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1.5~2話

街へ戻る頃には、陽はだいぶ傾き始めていた。

 冒険者ギルドの扉を開けると、昼の喧騒が少しだけ落ち着いた空気が流れてくる。

 だが、泥と血に塗れた新人僧侶の姿を見た瞬間、受付前のざわめきは一気に止まった。

「おい……西坑道の」

「生き残りか?」

「他は?」

 飛んでくる声に、少女の肩がびくりと跳ねる。

 受付嬢が、声を張り上げた。

「報告は受付で。野次馬は後ろへどうぞ」

「お、おう……」

 いつもの柔らかな口調のままなのに妙に押しが強く、数人が気まずそうに引っ込む。

 受付嬢は、張り付いた笑顔でカウンターを開けた。

「カロンさん……これは……」

「未帰還五名中、一名生存」

「残り四名は」

「回収済み」

「え?」

 カロンは懐から小布包みを四つ、ことりことりと並べた。

 受付嬢が固まる。

 周囲も固まる。

「……はい?」

「遺品よりは軽い」

「そういう問題ですか!?」

 受付嬢のツッコミに、張りつめていた空気が少しだけ崩れた。

 だが新人僧侶はその包みを見た瞬間、また目を潤ませて俯く。

「この子の保護を」

とティア。

「精神的にかなり来てます。医務室借りられます?」

「あぁ、はい。もちろん……!」

 職員が慌ただしく少女を奥へ連れていく。

 去り際、少女は一度だけ振り返った。

 何を言うべきか分からない顔だった。

 礼なのか、謝罪なのか、恨みなのか。

 結局何も言えず、そのまま消える。

「報告書、書きます?」

「ティアが」

「でしょうね」

 羽根ペンと用紙を受け取り、ティアはため息を吐く。

「私はこういうの、字数制限のない悪口大会になりがちなんですよね」

「事実だけ書け」

「事実が大体悪口なんです」

 カロンはそれを聞き流し、受付へもう一つ小さなものを置いた。

 白い石片。

 拳で握れるほどの欠けた鉱片に、薄く焦げた紋が刻まれている。

「これは?」

「坑道で拾った」

 受付嬢が首を傾げる。

 意味は分かっていない。

「鑑定に回せ」

「あ、はい……」

「結果は?」

「依頼料次第で聞きます」

「ちゃっかりしてますねぇ」

 ティアが報告書を書きながら呆れる。

 カロンは返事をしなかった。

 ただ、カウンターに置かれた石片の焦げ紋を見下ろす。

 円環の中に、十字。

 見間違えるはずもない。

 ひどく見慣れた印だった。

「…………」

「カロンさん?」

「なんでもない」

 短く言って踵を返す。

「あ、どこ行くんです?」

「宿」

「まだ依頼料受け取ってませんよ」

「明日でいい」

「珍しい……」

 受付嬢が目を瞬く。

 カロンはもう振り返らない。

 ギルドの扉を押し開け、夕暮れの街へ出る。

 西の空が赤い。

 その色を一瞥し、外套の襟を少しだけ引き上げた。

 懐の中で、四つの遺石が小さく触れ合う。

 乾いた、硬質な音。

 死は終えた。

 だが、終わっていないものがある。

「……面倒だ」

 誰に聞かせるでもなく呟いて、カロンは歩く。

 ミーティがその後ろで空を見上げた。

「また、冷たくなる?」

「なるかもしれないねぇ…」

とティアが苦笑する。

「晩ご飯の前には勘弁してほしいです」

 三人の影が、長く夕道へ伸びていく。

 その先に何があるのか、まだ誰も知らない。

 ただ一つ。

 坑道の底で拾った小さな違和だけが、静かに次の火種になっていた。


そして後日、ギルドにて。

全滅パーティーの身元が判明。

西方の寒村「リネ村」出身。

遺品と遺石を届ける依頼が正式発行。

「……受けるよね?」

「郵送でいいだろ」

「遺石を郵送する葬儀屋がどこにいるの?」

「冷たい」

「お前ら二人とも面倒だな」


なんやかんやと、骨馬が蹄を鳴らしてリネ村へ。


村人がよそ者を見る。

カロン達と、ギルド紋入り荷を見て…もう察する者がいる。

「……誰んとこの子だ」

「また、山向こうか」

「四つ……?」


一人目。

「あの子は? 一緒じゃないのかい?」

ティアが言葉に詰まる。

カロンが遺石を差し出す。

「帰った」

「これが残りだ」

母は意味が分からず固まる。

妹は無邪気に訊ねる。

「お兄ちゃんのおみやげ?」

彼の、母が崩れた。


二人目

彼の、祖父母の宅だ。

祖父は遺石を見てすぐ理解した。

「……あいつ、帰れたか」

「帰した」

「そうか」

祖母は涙を流した。

祖父は泣かない。

代わりに

「山菜取りより稼げると言って出ていった馬鹿だ」

と笑う……しかし、その声は震えていた。


3人目

娘は待っていた。

手紙を持っている。

次帰ったら渡す予定だったようだ。

「嘘だ」


「だって、今度帰ったら……」

遺石を受け取らず取り落とす。

カロンが拾って手渡す。

「受け取れ」

「置いていくと、帰れない」


……………娘は、泣き崩れた。


4人目。

婚約者の家の様だ。

そして父親だろう男性が怒鳴る。

「死んだ石ころ持ってきて何になる!」

と。

カロンは黙って受ける。

ティアが庇いかけるが止める。


「生きて連れてこいよ……!」

それが本音。

ここで婚約者本人が震えながら石を抱える。

「……でも、帰してくれた」

彼は黙った。


村を周り終わってみれば、日が落ちていた。

村中が知る。

戸が閉まる。

泣き声が遠くで混じる。

夕餉の煙が少ない。

「静か」

と、ミーティ。

「そうだね」

とティア。

「四つ分、静かになった」

そして、貸し与えられた小屋にて。

「……いつまで経っても慣れないなぁ…」

「慣れるものでもない」

「慣れてる顔して言わないでよ。」

「………顔は勝手だ」


各宅からの礼品を並べ眺め、一行の夜は深けていった。


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