第6話 パイロン1
近所の武器屋を調べると2軒あった。
1軒は星1.7、もう1軒は星4.1だった。
どちらを選ぶかは明らかだ。
それなのについ星1.7を見たくなって行ってしまった。
別に外観からして窓ガラスが割れているとか、中からガラの悪い怒鳴り声が聞こえてくるということはなかった。壁にスプレーアートくらいはさすがにあるでしょ、と思ったのにそれもない。
低評価理由は「値下げしてくれない」「とにかく店主が無愛想」「ギャングの巣窟」という評価がある一方で「別にふつうのお店」「掘り出し物はないけど、消耗品の補充には十分」とかもあり、たまたま嫌な思いをした客がそれを投げつけて評価が下がっていて、それを見てただ否定したいから評価入れたけど、別に絶賛するほど良くもないから平均より低くなっているように見えた。
この評価は誰がしているんだろう?プレイヤーだけにしては評価数が多い。NPC同士で会話や物の売り買いをしてたまに揉めて星を入れたりをしているのだろうか?それとも管理者から、この店はこうあれ、とされて絶対評価が入ってしまっているのだろうか?
怪しい、と思った。
現実でもそうだけれども、本当に低い星評価のお店というのはほとんどない。
星評価のほとんどは自分にとってどうであったか、がすべてだ。
結構ありがちなのが、常連を優遇していて、自分は冷遇されたと感じたから低評価というパターンで、つまり常連にとっては確かに良いお店だったりする。
全員が全員嫌な思いをするお店、というのはそうそうない。
ないことはないのだろうけど、そういうお店はまず潰れていくものだから。
それがここまで低評価なのは、あえてプレイヤーを遠ざけようとしているからではないか?
隠しイベントがあるのでは?
店の名前はPylonだった。
現実の街で見かける三角形というか円錐のアレを思い浮かべて変な名前と思ったけど、どうやら鉄塔を指しているらしい。雑居ビルの1階の店の入り口にはそのマークがあった。この名前で武器屋とは思うまい。
ただ奇妙なのはその入り口にロープが掛けてあった。
先が輪になったロープだ。
これがスイングドアの大昔の西部劇じみたお店なら、ああ、カウボーイのあれねとでも思ったかもしれない。
現代的な世界の入り口にそれが掛けられ、しかも鉄塔という店のイメージに照らし合わせて想像するのは首吊り用のロープだ。
お前を吊るすぞ、とでも言われているようだ。
不吉というか不気味すぎる……。
そう思いながら店に入ると店主はカウンターの向こうでこちらに背を向けていた。
客が来たのに気づいていないのか、背を向けたままで何事か奥の棚に向かって作業をしている。
中には積み上げられた弾薬の箱や、コンテナ、届いたばかりなのか未開封の段ボールが積み上がっている。壁にはガラスで手に取れないようになっている武器と埋め込まれたディスプレイに表示された映像。
やや雑多な印象のお店だった。
店主は背を向けたままなので、咳払いでもしようかと思い、ふとその首に目が行く。
そこに刺青があった。
さっきも見た首吊り用のロープだった。
というか首に刺青されるということは入り口のそれも意味は一緒なのだろう。
自殺願望がおありで?
