第69話 雷剣のⅨ
”勇者の腰掛け”での冒険者たちの総力戦は、スキル:犠牲霊魂の意図しない介入により、なんともあっけない結末を迎えていた。
本来ガゼルが受けるはずだったラピッドヘリファルテのダメージは、分散されてシャドウボルクたちに送られた。
シャドウボルクは変換された大きなダメージに耐え切れず、約半数が一瞬で消滅し死亡したのだ。
冒険者たちは数の減った残りの敵を一気に掃討。
また宿の中にいた村人たちをも、安全な”カーバンクルの憩い場”の方へと、無事に避難させることが出来ていた。
「やったな。これで一安心だ」
「ああ…っ」
互いの無事を確認すると、ダリアとラザルスはフィストバンプを交わし、静かに勝利をかみしめた。
村全体をみればまだ何も終わってはいない。
それでも冒険者たちは、自分たちが力を合わせて格上の魔物を討伐したという事実に心湧きおどり、それをなんとも誇らしく感じていた。
「……でも、どうしていきなり、シャドウボルクは消えたんだろうな…」
「あ? そんなのもうどうだっていいじゃないか。こういう時、結果おっぱいって言うだろ?」
「言わないよッ!結果オーライな?!?」
ラザルスがそう疑問に思ったのには理由がある。
彼は約半数のシャドウボルクが死ぬときに、その肉体が細かな霧状のマナの粒子となって分解される所を見ていたのだ。
彼の故郷でも、それは死散化という現象で知られており、人は肉体が朽ちた果てにいずれ魂がマナに還ると信じられていた。
「あれは…… どう考えたって、僕たちの攻撃で倒したようには見えなかった。何かもっと、別の大きな力が加わって、一気に潰れてしまったような…」
「うーん、よく分からないけどさ。そんなスゴイことが出来るのは、アイツしか居ないんじゃないか?」
「クライシスさん?」
「ああ。なんか、俺たちの知らないスゲー方法で、シャドウボルクの群れを倒してみせたのかもしれないぜ」
この場にいないのに、どうやって魔物を倒したのか。
それはラザルスたちには検討もつかなかったが、それでも二人が見てきたクライシスならば、そんなことも出来ると思えてしまった。
しかしその時、ふと背後からした聞き覚えのあるダミ声は、こんなことを言うのだ。
「ねえねえ、さっき見えた御人がクライシスとかいう名前の席次冒険者~?? うーん、なんだか思ってたよりも強くなさそうー」
「は? お前なに言って……」
振り返ると、そこには先ほどの戦いで逃げたはずのラズロ・パイルズが、何食わぬ顔で冒険者の列に加わっていた。
「テメェ!また一人で逃げやがったな!」
「え?ダリア君たら、またどうして怒ってるの?」
「オラッ、死ねぇ!」
「にゃは~んっ 当たんないよー」
懲りずに何度も剣で殴り掛かるが、先ほどとは違い十分休んでヘトヘトではなくなっていたラズロに攻撃の当たる気配はない。
「まーまー。変異種には勝ったんだから良かったじゃん。結果おっぱいなんでしょ? おっぱいおっぱいっ」
「一体いつから居たんだよッ!!」
ダリアは顔を真っ赤にして、再びラズロに殴りかかろうとする。だがラザルスがそれを止めた。
そして先ほどからいい加減に気になっていた事を彼に尋ねる。
「ちょっと待てよ。……ラズロ、さっき言ってた”クライシスさんが強くない”っていうのは、一体どういう意味なんだ? 僕にはそうとは到底おもえないんだが」
「……うん、たしかにそうだよな。だって少なくともこの村に居る奴の中じゃ最強だろ?」
だがラズロはかぶりを振ってこう答えた。
「違うよ。グレイテストランドの席次っていうのは、そういうモノじゃないんだよ! たしかに、あの御人もそれなりに強いんだろうさ。 ……でも、もっと次元が違う」
「おい、お前。なんか知ってるのか?」
ダリアがそう尋ねると、ラズロは少し考えるような素振りをみせた。
そして慎重に自分の過去について語り始めた。
「……実は俺、昔は東の国で冒険者をしてたんだに」
「そうだったのか?!」
「まあこの国に猫貌人は少ないから、薄々そうかもしれないとは思ってたけどさ」
彼のいう東方領域とは、四季に恵まれた豊かな土地で、各地に大名が統治する小国のある連立国家だ。それらは常に互いの領土の征服機会を狙っている。
そして東方領域はインジェスの端でウポンドーハと面していた。
「うにゃ。東方領域には獣人も沢山いたし、なかなか居心地も悪くなかったよ?」
「じゃあ、どうしてこの国に?」
「そうだね。一度だけ。仕える大名をミスっちゃって……。それで、罪人に仕立てられた俺たちを始末しに来たのが、グレイテストランドの第九席次、雷剣のガウェインだったんだに」
その時の光景は、今でも彼の中に鮮明に刻まれていた。
突然、闇から現れたまだ10かそこらの少年が、物凄い勢いで仲間達を惨殺していく。
彼の魔法剣の前ではどんなに熟練した侍さえも巻藁同然だった。
しかも解放すれば天候をも歪ませるその人知を超えたマナは、ただそこに在るだけで周りに恐怖を抱かせ、逃げる気力さえも失わせたのだ。
「だけどその時、俺の道具袋の中にたまたま天界の鈴があったんだよ!アレは本当に運がよかったね。それで正気を保ったおかげで、どうにか逃げられたってわけだ」
「そうだったのか。それでこの国に……」
ラズロはこくりと頷く。そしてこう言った。
「さっきも言ったけどさ。席次っていうのはもっと異次元の存在なんだよ。本物はさ、一目見て別次元だって、すぐ分かるもんなんだよ」
「はぁ? なんだよお前。クライシスが嘘ついてるって言ってるのかよ」
「じゃあ聞くよ? ダリア君の友達の席番は一体いくつなんだい?」
「席番? えーっと……」
すると、ラザルスがこう答えた。
「たしか…… 第三席次だと言ってた気がするな」
「だだだだッ!!?第さんっ??!! そんなの、あのガウェインより何倍も強いって事じゃないか!!!! ……ああ、そっか。ダリア君たち、席次冒険者っていう嘘に騙されちゃったんだね。かわいそーにー」
「ふざけんな!そんなわけないだろが」
「そうだよ。第一、クライシスさんがわざわざ、そんな嘘つく理由もないじゃないか。だって僕たちは、席次なんて存在も知らなかったんだぞ」
「うーん。じゃあ二人はこう言いたいわけ? あの御人は本当に席次で、まだその力を隠しているかもしれないって……」




