もこもこ2
息が乱れている。過呼吸状態だ。今かつてないほどに緊張している。
想定外通り過ぎて頭が真っ白だ。
自分は記憶にあるゲームの主人公で勇者が故郷とする村に来ている。丸太で作られた壁に囲まれた村。そうそうそんな村だったよ。壁の切れ目の入り口は左右に門番がいて、こんな辺鄙なところだから装備は皮の胸当て兜というよりヘッドギアに近いものを付けた男が、男?門番の二人の内、片方が明らかにおかしい。金属的な全身鎧に身を包んだような姿。しかしその全身鎧の上に隣の人間と同じ胸当てとヘッドギア。
ああ、懐かしい記憶にあるぞあの種族不明の出てくるゲームの記憶。とある人気ロボットアニメの主役ロボが二頭身の生き物になって騎士や侍の格好で登場する奴だ。
なんてこった、自分とメーカーが違う作品だ。この村に勇者がいることは間違いない。亡国の逃げのびた皇子である勇者が。だがちょっと自信無くなってきた。ええいままよ、勇気を振り絞り身を隠していた草むらから出る。門番二人の視線がこちらに向く。なんかバイザーのような多分単眼でこっち見てる。
「草羊か。畑荒らさないなら見逃してやる。あっち行け。」
見た目普通の人間のほうが槍の穂先を向けてシッシと振る。
やった、言葉がわかる。てか草羊って種族なのか。同族は畑荒らすのか。農村だと害獣じゃねーか。
若干の危機感を覚えたがまだ引き時では無い。言葉などわからないふりして首をかしげる。仕草だ片手を頬に当てる歯医者ポーズでだ。見た目は愛らしいはずだ。どうだ?
槍を向ける人間の方は困った表情を浮かべている。すぐにこちらを攻撃する様子はない。もう一方は、
ワカンネー!イ〇オンみたいな顔で無表情というか表情自体無いんだもん。じっとこっち見てるけど感情が読み取れない。
無表情な奴がこちらにゆっくり近づいてきた。
「おい、ジム!なにやってるんだ」
見た目そのままな名前だよ。大丈夫よくある名前だから。君ジムって顔してる。
「大丈夫だ。草羊に傷つけられるような柔な身体じゃない」
「そらそうだろうけどよぉ。」
ジムがゆっくり自分に近づきそっとしゃがみ込む。そのまま固そうな手をこちらに差し出す。この展開は解る。そうだ猫だ自分には猫になるのだ。人間ではない猫だ。いろいろ何かが減ってしまう気がするが猫になり切り差し出された手に頭をするつけると、動きに合わせてジムが頭を撫でてくれた。ジムは良い奴だ。やはり連合側の機体は正義だ。
「はは、なんだ随分懐っこいな。」
表情は読めないが何となくジムは微笑んでるような気がする。
「しょうがねぇなぁ。村には入れるなよ?」
「わかってるよ。サムも撫でてみろ良い手触りだぞ。」
ジムの声が少し喜色を帯びている。それにこたえるように人間のサムが自分を少し撫でる。そして道から外すように抱えて移動させる。どうやらこの二人なら村に入ろうとしない限りは危険はなさそうだ。門番をするジムの横に座り大人しくしている。それから日暮れまでジムの足元で休み休み愛想を振りまいていた。日が暮れる頃には村の外に出ていた数人が戻り、それを確認して門が閉じられた。ジムが少し名残惜しそうだった仕方ない。ここは自分が物分かり良い態度でいなければ。門が閉じたのを確認してその場を離れる。
夜道を山道に沿って進み、今までの寝床に戻る。そこで育てた芋を回収する。少なくとも村の門から中に入らなければ危害を加えられる事は無いと判断し。もう少し村の近くに寝床を移すのだ。山芋とムカゴのついた蔓。そしてサツマイモをアイテム欄に収納する。アイテム欄は
薬草 34
果物 78
山菜 16
と表示されている。芋類は山菜で一まとめの様だ。曖昧な分け方だ。
しかし一度に持ち運べて便利である。
門の近くで山道から少し外れた場所に持ってきた芋を植えてそこを今後の活動の拠点とすることにした。幸いな事に丁度背の低い木が密集し屋根のようになっているところもあり、そこを寝床にする。
そこから数日、門の付近で活動しながら村と出入りする人間の様子を窺っていた。
決して村には入らず、あくまでも入り口付近にいるだけの無害な存在。全員ではないが村人の中にジムを筆頭に好意的に接してくれる人物も数人いた。他の人も特に害がないため、無関心で積極的に排除しようと敵意を向ける居なかった。
今日も門番のサムとジムの傍らで二人の会話を聞いている。なんでも数日に一度、ほぼ定期的に行商がやってくるらしい。またこの村の近くで切り出した木材を麓の村へ運ぶときは村から馬車も出すらしい。そういった機会に外の物を有形無形共に持ち帰るそうだ。
主な村の産業は林業と狩猟、それに木工細工などを出来るものはして、野菜は自給自足で消えるようだ。
