第7話 ゴブリンクロウ
フラグ条件は購入金額だったのか、言ってた謎の組織と関わり合いがないことなのか。なんにせよ、おじさんのフラグはたったらしい。
あれから名乗ってまでくれた。
名前はガイル。地元では「鉄塔の」として有名らしい。
おじさんの武勇伝は知りたければ勝手にあとで調べるのでそれは別に良い。
大家に当てがない訳じゃないけど、紹介するにはちょっとした依頼を受けてくれと言われた。
お使いクエスト発生だ。
案内された建物の外側の階段を登っていって屋上へ向かう。
現場に到着する前に、ステータスとスキルを再確認した。
最初に気がついたのはリプレースメントの適合率だ。これが72%まで上がっていた。別に戦闘したわけでもなく、ただ歩き回っただけで、だ。時間で上がったということは、これってもしかして死んでからの復活のステータスダウンと一緒?
もちろん、私はまだここに来て、一度も死んではいない。
フォックスレインからこちらの肉体に移ってきただけだ。
クラーケンもすぐに100%になる的な事を言っていた。
死んでリプレースメントを乗り換える度に起こるとしたら、単純にデスペナルティだろう。
例の謎ステータス、スケルトンだのミミックだのの数値に変化はないから、システム内部的に本調子の7割ってことだろうか。
経験値は当然ながらゼロだ。
そしてレベルはない。あるのは私自身のイデアスコアだ。
イデアスコア515。
そしてこれは武器防具を付け替えるだけでも変わる。
つまりイデアスコア=レベルでは無い。
レベルがないってそんなことある?
調べてみると、これについては早速考証している人がいて、謎ステータスが職業+レベルなんじゃないのか?って呟いてる人がいた。
そう考えると、謎ステータスの最高値、全部を10にしたらケルベロスヘッズの人間種の最初のレベルキャップ90と同値になる。それなら私の現在レベルは46?
やっぱりちょっと低くない?
いや、フォックスレインでカンストレベルでも、ここではルーキーだ。いきなりカンストレベルでは楽しめないコンテンツもあるはずだろうし、レベル1から46まで上げるにも相当な時間がかかるのは間違いない。
それをスキップできるのだから感謝するべきか。
なによりこのゲームにあった育て方をする必要がある。
フォックスレインとは別の最適解を探すにはあまり高くないというのは配慮なのだろう。
そして現状、職業というのも確認できない。
多くのゲームには普通、職業があって、例えば騎士なら剣技、魔法使いなら魔法のように必殺技のような特技を覚えるためには専用の職業に就く必要がある。それが見当たらないし、ここまで誰からも言及がない。
それらしいのは称号というやつだ。
現状、称号はNO Titleになっている。
スキルの方も見てみると、なんとなく見覚えというか、使い覚えのあるものがある。その中から現状で使えそうなのをピックアップした。
スケルトンとかも職業レベルだと考えると、確かにミミックに紐づいてそうなスキルとかゲイザーに紐づいてそうなスキルとかがある。
この考察はあながち間違っていないのでは?
スキルの使い方にはいろいろあって、簡単なのはスキル名を口にする音声認識だ。言葉にした瞬間にアバターが勝手に動き出すので誤爆、誤動作がない。その代わり名前はきちんと覚えておく必要があるのは言うまでもない。
あとはジェスチャー、つまり動作で発動するように設定することもできる。腕を振り上げてから垂直ジャンプすると発動して、斜め下に向かって謎推進力が発生して大ダメージの飛び蹴りが発動するようなものだ。
そして最後が思考操作だ。これはスキルの内容をしっかりと把握していれば音声もジェスチャーもなく、ただ使うスキルを意識するだけで良い。
最初、どういうスキルか分からないので音声で使ってアバターがどう動くのかを覚え、それからジェスチャーなり思考なりで戦闘に織り交ぜやすいように自分なりに使いこなす必要がある。
とりあえず4つほどピックアップして名前を覚えた。効果がフォックスレインとほぼ同じなので動作チェックは不要だ。
むしろ手の中にある銃の方が動作チェックしたいくらいだった。
未だ手に馴染まないそれを握りなおして屋上へと出た。
エアコンの室外機と水道の貯水タンク、それに外周を覆う柵、それ以外には何もないスペースがある、良くある雑居ビルの屋上といった風情だった。
そこにギャギャというか、グァグァというか、人のものではない叫び声が響く。
タンクの上に1羽、柵の上にも2羽、そしてスペースにも1羽の鳥らしきそれが威嚇なのか私へと叫んでいる。
これが小鬼鴉か。
鴉の名前が示すように、確かにそれは一見するとカラスのようだ。 ただし、大きさは現実のカラスの2倍以上はありそうだった。
体色はやや緑がかった黒。
頭はスケルトンのように飴色の頭蓋骨に覆われている。頭だけ骨と肉が裏返ったようで、真っ黒な眼窩の中に瞳があるのかどうかも分からない。その頭蓋骨の下、首には長い髪の毛が生えていて、そして2本の足とは別に羽根の下、胸のあたりに一対の腕がだらりと下がっていた。
