第67話 再会の狂宴
「お前らーーっ!」
ダリアは必死に炎の先へと手を伸ばす。
だが先ほどまでそこにいたはずの冒険者たちは、すでに跡形もなくなっていた。
「どうだ? スゴイ魔法だろう。上位火炎魔法:紅蓮の重連槍っていうんだぜ」
「……テメェッ!!!」
爆炎は彼らを死体ごと木っ端みじんに吹き飛ばした。
その後ろにいて炎を免れたあとの二人も、腰をぬかしたまま声を失っている。
ガゼルはその光景を見ると、再びカラカラと笑っていた。
「ひどい…酷すぎるっス」
「どうして、どうしてこんなに非人道的なことが出来るんだよッ!?」
ラザルスがそう尋ねると、ガゼルは答えた。
「何故って? フン、そんなの楽しいからに決まってるだろ!」
「な゛っ」
「圧倒的な力で弱者をいたぶる。 ……まさにこれ以上に、面白いことはないッ」
そういいながらガゼルは瞳に恍惚の色を浮かべた。
「狂ってる……、クライシスさんとは全然違う意味で! あれがクライシスさんと同じ国の人とは到底思えないし、思いたくないっス!」
「はぁ?こっちこそ、あんな変人なんかと同じにされたくないわ。ま、どうせ殺すからどうでもいいか」
「バ、バーカ。お前みたいな卑劣で卑怯者の魔法使いが、最強のクライシスさんに勝てるわけないじゃんか」
対抗心を燃やしたマルティは、そういつものような暴言を投げかける。
するとガゼルは、明らかに苛立たたせた態度を見せ、彼女に怒鳴り声を上げた。
「あ゛あ゛ッ? ……ふん、何も知らないカスめ。この俺さまは奴のSS級オーパーツを所持しているのに対し、奴はトーンタウンからの転移の際にすべての装備を奪われているんだ。ヤル前から、勝負は決まってんだよォッ!!」
「う゛うっ (やっぱり、ペペロンチーノの言った通りなんだ……)」
マルティにはSS級オーパーツの具体的な価値については分からなかった。
だがそのSS級オーパーツを自慢するガゼルが、魔法を放ち民家を一瞬で消滅させてしまった所はきちんと見ていたのだ。
「それに、俺にはとっておきもあるしな。だからな。もう、テメエらも終わってんだ!」
「くっ……」
するとガゼルは、空からダリアたちの前に降りてきた。
「これで分かったかガキども。ならとっとと、狂気の天災の居場所を言え!」
「なんだと?」
「奴の手下なら知ってるだろ? 今なら命だけは見逃してやる」
「……言うか。お前なんかに、死んでも教えてやるもんか」
ザクロ村に入ってからクライシスとは分かれ離れになっていたため、彼の詳しい場所はダリアたちも知らなかった。
しかし彼はあえてそう答えると、反抗の意思を示すように剣を構える。
「ククク、まあそういうと思っていたよ。でなきゃ面白くない」
「なにッ、まさか」
ガゼルは飛行魔法を発動し、ストーンゴーレムの肩上まで一気に浮上した。
そしてそこで、再び召喚魔法を発動させる。
「さっきは俺の出した犬どもを、随分かんたんに倒してくれたじゃないか! じゃ、もっと増やしても余裕だよなぁーー!」
「テ、テメェ!!!」
「あーッ、はっはっはッ! 奴のことを言いたくなるまで嬲ってやる」
召喚ゲートからは次々とシャドウボルクがあふれ出てきた。10体、20体とその数はどんどん増えていく。
「こ…今度こそ、僕たち終わりだ!」
「泣き言いうなよラザルスっ。まだ…、まだなんとかなるはずだ!」
しかし、どんなに思考を巡らし工夫を凝らしても、圧倒的物量差の前にはどうにもならないことだってあるのだ。
しかもいつの間にか、天井からラズロの気配は消え去っていた。
「アイツっ、逃げやがったなー!」
そしてダリアたちは、数十体のシャドウボルクによって完全に包囲されてしまった。
「ヤれ。犬ども」
「アオーーーーーーン」
群れの先頭を率いる個体が長い遠吠えをする。それは総攻撃の合図だった。
だがそれと同時に、群れ長の頭が一本の矢によって穿たれる。
オーラをまとった威力の高い矢は、一撃でシャドウボルクを死に至らしめた。
「誰だ!俺の邪魔をしたのは!」
振り返ると、そこには勇者の腰掛けに向かって駆けてくる二十名ほどの冒険者の集団があった。
「あいつらは……」
ダリアたちは彼らに見覚えがあった。それは全員、先ほどまでカーバンクルの憩い場にいた冒険者たちだった。
「また会ったな、お前ら!」
「見させてもらったぜ?お前らの勇姿ッ」
「なんだかビビっと来たぜ。やっぱり俺らも一緒にこの村を守る!」
彼らはそんな風に、思いのたけを叫んでいた。
「くそ。勝手な事いいやがって」
「……でも、正直助かったっス!」
絶体絶命の窮地に現れた20名もの援軍。これには流石にガゼルも無視は出来ない。
弓使いは言った。
「口だけとかいって悪かったな。 …俺たちも加勢する!いくぞぉぉッ」
「「おおッ!!!!」」
「雑魚が、何人来たって同じこと!全員返り討ちだ」
そうして、ザクロ村の冒険者とシャドウボルクの総力戦は始まった。
ガゼルの命令で二十体以上のシャドウボルクは、一斉に彼らの方に襲い掛かる。
変異種としての高いステータスを活かした攻撃で、シャドウボルクは果敢に攻めかかる。