どっかのラスボスがうふふ、と笑った気がして思わず身震いする。まだ呼んでないから、あっちで寝ててください。
疑問に思っているとインフォメーションが自動的に出た。
どうやら気になったモノを言葉ではなく、見たまんまで検索ができるらしい。
片目を閉じ、右手の指で輪を作って店主のロープをその輪の中に収めると写真をとったみたいにアラクネストの検索窓に収まって自動検索された。
おお、これは便利だ。
出てきたのはハングドマンズという自治組織、というかいわゆるギャング的なグループの情報だった。
って、本物のギャングの巣窟なのか。
作業が終わったのか、まるで私が検索するのを待っていたみたいに店主がこちらを向いた。
ドレッドヘアかと思った髪はどうやら葉の無い樹木の枝だったらしい。いかにも偏屈そうな疑うような目つき、口元は髭で覆われていて隠れている……髭は枝じゃ無いんだ。
なるほど、第一印象からしてこれは気難しそうだった。
「見ない顔だな」
「はじめまして、って挨拶からした方が良い?」
「はじめまして。御用はなんだい?お嬢ちゃん」
「はじめまして。八月朔日です。お名前を聞いても?」
「妙な奴だな。俺なんて店の親父で十分だろう。お前は道端のクソやらゲロやらにも挨拶して回るのか?はじめまして、よろしくねって」
「そうだね。気分が良ければするかもね」
なるほど。これはなかなかだ。初対面の人からいきなりクソとゲロという単語は聞かないだろう。こちらから丁寧に対応しようという気はとりあえず無くなった。
店主は面倒な客が来たと言わんばかりにため息をおおげさに吐いた。
「会話を楽しみたければ夜まで待ってからバーかクラブにでも行くんだな。それで?」
「そうだね。ニトロンポーションをふたつ、いや、みっつ頂戴。それと……ソリッドの、いや良いか。ソリッド、リキッド、両方の刀剣を見せて」
「そこで見な。ポーションは今持ってくる」
店主が指さしたのはカウンターだった。
そこがディスプレイになっていて、ステータスみたいに店の在庫一覧が出ていた。
試しにひとつを選ぶとおそらくは実物の大きさだろうそれがディスプレイから浮かび上がって宙に表示される。
触れるとぐるぐると回して見ることができた。
ゲームみたいだな、と思ってゲームじゃん、と心の中で自分で突っ込んだ。
リキッドのを見ると、ストロベリーシェイクよりもイデアスコアが低い物しかなかった。攻撃力とエネルギー効率、重さ、持続時間、どれを比べても、倍とは言わなくともかなりの開きがある。
それなのにリキッドの武器はどれもなかなかの値段だった。
安くても700,000GHNはする。
スキュラは結構奮発してくれてたのか。
わざわざ低位の物を買っても仕方ないので、今度はソリッドを見る。
リキッドの武器よりも安いものしかない。
つまりさらに低位の物らしい。
良いソリッドの武器は高い、ということだ。
と、そこで店主がわざとらしく音を立ててポーションを置いた。
「他には?」
「刀剣は欲しいのはなさそうだね」
「そうか。じゃあ用は済んだな。ポーションみっつで18,000GHNだ」
愛想がなさすぎる。他に客がいる訳でもないのに、最初から最後まで帰れって言い続けられてる気になる。
とりあえずステータスから支払い処理をして、ポーションをストレージに仕舞った。
「銃も見たいんだけど?」
「……勝手にしろ」
そう言って腕を組んで威圧するように睨んでくる。
これは外したのかな?いや、経験上、帰れ帰れは、待て待て何かあるぞの裏返しだ。
ディスプレイで銃を見る……スペック的にどこを見たら良いのか、と言うか、自分がどういう銃を使いたいのかが何も分からない。
まあ、とりあえず拳銃か、と性能無視して見た目で選ぶことにした。
いずれにしても銃は使ってみるつもりだった。
自分が使う使わないにせよ、全く知らないというのはあり得ない。対策の意味もある。
馬鹿でかいのを除外して、小さいのも除外した。
中途半端では?と自分で突っ込みつつも、中央値が分かっていれば、大体上も下も分かるだろうという判断だ。
店主はアドバイスする気も雑談する気もないらしく、無言で見つめ続けている。
いや、たまに舌打ちしていた。
無視して選んだ銃は130,000GHNの物だ。もっと高いものもあったけど、本当に使っていくのかどうか、使いこなせるかどうかも分からない物に投資しても仕方ない。
「これ、実物が見たいんだけど」
「……待ってろ、今持ってくる」
改めてディスプレイ上のスペックを見る。
シバルバーというメーカーのシックという名前のリボルバーだった。
病気?シバルバーは何かで聞いたことがある気がする。
なんだったっけ?シバルバー、シバルバー……そう思っていたら自動的にアラクネストに検索した要約が出ていた。それを読み出すよりも先に店主が今度は静かに真っ白な銃と弾丸の入っているであろう箱をふたつ置いた。扱いが丁寧なのは刀剣よりも銃の方が好きなんだろうか?その割にはお店のラインナップはあまり充実していないように思える。
「手に取っても?」
「弾は入ってない。好きにしろ」
銃にはあまり詳しくない。
映画で見たりする程度には分かる。
でもそれだけだ。
思い出しながら弾をこめるパーツ……シリンダーだっけ?それを外そうとして、それらしいスイッチを押しても何も起こらない。
あれ?ここを押すんじゃなかったっけ?