炭化したみたいに光を反射しない黒く細い腕、その細さに見合わず大きな手、いずれにも羽毛はない。骨ばっていて、血肉を感じさせないミイラのようであり、その手にはどの個体にも人の手になる武器が握られていた。
なかなかに不気味だ。
この街のどこでも見かけられる、ケルベロスヘッズにおける最弱層のモンスター。
タンクの上の1羽が大きく羽を広げて、一際大きく叫んだ。
戦闘開始だ。
手にしていた銃をタンクの上の1羽へと向けて即座に3発撃つ。
自ら的を大きくしてくれたようなものだ。
私の腕でも吸い込まれるように3発とも命中する。
2発は胸に、1発は羽根に。
思ったよりもタフいのか、それともこの手の武器が豆鉄砲なのか、絶命しない。
続けて撃つよりも前に2羽が飛びかかってきていた。
腕があるせいなのか、こいつらは高く長く飛ぶ事は出来ないらしい。
バサバサと大きな羽音と最初の1羽の手に握られたナイフが迫る。
単なる猛禽類と違うのは、コイツらは手にする武器をきちんと使って戦う。
狙いは私の首か。
ナイフが届く前に私はもう銃を向けているので、3発続けて撃つ。
ほとんど銃を突きつけて撃つような距離だ。
外すはずがない。
頭に1発、胸に2発が命中して、鈍色の、薄く輝く霧のようになって消える。
ドロップしたのは手にしていたナイフか。
ヘッドショットならクリティカル判定かな。1羽目の攻撃はどれくらいダメージ食うのか知るのに貰うつもりでいた。倒せるとは思ってなかったのでラッキーだった。
2羽目の飛びつきは食らうには余裕がありすぎたので伏せて躱した。連携にしてはつたなく、そして動きもそれほど機敏ではない。
ダメージチェックはまた今度にしよう。少しはクライアントに良いところを見せておくことにした。
シリンダーから空になった薬莢をはずして、ポケットに突っ込んでたスピードローダーで6発まとめて装填する。さっき練習したから使い方もバッチリだ。
なるほど。何も考えないで突っ込んでくるモンスター相手なら、使えるか。
中距離どころか近距離だ。
銃弾でジャブ、ストレート、アッパーだ。
最初の1羽が羽根に当たったせいか、飛び立てずにタンクから落ちてバサバサしていたので、3発連写すると羽根に当たった1発目で鈍色の霧を残して消える。
最低4発ぶちこめばHPゼロかな。
あと2羽。
振り返って目にするよりも先に羽音と叫び声で距離を判断して前転して飛びつきを回避。私を飛び越して行った相手を確認しながら排莢して再装填、すぐに6発全部狙って撃つと2発は外れて4発が命中して消える。
排莢するより先に最後の1羽の姿を探すと、柵の上に飛び乗って、そこからちらりとこちらに頭を向けたところだった。
逃げる気だ。
再装填は間に合わない。その間に柵の向こうに消えるだろう。
さっきの倒したカラスのナイフがそこに。
思った時には銃を手放して飛びついていた。
そのまま事前にこの辺は使えそうだと当たりをつけていたスキルを発動する。
暗室殺視。
発動した瞬間、視界が極端に狭く、暗くなり、対照のカラスだけがはっきりと浮かび上がる。その動きが極端に遅くなったように感じた。
カラスが羽を広げる。
今にも飛び立とうとしている。
飛びついたナイフが着いた手の下にある。
これを拾っても装備している訳じゃないから、その辺の石を拾って投げるようなものだ。手にあるナイフはただのオブジェクト。この辺りはフォックスレインと共通仕様だ。
それを武器として扱えるスキルがあった。
羊飼いから王へを発動。
構える事なく握り込んだナイフを振り上げるようにして放つ。
さらにもうひとつ試してみた。
箱に残りし希望発動。
視界を狭めるマイナス効果の代わりに命中補正とクリティカル率アップ、さらに思考と動作速度にプラス補正のある暗室殺視、そして羊飼いから王への効果で攻撃力強化と投擲したオブジェクトの武器属性追加、マイナス効果として破壊属性がつくので命中したナイフはカラスの頭に突き立った瞬間ガラスのように割れて消えた。
そしてカラスも遅れて鈍色の霧になって消え、手にしていたナイフが落ちた。
狭い視界の中、銃を拾って再装填して屋上を見回す。
他には何もいないようだ。
難儀しながら撃たずに排莢した3発の弾丸を拾って、落ちていたドロップ品のナイフも拾った。
1本は確かめもせず投げて破壊したので、残っていたのは3本だ。
小鬼鴉のドロップ品にはちゃんとレアドロップもあるらしい。
1本目と2本目に拾ったのはハズレのようで、どちらも赤錆という名前の文字通り錆びたナイフだった。イデアスコアは今まで見た武器の中でぶっちぎりの最低でギリギリ2桁だった。ストロベリーシェイクが3桁なことを考えると本当に石ころとかその辺で鉄パイプでも拾った方がマシなのかもしれない。
そして最後の1本だ。
箱に残りし希望はレアドロップの獲得率の向上だ。
確定でレアドロを引けるわけではない。
しかしながら最後の1本はさっきの2本とは明らかに見た目が違っていた。
ようやく暗室殺視の効果が切れて視界が戻ったので、まじまじと観察する。
名はアマチュアナイフ。
……アマチュアナイフ?
