかも案山子相手に景気良く銃弾をばら撒いている初心者にしか思えない相手だと。
「はあ、なるほどね。ついでにもうひとつ聞きたいんだけど、賞金首って死んだら天使にされちゃうんじゃなかったっけ?それで良いの?」
「おー、よく知ってましたねー。はははははっ、ばーか。まだこれくらいの賞金でそうはならねえよ。天使にされるには猶予があるんだよ」
なるほどなるほど。何かしら抜け道があるのか。賞金首=天使にされるコースではないと。それは良いことを聞いた。
いや、今のところ借金する気はないし、死んでもこちらはただで復活できる。
ただ、こんなの相手に例えアマチュアナイフであっても奪われるのは我慢がならない。このゲームではお互いが納得ずくのPvPで賭けたりしなければすべてのアイテムが奪われたりはしない。
PKされるとゲヘナと装備品のいずれか、大抵は武器が奪われる。ストレージに入れておけば奪われたくないアイテムは守れる。フォックスレインと同じってことは調べてある。
まあ、いけるだろう。スキルも全部温存してある。
「まあ、だいたいわかった。じゃあ、お望み通り、遊んであげるよ」
そう言った瞬間だった。
頭に衝撃。
魔法、じゃないから普通にこれは狙撃だ。
ふたり組だと思わせて、ひとり伏せていたのか。
爆笑するふたり。
これで私が死んだと思ったのか。
残念。カニを狩ってレベルも上がってる。とはいえヘッドショットでクリティカルだったのか、HP半分持っていかれた。くそ、そこそこ良い銃使ってるのか。
即座に蒔かれた者とカインの末裔発動。回復してる暇なんてないので、脇の草むらへと飛び込む。
「ばか!まだ死んでねえぞ!」
「くそっ」
見たぞ。ふたりのうちの片割れが文句を言って後ろに視線を向けていたのを。見るべきは私だろう。文句を言うのに隠れて狙ってた仲間の方を見てどうする。その先へと全力で走ると、大きめの岩、その上から覗く頭があった。ふたりと同じくドクロのホロで顔を隠している。
コイツか。
銃を仕舞って草刈り鎌を呼び出し、即、羊飼いから王へで投擲。
追うようにストロベリーシェイクを呼び出し駆け寄る。
さすがにそこそこレベルが高いのか、草刈り鎌くらいでは死なない。それでも白い霧は結構出た。どこかで投擲用にもっと良い武器探そう。ゲヘナが掛からないと尚良い。
そう思いながら岩裏に隠れていた長い狙撃銃らしきそれを持った相手、慌てて銃口を向けようとしてきたその首に斬撃を見舞う。それだけで首から上下で分かたれた。飛んだ頭はすぐに白い霧に変じて、残った身体からも白い霧が大量に出ている。
モンスター相手でも霧みたいな効果表現は出ていた。単なるダメージエフェクトだと思っていたけど、これがエーテルに変化するって奴か。基本的にフルダイブゲームで流血表現はほぼほぼNGなので、フォックスレインでも似たようなエフェクトだったけど、あっちでは特にこういう説明はなかったので、なんかわざわざエフェクトひとつにも設定があるのがちょっと面白い。
確認するまでもなく頭欠状態はHP全損間違いなしなので、すぐに残ったふたりを見る。
私を追ってか、仲間を庇おうとしてか、こちらへ向かっていたその足が止まる。
「なんだよ!初心者じゃねえのかよ!?」
その目は私の持つ剣に向いていた。
ああ、やっぱり見た目でそういうの分かるんだ。
これが初心者が持つような代物じゃないって。
もうひとりが即座に拳銃をこちらに向けた瞬間に反応する。
要はカニのレーザーと同じだ。しかもカニと違ってこっちは当たる範囲は指先ひとつ分。
相手が撃った瞬間にはもうこちらは動いている。
ん?なんか今の弾、曲がらなかった?