話の端々から読み取れる情報からジムが出てくるゲームのシナリオは終了しているようだ。ジム、お前隣国からの支配から解放する一団に最初に所属した上にこの近隣の解放とその後の守備で成果を上げて英雄扱いなのに、地位も名誉の受け取らず故郷に小さく錦飾って門番してるのかよ。自分のこと撫でたくてソワソワしてる緩いアンちゃんにしか見えないのに、門を通る村人やサムがどことなく敬って様に見えるのは勘違いじゃないんだな。
しかし、この村は自分の知る限り他の勇者の故郷でもあるのだ。もしかするとそっちの物語も終わっているかもしれない。そうなると自分のいたゲームの勇者は貴族になって冒険を共にした仲間のうち一人と所帯を持っている。何にせよ今のところこの村の近辺は平和なようだ。
昼時になり交代で食事をとる二人。門の外側にある竈に火をつけて持ってきた弁当を温めれる様子がうかがえる。今回はその竈のそばへ近寄っていく。今日はジムが先に食事をとり今はサムが竈の火で肉とパンのようなものを焼いている。
「なんだ、危ないから火にあまり近付くなよ?」
サムが寄ってきた自分に注意を促す。そんなサムに懐から取り出したサツマイモを突き付ける。
「おおう、赤芋か。お前それどこに持ってたんだよ?」
どこからともなく出てきた大きな芋、赤芋とここでは呼ばれているのか一つ賢くなったぞ、に怪訝そうな表情を浮かべるが
「それを焼きたいのか?」
こちらの意図を汲んでくれるサムはコミュ力高い良い男である。竈の前を開けてくれたので、遠慮なく火の中に直接放り込む。上の鉄板に乗せるのかと思っていた様で、驚きの声をサムが上げる。そして少し戸惑いながらも自身の肉とパンを焼き終える。普段は砂をかけて火を消すが今日はこちらの為に自然に火が消えるのを食事をしながら待ってくれた。
やがて小さくなったところで自分で砂をかけて鎮火させ、少し待って木の枝で芋を掘り出す。表皮に焦げ目のついた熱々の芋だがうまく毛皮の部分で掴むと暑さはあまり感じない。
触った感触は少し焼けすぎだが、火が通らないよりはましだろう。割ってみると少し外側が固いが中は程よく火が通り、しっとりして蜜をしっかり蓄えていた。
「おいおいなんだそれ、本当に赤芋か?」
甘い香りにつられ覗き込んだサムが驚いている。割った内の片方を食べると芋の甘さが口の中に広がり幸福感に包まれる。触感もホクホクで好ましい。いくらでも食べられそうな気分だが体が小さいせいか、もう片方を食べる前に満腹になってしまった。もとより食事の不要な身体である。あまり食べられる身体のつくりではないのだろう。仕方ないのでもう片方を更に二つに割り一方をサムに突き出す。
「くれるのか、サンキュ」
良い笑顔でそれを受け取り熱さに気を付けながら食べるサム。その様子を見るに草羊の身体だから美味に感じたわけではないようだ。スゴ!あっま!と声を漏らすサムを背に残りをもってジムに近寄る。
「僕にもくれるのかい?ありがとう。」
こちらを一撫でして芋を受け取り、ジムも同様に甘さに驚きながらもおいしいと言ってくれた。特段苦労したわけではないが、自分が育てた物をこうして美味しそうに食べてもらえるのは何だか認められた気分になって嬉しいものだ。本当に気分が良かったので門が閉まるときに二人には一個づつ赤芋を渡した。
相変わらず何処から出したのかサムに突っ込まれたが二人は嬉しそうに受け取ってくれた。
翌日、サムが赤芋を母親が喜んでくれたと笑顔で報告してくれて益々気分が良かった。
それからは毎日ではないが時折芋を持っていくことにした。山芋は見せると普通に焼いてくれた。後日山芋を使ってパンのような生地を作り、それに潰した紅芋を挟んだものをサムが作ってきた。母親が芋の例に分けてこいといったそうだ。どうやら村の中では、村のそばに流れてきた人物が友好の為に作った作物を分けていると思われているようだ。特に甘い紅芋はサムの母親から広まり人気の様だ。
「草羊が芋をくれたなんて言えなくてな。」
「実際に見ないと誰も信じないだろうし。」
「お前はその人のが使役してるって考えてるみたいだぞ。まぁおれもジムも最初は誰かの従魔だと思ったけどな。」
「人に慣れているのは一目でわかったよ。こちらに敵意があるか探るように寄ってきたからね。」
流石ジム歴戦の勇士は初対面の時にこちらの意図を察してくれていたようだ。
それから暫くは紅芋を主に持ち込むようにした。森の中で蔓を編んで手製の籠を作り中にいっぱいに芋を積んで行く。中に山芋を蔓とムカゴ付きで2,3本入れておく。もともと山芋のほうが育ちが遅いのでそのくらいで丁度良かった。
門番との交流だけだが、人間との交流は自分を保つのに効果的だった。ジムは見た目が少し人間離れしているが、この世界はそういう種族として受け入れられているようだし、人物としては問題ない。
この世界で少しは自分としてやっていけそうな気がしていた。




