第6話 パイロン2
「そういうんじゃなくて、ほら、なんかスコープ?みたいな狙いやすくなる装置的な……」
「ああ、ダットサイトか。待ってろ」
「あ、ついでにホルスター?だっけ?それも!」
「……待ってろ」
あまりにもこちらが物を知らなすぎたのが逆に功を奏したのか、なんか微妙に優しくなった?
カウンターから離れて奥にあった棚から頼んだふたつを持ってきて、これも静かに置いた。
「通常弾はこの箱ごともらうよ。試し撃ちとかできないの?」
「奥にシューティングレンジがある。銃を買うなら使わせてやる」
「ここまで来て、じゃあいいや、また明日とか言わないでしょ」
「全部で160,800GHNだ」
「おぉ、なかなかだね……はい」
一瞬、まけてよ、と言いかけてやめた。恋愛ゲームと一緒だ。
NPCといえども、高度なAIによって制御されている。イベントフラグのひとつに好感度がある可能性は否定できない。
髭モジャドレッドおじさんの好感度を稼ぐ、というのもなかなかな字面だが。
「毎度。せいぜい自分の膝を撃って引退とかならないように気をつけるんだな」
なんか最初は皮肉屋と思ったけど、だんだん、ただのツンデレなんじゃと思えてきた。もう少し絡んでみようかなって次の話題を探しているうちにシューティングレンジ、つまり射撃場に案内されてツンデレおじさんは店の方に消えてしまった。
……練習するか。5つあるブースの真ん中に入った。
簡素な台があって両隣に間仕切り、前方には黒い人型のシルエットに何重かに等間隔で白い枠が描かれているターゲットが天井からレールで吊り下げられている。
ターゲットの距離は手元のスイッチで動かせた。選べる距離は最短で12m、最長で25mだ。
とりあえず最短に設定した。
銃のシリンダーを開けてそこに弾を1発ずつ込める。
初めてなのでこれだけでもなんか楽しい。
すべての穴に弾を込めたら閉じてまっすぐ構えた。
ハンマーを起こして引き金を引く。
思ったよりは小さな反動と共に思ったよりは大きな音が響いた。
どれどれ……一応当たった。狙った胴体の真ん中からはだいぶ離れていた。
ちょっと音にびっくりしたせいかもしれない。
ゲームだからなのか、耳栓をするほどではない。
今度はハンマーを起こさずに引き金を引くと、やや重い。
ハンマーを起こす力が追加されている分、重くなっているのかもしれない。
ただゲームアバターなので、当然筋力は強化されている。
誤差程度だ。
今度はさっきよりは中心に近づいたものの、狙ったところに弾が飛んでいかない。
ナイフやらクナイやらなら外さないのに。
元々忍者系+侍系のキャラクリエイトで長いこと遊んでいたのだ。
投擲はお手のものだ。
その後も続けて撃っては弾を込めて狙う。
最初はそれだけで楽しかったけど、距離を変えて試す内に、だんだんと精密に狙えないことが若干のストレスになる。
それに弾込めだ。
正直、めんどくさい。
え、これホントにみんなやってるの?めんどくさく無い?
使い捨てのナイフをストレージに山盛りにした方が手っ取り早いのでは?
弾込めしてる間は攻撃できないって、隙でかすぎでは?
色々と考えている内に、これをメインで使うことはあまり考えられなくなった。
むしろ自分には装弾数は極端に少なくて、極論、1発とか2発とかでも良いから投擲よりも高威力になるものをスキルのかわりに使う方が向いているかもしれない。
弾数を増やす方向は最終的に天使にならないと100発200発単位の銃は扱えないようなので、そっちはなしだ。どうやら弾込め、リロードもストレージに仕舞って再度呼び戻すと自動的に装填されるスキルがあるらしい。これは天使にならなくても覚えられるようだ。
撃ち方、狙い方を調べたりしながらあれこれしてたらあっという間に購入した50発はなくなった。それを監視カメラか、それとも入り口のガラス窓から直接見てたのか、タイミングよくツンデレおじさんが来た。
「向いてないんじゃないか?お前」
「そうだね。私もそう思う」
「買取は購入金額の30%だ。返品はきかない」
「これはこれで気に入ったから売らないよ。実戦で使うかどうかは別にして。それとスピードローダー?って言うの?なんか簡単に弾込められる奴あるんでしょ。それも売ってちょうだい。みっつ」
「毎度。弾は?」
「100発で」
「正直、無駄遣いだと思うぞ。最初に見たのが刀剣って事はそっちがメインなんだろう?どっから来たんだか知らんが」
「まあね。故郷じゃこういうのはなかったからね」
「こっちには来たばっかりか」
「そうだね。本当についさっきだよ」
「シャッフルとかツァラトゥストラのまわしもんじゃねえんだな?」
「シャッフル?となんだって?」
「お前、妖精なのか?目はそれっぽいし、そのばかみてえなおっぱいしてる奴も見た事ねえが」
要は他のギャングか何かかな?