だが二十名の冒険者たちも、最初の混乱を自力で生き残っただけあって、それなりの実力者が揃っていた。
一人一人が格上と戦う時のセオリーを心得ており、彼らは無理に前に出ようとはせず、爪牙を避け、脇から着実に攻撃を決めていった。
「スパイクアロー!」
「フラッタースライド!」
テクニカルな奥義で確実に足を鈍らす。
「今だ!」
そして攻撃力の高いジョブがトドメを差した。
彼らはそのように、流れるような連携を次々と決めていく。
しかし冒険者たちが侮れないと分かると、シャドウボルクの方も細かな連携をしてくるようになったのだ。
それにより、戦況はより均衡で緊迫したものと化した。
宿から戦いを見ていたダリアたちの目にも、助けに来てくれた冒険者たちが次第に苦戦し始めていると分かった。
「俺たちも参戦するぞ!」
「うんッ」
「そうっスね!」
弓使いたちがシャドウボルクを引き付けてくれたおかげで、宿にいた村人たちもとっくに逃がすことが出来ていた。
憂いのなくなった三人は、彼らの元へと合流を試み駆けだした。
「逃 が す か よ ! ! !」
その直後、三人の頭上から巨大な石像の腕が落っこちてきたかと思うと、それはマルティと他二人を隔てる壁となった。
そして彼女の前に、ガゼル・ホップスが立ちふさがる。
「あ゛ーッ。よくもイラつかせてくれるわ。お前らは何なんだ?まさか、精神をかき乱すような魔法でも使ってるわけじゃないよな?」
「アタシたちは……クライシスさんの仲間!あと、クライシスさんを信じてる!」
「ハッ、お前が仲間ぁ? お前みたいな雑魚が仲間なんて、奴もそこまでおちたか……」
ガゼルはそう言いながら蔑んだ目をマルティに向けた。
しかし彼女は言った。
「うへへ、まあアタシはスライムも倒せないくらいには弱いけどさッ。でもあんた程度なら、アタシ相手で十分でしょッ。だってどう見たってお前の方が雑魚じゃん!」
「なんだとッ、辺境の田舎サルめ!もう我慢できない。もうコロス! 死ねッ、メテオフレイム!」
ガゼルが前方に腕を伸ばすと、その手のひらからは爆炎の熱光線が放射された。
自分に向けられた眩い光を見た瞬間、マルティを死を覚悟し咄嗟に目を閉ざす。
だが熱光線はその射線上でとあるバリアエフェクトに触れて反射をした。
──ゴォォオオッ ズドン! パキィィィーーッ……ィィーーーィー! ッパリン! カッコーーン!!!
爆炎は真反対の方向へと跳ね返り、ストーンゴーレムの胸中を貫いた。
ゴーレムが崩れ落ち、その上からガゼルがふわりと飛び降りてきた。
「……クックック。ようやくヒーローのお出ましかー?」
肌に触れる柔らかな感触に気づき、マルティはそっと目を開ける。
それはビロードのマントだった。
そして自分がクライシスの腕の中にいて、彼が身を挺して炎から守ってくれたことに気づく。
マントはレフリー村長が、クライシスに預けた装備の一つだったのだ。
「マルティさん。お待たせしてすみませんでした」
「いえ、ぜんぜん! なんだかこれって役得ぽいんで!」
そう言うと、マルティはそのままクライシスに抱き着いた。
「マルティ?」
その後から来たペペロンチーノはご主人様に抱き着く彼女をじろりと睨みつけるが、実はマルティが気を失ってしまっている事に気づくと、慌てて介抱をした。
ペペロンチーノはマルティを宿の奥の方へと連れて行った。
すると、それを見ていたガゼルはこう言った。
「アイツはたしか、召喚契約を結んだ高位の吸血鬼だったか。ブッ、たしかメイド?…だったか??」
「…………」
「さっきのガキのはだいぶ貧相だったが、アレはいい。それに、人間じゃないからどう扱ったって大して咎められないのもいい。そうだな。お前を殺したら、アイツは俺さまが使ってやるよッ。ハハハ」
「…………のか?」
「あ゛あ゛っ!!」
その囁くような呟きが聞き取れず、ガゼルは怒鳴るように聞き返した。
するとクライシスはハッキリとこう言った。
「……いいのか?」
その意外な返答に、ガゼルは唖然とする。
だがすぐに、大声でクライシスのことを笑いはじめた。
「あーッはっはっは!もちろんもちろん!あの吸血鬼は、俺が大層かわいがってやるよー! クククッ。これが?これが、あの狂戦士クライシスかよ!やっぱり装備がなけりゃ、第三席次も大したことねーのかッ。ぷはは、拍子抜けもいいところ……」
─ズズズ、ブォウゥーーンンン……… … … ……!!!!!!
その直後、突如として自身の周りの空間が激しく歪み、重力が何十倍にも膨れ上がるような錯覚に襲われた。
息がつまるなんて物じゃあない。内蔵を直接握りつぶされるような強烈な殺意だ。
身体中の筋線維が、本能で曲がる事を拒否する。
それでもガゼルは、どうにか意思の力で自身の首を動かすと、目の前の男に焦点を合わせる。
彼だ。そこにいたのは紛れもなく最強と謳われた狂戦士、クライシス・フォン・ハイブラスターであった。
「ク、クライシス。貴様ァ…っ!」
「……最後に言い遺す言葉は、それでいいのか?」
そして彼は抜刀と共に、秘めたる狂気を解放した。




