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第73話 崩洛の火‐交戦‐

 最初にその異変に気付いたのは、城下の入り口で見張りをしていた数人の兵士だった。

 成人の儀を飾る凱旋パレードは華々しく幕を閉じ、集まった村人たちは満足気な様子でそれぞれの集落へと戻っていく所だった。


 そうして同じように、少し前に城下から出て行った集団がいた。

 だがそのうちの一人が今、ひどく慌てた様子で森の街道から城門に走って来ていた。

 男の尋常でない様子を見ると、衛兵たちは急いで彼の元に駆けつける。


「どうした。何かあったのか?」


 男はかなり混乱しているようで、城門の前で暴れていた。

 しかたなく衛兵たちは彼を取り押さえると、すぐ近くにあった自分たちの兵舎へと連れて行き、話を聞くことにした。


「たっ…、助けてくれぇ!!!! こ、殺されるーッ」


「分かったから、落ち着いて話してくれ。じゃないと何も分からない」


 そういうと、衛兵の一人はその村人に水の入ったコップを手渡す。


「はぁ、はぁ…… か、村に帰る途中で… 魔物がっ」


 それを聞くと、衛兵たちは驚いた。


「魔物だって?!そんな馬鹿な!」


「この辺りの森は俺たちが毎日見回りをしているんだ。街道は完全に安全なはずだぜ。おい、お前の見間違いじゃないのか?」


「見間違いなわけあるもんかッ! 仲間はみんな、殺されたんだ!!!」


 やがて、その言葉が嘘でない事はすぐに判明した。

 次の瞬間、兵舎の外から何かが崩れるような大きな破壊音が聞こえたかと思うと、それは民衆のパニックへと変わったのだ。


 衛兵が外に出て確認すると、すでに城門は壊されており、城下の中には全長4メートルほどの爬虫類系魔物が侵入していた。

 体の半分を大あごが占める、トゥーレッグ・レプタイルという魔物で、このような大型で上位の魔物は通常ならダンジョンの中層以下でしか見かけることはない。

 残っていた衛兵は二人ほど、既にやられてしまっているようで、周りにいた一般市民もひどく怯えている。


「あんな奴、一体どこから」


「とにかく急げ!このままじゃ、広場の人たちが危ない!」


 そういって彼らはすぐに兵舎から飛び出すと、村人とその恐竜のような魔物の間に割って入った。


「慎重に囲んでいけよ。あの図体なら、そう速くは動けないはずだ」


「王国兵士の名誉にかけて! これ以上ひとりも被害をだすんじゃないぞ!」


 衛兵らは剣を抜き勇敢に立ち向かう。彼らの中には怯えて逃げ出そうとする者など一人もいなかった。

 ハイブラスター王国の兵士は一人一人が精鋭であり、兵士団の総力をもってすれば、天災に匹敵するというエルダークラスのドラゴンの撃退すらも難しくないと言われていたのだ。


 人々はそんな王国兵士をとても頼りにしていたし、兵士たちもこの程度の相手ならば余力を残したまま倒せると思っていた。

 だがしかし、突如、衛兵の一人が宙を舞う。それはまさに一瞬の出来事だった。


 どこからともなく現れたスキンレス・デーモンによって、空高くまで連れ去られた衛兵は、そのまま墜落死させられた。

 また、街道の方面からはチェーンキメイルという継ぎ接ぎの恰好をした人型の魔物が、鎖につないだ人頭を振り回しながら姿を現した。

 その後ろの空からは、炎の精霊系魔物であるエンバー・ナッツの群れや、下級のドラゴンに属するオブシディアンレッサードラゴン。さらにはバニシング・ビースト、ナイトメア・アイ……


 瞬く間に、王城オル・ファファールは魔物の巣窟と化した。

 精鋭である兵士たちの多くには、すでにこの混沌とした状況が自分たちでは対処できないと悟っていた。


 数日前に、狂戦士ディルゲイドが魔物の異変の調査に出向いたことを知っていた何人かの兵士は、現在起こっているこの怪異が魔物の異常発生、スタンビートによるものだろうとも思い始めていた。


 だんだんと、周りにいる民たちにも危険が迫っていた。

 しかし兵士たちはまだ、目の前のトゥーレッグ・レプタイルの相手をしなければならなかった。


 だがその時、王城の方から上空の魔物に向かって、最上位の氷魔法が放たれたのだ。


「──久遠の霊墓よ、蒼き流星となりて絶対零度をもたらせッ! 魂を凍てつかせし(アイシクル)大氷塊(レジェンド)!!!」


 特大の氷塊は空中で爆散すると、そこに極低温の大気を作った。そして空飛ぶ魔物をみな小さな氷の粒に変えてしまったのだった。


「みなさん。大丈夫でしたか?」


「あっ!クライシス王子!」


「クレイドル王っ!」


 王子の英雄的な登場を目にし、村人たちは歓喜に湧いた。

 だが、王国にとって極めて大事な儀式の最中だということを思い出すと、ある村人はこう尋ねた。


「たしかお二人は王家に伝わる儀式の真っ最中ではございませんでしたか?」


「そのとおりだ」


「そんなっ!儀式を途中で投げ出すなど王国の歴史においても前代未聞です!さあ、ここは我々に任せてください。そして早く儀式にお戻りを!」


 しかし王クレイドルはかぶりを振ってこう答える。


「些事である。民の命こそ、我が国の最優先事項だ!」


 そして王の号令と共に、遅れてやってきた計100名あまりの城の全兵士たちがその場に集結した。

 数人の兵士が村人の避難誘導を行う間に、残りの兵士達によってすぐさま隊列陣形は整えられる。


 不届きにも城下に攻めてきた魔物共に向かって、今突撃命令が下される。


「ゆけ!勇猛なる兵士たちよ! その剣で無辜なる民を守り抜くのだ!」


「「オオオォッッ!!!!!」」


 互いに優れた力を持つ人間と魔物たちの激しい戦いが始まった。

 剣と牙がぶつかり合い、アーツとバーストの閃光が飛び交う。

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