聞き覚えのない単語を聞き返してもそれは無視された。
こっちの反応を見たいだけなのだろう。
瞳がバイザーのせいでお母様化しているのを見て、人間に別の何かが混ざっているという妖精の特徴のそれと思ったのか。ってか、ばかみたいとはなんだ。私は別にホルスタインとミックスされたわけじゃ無い。確かにケルベロスヘッズでは規格外だけど。
それ以外は普通の人間と一緒だ。
そうか。ヒラエスでコンバートすると自動的に種族分類は妖精になる。見た目が普通の人間と一緒でも、だ。
今まで混ざっているかどうかで判断してきていたのが、ヒラエス実装でそうとは限らなくなっているのか。これ、なんでシステム的に人間にしなかったんだろう?別に人間でも良かったのでは?
「妖精だね。市民ID見る?」
「いや、いい。IDは偽造、偽装ができるからな。で、どっから来たって?」
クラーケンから受け取ったIDには種族分類もあり、そこには妖精と表示されている。いい、とは言われたけど、私は自分のIDを見せた。
カードを持つようなジェスチャーで親指と曲げた人差し指の間にステータスとかを呼び出したように、そこにカードサイズのIDが現れる。
そこには出身地も記載されていた。
「カドメイア?知らねえな」
「もしカドメイア産の武器とかアイテムが出てきたら教えてよ。高くても買うから。逆に安物でもさ」
「悪いが俺にも売ってやる優先順位がある。それが良いもんならお前よりも売ってやりたい奴らがいる」
「その首の刺青のお仲間さんたち?」
目つきが冷えたものになった。
組んでいた手が解かれる。
構えはしなかった。武器を抜いたわけでも無い。
ただ、次からの反応次第では戦闘になりそうだった。
「なんでそう思う?」
「いや、さっきちょっと調べたらなんかギャングの証だって」
「ギャングの店だって分かってて入ったのか?」
「いや、それは違うよ。入ってから気になってアラクネストで調べた」
「……いいか、俺たちはギャングじゃねえ。俺たちは連中と違って、自分たちの縄張りを守っているだけだ」
「ケージ?」
「あぶねえ連中から身を守る為につくった檻だ。連中は檻には入れられない。だから俺たちは自ら檻に入った。このメイデンストリートというな」
「それがさっきのシャッフルとかなんとかってギャング?」
「連中も自分たちをギャングだなんて思っちゃいないがな。……お前、マジでなんなんだ?ただの新入りにしちゃあ物腰が堂々としてやがる。それなのに銃の扱いはド素人、バカみたいなフリしてるのか、ただのバカなのか、どっちだ?」
「なんなんだ、って言われてもなあ。今のところはほとんどただの観光客だよ。地元は滅んじゃったから、こっちに根を下ろさないとだけどね」
そこまで言うと、ついにツンデレおじさんが笑った。声をあげてだ。
「はっはっは!観光客か!なるほどね。確かにそれなら納得だ。ウチは観光案内所の看板は出してないぞ。レビューは見なかったのか?」
「見たよ。なんでこんな星で潰れてないんだろって思って興味本位で入ったら、別に店自体は普通だったから、じゃあここで良いかって」
「なら観光客、教えてやろう。星が異様に低い店は身内以外お断りって意味だ。別にウチに限った話じゃ無い。そうやって物見遊山で首を突っ込んでたらその内、天使に差し押さえられるぞ」
「そう。観光案内ありがとう。案内ついでに教えてよ。部屋探してるんだけど、何か良い当てはない?」
「ホテルならいくらでもマップに出てんだろ」
「泊まる部屋はもうある。そうじゃなくて借りたいんだけど」
「それこそ蜘蛛の巣で調べりゃ」
「候補が多すぎて、どれが良いのか分からない。土地勘のある世話係が欲しいの」
「それをよく知らないギャングに頼むのか?」
「ギャングじゃないんでしょ?要は自治組織?互助会?みたいなもんなんでしょ?」
なんだかんだで、このおじさんのことをちょっと気に入っていた。身内になる気は今の所ないけど。
「違……わないか。そうだな。そうだ。俺たちは確かにそうだった。敵が多くなりすぎたんだな……」
「いや、いいから。おじさんの感傷は。そういう会話は行きつけのバーかクラブの馴染みのお姉さんにやって。それで?部屋は?あるの?誰か心当たりないの?」
「お前、やっぱりバカなんだな。そう思えば俺も腹が立たなくなった。そうだな……」