完全に躱したつもりが掠っている。
これがCW弾か。
そのまま止まらずに走ると言うよりはジグザグに飛び跳ねるようにして接近。
何度も撃たれたけど今度は掠りもしなかった。予想通り速射系の魔法を躱すより範囲が狭い分、簡単だ。これならわざわざ防ぐスキルは使うまでもない。
突き出すようにしてこちらへ向け直そうとした銃、それを持つ腕に斬撃を見舞うと腕が落ちた。
うーん、弱いな。実際、この人たちどらくらいなんだろう?レベル50くらいはいってるのかな?まさか30くらい?咄嗟の対応でスキルを使っている素振りもない。なんかある程度慣れてはいるけど、素人っぽいな。
初心者狩りなんてせこいことやってる時点でそこまでレベルは高くないのだろう。こんなことしてないでカニ狩りにでも行け。そして何も出来ずに死んでこい。
もうひとりはフォローすることなくリキッドの剣を私にただ向けているだけで、スキルを使う気配は全くない。唖然として腕を切り落とされた相方を見て固まっていた。完全にドン引きしている目だ。その目が私へと向く。
「ひっ」
対人戦の基本をご存知でない?PKerなんてしているのに?
フルダイブゲームでビビる、焦る、思考停止の諦めは即死亡ですよ。
考えろ。意思することを止めるな。
でたらめでも良いから動かせ。
まあそれも手癖みたいにお定まりの動きだと、熟練プレーヤーには簡単に見切られるから最低でもパターンを組んでバラさないとだけど。
遠慮なくそちらに軽やかにステップ、そのまま斬りつける。
一房の髪発動。
特に首を狙ったわけでもないのにあっさりと倒れた。
あれ?もしかして思った以上にストロベリーシェイクって?
ふざけた名前の割に?切れ味良すぎない?
単なるおふざけではなく、一期一振の誤訳というかパロディは伊達ではないと。
腕を無くしてパクパクと口を動かしている最後のひとりに剣を振り下ろす前に、一息吐いた。
意識して弛緩する。
速度に必要なのは身体から硬さを取り除く事だ。
身体はただの通過点。
畢竟!
はいはい。
分かってましたよ。
なんか、あ、これ違うな、と思って放った斬撃はただの普通のひと振りだった。それでも相手は倒れて動かなくなった。
やがて復活猶予時間が過ぎたのか、アバターというか、リプレースメントか。細かな粒子、白い霧になって光の輪へと変じると、ふたつの光輪は上に向かって飛翔するような動きを見せて消え去った。
なんか途中からかわいそうになってしまった。
これではこっちがPKerみたいじゃない。
3人を倒したことでその賞金額と所持していたゲヘナが加算された。5,230,000GHNか。隠れていたスナイパーが一番賞金額が高額だったらしい。
他にスナイパーが使っていた狙撃銃とこちらを撃ってきた男の使ってたと思しき銃、それに使われることのなかったもうひとりの男がただ握っていたリキッドの剣も手に入った。
剣はストロベリーシェイクより弱いし特に必要ない。イベントアイテムならともかく、その辺で野良で奪った武器を使うのも趣味じゃないから換金だ。
銃も換金かな。後でパイロンに売りに行こう。狙撃はスタイルじゃない。拳銃の方は私の物よりイデアスコアが高いけど、別にストロベリーシェイクほどではないし、これくらいのものは店で売っていた。不要。
相手がPKerだったから、こちらの名前もクリーンなままだ。
期せずしてまたお小遣いが入ってしまった。
と、思い出した。
あの案山子のドロップ品を拾っていない。
そう思って戻ると、もうそこにはドロップ品は無くなっていた。
……たまたま通りかかった誰かに持っていかれたのか、時間経過で消えたのか。
PKerに襲われたことよりも、そっちの方がショックだった。
この後めちゃくちゃ案山子狩りして発散した。
なお、案山子のドロップ品は低位の魔法結晶で魔法使いなら使い道あるけど、私には不要の物だったのでこれも売却だ。




