第11話 最初に立ち戻って..
柳林沙織は、柳林次郎の一人娘である。
今は花嫁修業中で、仕事はしておらず、時間があるため、柳林にくっついて、刑事の仕事の手伝いをしている。というよりも 暇つぶしなのかもしれない。しかし、捜査は手を抜かず真剣に手伝っている。それに大好きな父と一緒に 過ごしたいのである。 お婿を貰うのが一番良いが、もし自分がお嫁に行かなければならなくなったら、こうして過ごせる時間は今だけだ、限られているのだと沙織は思っているのである。
本間はひそかに、沙織のことに想いを寄せていて、 沙織が時々、善次郎の前に現れると、 ばかと異常に、親切に優しく、紳士的に 沙織に 接するのである。
3人は美術館に向かう途中だ
運転は いつも通り 本間がしている
スナックゆみのママが、「もう1回最初に立ち戻って、公開レッスンが行われた美術館に行ってみたらどう?」と言うので、柳林達は、今日は3人で、何かわずかなものでも手がかりが見つかれば..という気持ちで、美術館に向かっていた。
本間「沙織さん、大丈夫ですか? 車酔いしてないですか? エアコンの効きはどうてすか? なんかラジオかけます?音楽聞きますか?」
沙織「笑 大丈夫よ。 酔ってないし。エアコンもちょうどいい温度。 ラジオはいいわ、かけなくて。ありがとう本間さん。」
『ありがとう本間さん』なんて言われると、本間は嬉しくて、 しかたありません。
仕事のことを忘れそうです。
柳林「本間、
大河原のアリバイくずれたか、、?」
本間のニヤけて浮かれた様子をみた柳林が、
すかさず本間に質問します
本間「それが、、やはり証人もいて、アリバイは崩れないんです。」
柳林「そうかぁ、、
手がかりの意図を掴むまで もう少しな気がするのだがなぁ...」
柳林の長年の勘が働き、虫の知らせのような あと一歩という感じがしているようなのだ
美術館に着くと、また館内を、三人は歩いてみた。
本間「ここが公開レッスンをした会場です。」
広くて明るい会議室のようなスペースだった。
沙織「どうして.. 公開レッスンなんてやろうとしたのかしら?」
柳林「そうだな.. この前大河原画伯に、聞けばよかった..」
その後は、長い廊下を歩き、大河原氏の作品が並んでいるコーナーに3人は行った。
本間 「よくこれだけの数の絵を、かけますねぇ。数も驚くけど、一つ一つの作品が、訴えかけてきますよね。」
柳林「本間、絵が何をお前に訴えかけてくるんだ? お前 美術の何か勉強してたのか?」
本間「いえ、特に何も学んではいないです。絵を見たときの直感で感じた感想です 笑」
柳林「笑 そうか」
沙織「ほんときれいねぇ.. 観とれて、観入っちゃう。。配色や配置 筆の置き方、塗り方で、紙の上にできる絵の具の凹凸も変わってくる。対象物の良さを時には悪さも引き出すために、自分が表したいと思っているイメージを、どれだけ絵の上に表現出来るか、画家が時間をかけてこだわって、少しの妥協も許さず、描いてはまた描き直し、描き重ねて、繰り返しながら、作品を仕上げていくんだわ。」
本間「沙織さん、凄いです、その解説」
沙織「すごくないよぉ笑 本間さん。わたしも絵が好きで、学生の頃習ってたことがあったから、趣味でかじってたくらいなんだけどね。
それにしても、、こんな素敵な絵を描くのに.... もし大河原が犯人で、私たちが大河原を逮捕したら、もう世に大河原の絵が出ることは出来なくなるし、もしそうだとしたら残念ね。。 こんな素敵な絵を描くのに。。 なぜ、人を殺すなんて。。それに。。この絵達、よく観ると、全てパンフレットに載ってる絵より、くすんでみえる気がするの。赤黒い感じ....。まるで、絵が生きてるみたいに 、色が変わっていっている気がするわ。もしお梅さんの言う通り、人の血で描かれていたとしたら、空気で酸化して、時間が経つにつれ、黒っぽくなってきているのかしら。。。。まさかね。。。」
本間「あまり考えすぎても いい答えでないと思うし、、あそこのカフェに行って、なんかお茶にしませんか? 」
沙織 「いいわね」
柳林は、仕方ないなという顔をして、先に通路を歩いて嬉しそうに店内に向かう2人の後ろを ついて行った。
沙織「素敵ねぇ。」
真っ白い壁に、観葉植物がバランスよく店内に置かれていて、窓からも、綿帽子の綺麗な木々がみえる。
「いらっしゃませ」
白いシャツに黒いサロンを巻いた
パリのカフェにいそうな爽やかな男の子が
水とおしぼりを運んでくれる
沙織「わたしはねぇ なににしよーかなぁ♪」
本間「柳林さんは、なににします?」
柳林「俺は、アイスコーヒーにする」
本間「OKです。 デザートは何かいいんすか?」
柳林「俺は、飲み物だけでいいよ」
沙織「いちごバフェもクレープシュゼットもどっちも美味しそうで食べたいなぁ。迷うわね。。」
真剣に悩む沙織。
そんな沙織の表情を、本間は見入ってしまう。
本間「それじゃ、俺がいちごパフェ頼みますから沙織さんはクレープシュゼットを頼んで、2人で半分つにしましょう。」
沙織「いいわね♪」
柳林が、沙織と本間の仲の良いやり取りをみて、まるで兄弟みたいだなと言った感じで、見守る。
本間「それに俺はアイスティー」
沙織「私もアイスティー、あっ アイスミルクティーにするわ。それじゃそれで決まりね。
お願いしまーす。」
柳林 (本間のやつ、主導権を握り、テキパキとやれるじゃないか、仕事もこの位やってくれるといいのだが.....)
帰り道
沙織「なんか見つからなかったわね、
なにも。。」
本間「はい。でも、、沙織さんと食べるクレープシュゼットもいちごパフェも美味しかったなぁ。今年の美味かった食べ物の中で1位っす」
沙織「それは良かったわ、私も美味しかったよ♪
満足満足♪ 」
柳林は、手がかりがなく
ひとつ大きなため息をついた。
しかし、ふたりが美味しそうにクレープシュゼットを食べているのを見ていたら、自分も食べたくなって、一口貰ったのだが、すごくうまかった。 忙しい調査の日々に 気分転換と小休憩ができたのであった。
つづく