素人ナイフ?
なんだこれ。
形状は片刃で剣ってよりは刀に近い。
反りはなく、刃の無い方、棟に掘りが、鎬筋が入っている。
鍔はなく、白木の柄のシンプルなデザインの短刀だった。
店で売っていたソリッドの武器の中でも一番高かったのと同等のイデアスコアがある。一旦ストレージに入れて装備登録、装備呼び出しの鍵開けジェスチャーにも登録した。右に感覚的に1段階回すとストロベリーシェイク、2段階回すとアマチュアナイフ、さらに回すと銃を呼び出すように登録して、さっそくアマチュアナイフを呼び出して握る。
長さは30cmに満たないくらいか。
軽く振ってみて、悪くなさそうだと思えた。
なにしろ最初のレアドロ品だ。
ちょっと使ってみたい。
後から追加でカラスが飛んでくるなんてことはなく、請けていた依頼は屋上の害獣駆除だったので、これで無事に依頼完了だ。
なんていうか、チュートリアルも良いところの依頼だった。依頼名からして多分この依頼は街の至る所で最初に請けられるようになっているのかもしれない。
元来た階段を降りて店へと戻った。
「ご苦労さん。報酬だ」
「ありがとう……まあ、こんなものか」
報酬は3,000GHNだった。使った弾代を考えればとりあえずプラス収支にはなった。特に最下層のモンスターのレアドロップなんて、武器屋の店主にとっては珍しくもなんともないのか、何も突っ込まれなかった。
「見てたがただのバカじゃない事は分かった。知らんが奥行きもあるみたいだしな」
「銃だけで倒したかったんだけどね」
「今日握ったばっかりで何言ってやがる。ちなみに剣を握ってたらどうしてたんだ?」
「それは剣なんだから近づいてきたところをバサバサって切って、間合いを詰めてバサバサって切って終わりじゃない?」
「最後に使った攻撃スキルはみっつか?」
「いや、ふたつだけど」
「そうか。なるほどな」
なにが、なるほどな、なんだか。
あ、カメラあるな、と思ってたので見られてるとは思っていたので、とりあえずスキルはケチってみた。チュートリアルモンスター御三家のひとつってことは知っていた。誰かの実況動画でも見ていたので、思っていたよりもタフいのにビックリした。実況者の銃は私よりもイデアスコアが高かったのか。
やっぱりもうちょっと強い銃にする?
いや、今回は銃メインにしたけど、私にとっては銃はサブだ。その内、何か良いのが手に入るチャンスがあるかもしれないし、今、散財しなくても良いだろう。
買うにしても値段から考えると、どうも初期装備系統の銃しか並んでなかった気がする。もっと良いのを買うには条件解除が必要らしい。
「それじゃあひとり、お前の言う土地勘のある世話係って奴に話をしてやる。そいつが必ずしも世話してくれるかは知らんがな」
「助かるよ。ありがとう」
こっちは条件達成したのかな?
確約はしてくれないようで、ひとまず「こういう奴がいてそいつのために部屋を用意できるか」と、聞いてみるとのことだ。即座の確認は取れないようで、時間をくれと言われた。
連絡先を教わったので、登録する。
まだゲーム内の時間で昼過ぎだ。
それならばと、もうちょっと性能確認をしたい。
「どうせならもう少し観光案内してよ?」
「うちは武器屋だ。いい加減覚えろ」
ぶちぶち言いながらも結局は教えてくれた。
やっぱりツンデレか?
改稿=小鬼鴉の消えるエフェクトを黒から鈍色に変更。