「はぁ、お前、そんなんで銃を欲しがってどうするんだ?ド素人じゃねえか」
「まあね。初めて触るからね」
FPSは、ほぼほぼやったことがない。現実でもトイガンの類は触ってこなかった。
素直に触り方を聞くと、ひと通り店主が触って見せた。
見せただけで特に説明はなかったものの、なんとなく分かった。
そうか、ボタンみたいに押すんじゃなくて、前側に押し込むのか。
今度はちゃんとシリンダーが開いてレンコンみたいな6つの穴が見えた。
元に戻して、今度はハンマーを起こして適当に壁のディスプレイに映っていたおっさんに狙いを定めて引き金を引く。
ガチリ、と音を立ててハンマーが倒れた。
「ソイツはダブルアクションだからハンマーは起こさなくても、トリガーを引きゃあ勝手にハンマーは起こる。弾はどっちに……それも知らねえか」
持ってきていた箱をふたつ開けて、それぞれから1発ずつ弾を取り出した。
「こっちは通常弾。いろんな素材の弾頭があるがとにかく火薬で押し出されたままに飛んでくやつだ。それでこっちがクロックワークス弾だ。CW弾って呼ばれていてこっちはターゲットを認識してある程度までなら曲がって追尾する」
おぉ、サイバーな弾丸があるらしい。自信が無いならCW弾一択だろう。
「良いね。百発百中だ」
「馬鹿か。ある程度って言っただろう。お互いに動きまくってたらそうそう当たるもんじゃねえ。あくまでも補正程度だ。腕利がそれでも当てられない相手に当てるために通常弾に混ぜて使ったりする。曲がるって分かってたら対処されるからな。毛の生えてねえ素人が突然、腕利になるようなシロモンじゃねえ」
毛って……まあ、素人は本当のことだ。
それにしてもミサイルとかじゃなくても追尾してくるのか。
これは知っていて良かった。
「CW弾を使いたいなら、イデアコードを入れないと使えないぞ」
「んー、いや、良いや。なんか狙いやすくするコツとかないの?」
「鍛錬。いやなら制御系のイデアコードでも仕込むんだな」
その辺は必要になってからで良いかな。あれもこれもイデアコードで入れられる、というのが引っかかった。
多分、初心者向けのトレーススキルだろう。
フォックスレインでもあった。ベースボールスイングで剣を振るはじめたばかりの剣士を初期スポーン地点でよく見かけた。
どうせならとフルマニュアルでアバターを動かした結果だ。
中にはベースボールスイングでランキング上位に上り詰めた野球”とかいう意味わからないプレイヤーもいたな……そういえば。あれは例外中の例外だ。
慣れない最初はそうした合理的でない動きをしない為に、半オートでアバターが動くように必殺技的なスキルではなく、動作制御系のスキルが簡単に覚えられた。
ところがこれもスキルはスキル。あまりにも入れすぎると必殺技的なスキルの覚えられる上限が減った。
救済措置として課金アイテムで今度はそれを消していった思い出がある。
どう動くのが適切で最善なのか。
武道の類、戦闘の類の経験も知識もまるでないと、そうしたトレーススキルは確かに有効なのだけれども、最終的には慣れて自分でフルマニュアルで動かした方ができることが圧倒的に多くなる。
本当に必要なら自分で動いて覚えた方が良いのだ。
それにCW弾が単純に高いのも気になった。
通常弾が1発130GHNほどで、CW弾がその3倍ほど、410GHNだった。10発撃ったら4,100GHNで100発撃ったら41,000GHNだ。
これが刀剣より銃が安い理由だろうか。維持費が半端ない。
リキッドもポーションが安くはないけど、時間内に100体斬ったら高コスパだ。
どうしよう、検証項目が多いな。




