第66話 希望絶望…狂気
ダリアたちは、勇者の腰掛けで生き残っていた4,5人の冒険者にも指示を出した。
また村人たちに対しては、シャドウボルクのいない壊された壁とは反対側へと避難させる。
「さあ、早く奥の方へ逃げるんだ」
「わかった……!あ、あんた達も気をつけろよ」
「いいから早く行くんだ!」
ダリアは片手で剣を構えながら、荒い身振りで村人に立ち去るように促す。
本当ならば、彼らも宿の外に逃がしたくはあったが、もうすでにそのような猶予が許される状況ではなくなっていた。
(グルルルル……)
ガゼルにより命令を与えられた6体ものシャドウボルクは、村人たちを食い殺そうと執拗に狙っていた。
しかもこの宿の外には、他にも数体のシャドウボルクが村人が逃げられないように配置されており、脱出はより困難となっている。
「くっ、ここから先は通させないッス!!!」
マルティは右手に拾った盾を構え、片方の手で剣を逆手に構えた。
周りの冒険者たちも、同じように盾や剣を構える。
すると、彼らの闘気に反応したシャドウボルクたちは警戒を強め、マグマのように赤い瞳をギラつかせながら、恐ろしいうなり声を上げた。
そして6体のシャドウボルクは、こちらからは決して目をそらさずに、じりじりと間合いを詰めようとしてきた。
炎のようにゆらめく黒影の獣毛。その姿は、まるで地獄の番犬ケルベロスを思わせた。
冒険者たちはみな恐れおののき、中には自らの武器を手放してしまうものさえいた。
「だッ、ダメだ……。こんなの、勝ち目なんて最初から無かったんだ」
「終わりだ。そして誰も逃げられない。ここで全員死ぬんだ」
彼らは全員、自分たちが得物でしかないと悟ってしまったのだ。
数ではわずかにこちらが勝っていたが、相手は変異種で、ステータス上では圧倒的な差があった。
冒険者たちの心が折れる様を空からみていたガゼルは、卑しい笑みを浮べる。
「クク、惨め惨め。こんな犬クソも倒せないなんて貴様らなんて惨めなんだ。じゃあ、これ以上惨めを曝さないよう、さっさと殺してやるよッ!」
高笑いと共に、シャドウボルク達に命令は下された。
二体のシャドウボルクが、戦意を無くし、武器を落とした冒険者の一人に向かって襲い掛かる。
「グルゥ、ガァァッ!!!」
「ひぃっ!うわあああッ」
だがその時、前列にいたマルティは咄嗟にスキル:大神灼波を発動させた。
二体の突進を盾で受けとめながら、気功術の衝撃波で弾きとばす。
シャドウボルクたちは宙に舞い上がる。
すると、その瞬間を狙って、天井に隠れていたラズロ・パイルズが一瞬で素早く飛び出してきた。
「大剣奥義:レッドクリフ!」
垂直落下と同時に、短剣二本が喉笛を掻き切る。
大剣奥義を短剣で使ったため、威力はかなり下がっていたが、このアーツには防御無視効果があったのだ。
シャドウボルクは地面に落下。しかし大ダメージを負っていたがまだ余力があり、辛うじて立ち上がろうしていた。
そこで、ラザルスがクイックブレードを発動し完全にトドメを刺す。
襲われかけた冒険者は、命を救いほっとしたような表情を見せた。
「ラズロ・パイルズ……! た、助かったよ」
するといきなり、ダリアは躊躇なくその冒険者の頬を殴った。
「てめえらッ! 弱気になってんじゃねえーーー!」
─ボコっ
「へぶしッ」
冒険者は勢い余って横転し、その間にラズロは再び隠密スキルで身を隠す。
「お前ッ、いきなり何するんだよ!」
「そうだ!横暴だぞ」
「なに言ってんだ。お前らも冒険者なら覚悟を決めて戦えよ!じゃないと、あのガゼル・ホップスがどこまでも調子に乗るだろッ」
それを聞くと、先ほど戦意を失ったうちの一人はこんな事を言った。
「む、無理いうなよ。お前らはあんな恐ろしい魔物に立ち向かえるんだから、相当な実力者なのかもしれないけどな……」
「でも、俺たちは違うんだ。レフリー村長のやってた村人の救助活動にも参加できないくらい、弱小の冒険者なんだよ」
そう言うと、彼は視線を落とす。
他の冒険者たちも同じように皆、村に現れた魔物を恐れてこの宿屋に逃げて来ていた者たちだっだ。
「もう無理なんだよ。この村だって救えないし…、オレ達もあいつらみたいに、ここで死ぬんだァ!」
「……あなた達ね、さっきからウダウダ五月蠅いっス。数ではこっちが勝ってるんだから、まだ諦めるのは早いじゃんよ!」
「いやいや、オレ達みたいのなんか、熟練のお前らの戦力には入らないだろう?」
すると、それを聞いたラザルスは言った。
「勘違いしているようだから言っておく。君たちより、僕らの方が新人の冒険者だと思うぞ?僕とダリアなんか、冒険者になってからまだ半年も経ってないんだから」
「な゛っ、そんな……!」
冒険者たちはラザルスたちの戦う姿を見て、彼らが全員手練れの冒険者だと勘違いしていた。
勇者の腰掛けにいた冒険者たちの実力が足りてなかったからという事もあるだろうが、ラズロ以外の三人は、つい先ほどまでダンジョンで厳しい戦いを潜り抜けてきていた。
それにより、冒険者としてのレベルも急激に上昇していたのだ。
だが彼らは、知らないうちについた自分たちの実力など、これっぽっちも分かっていなかった。
「君たちが新人冒険者だって?? じゃあ尚更、絶望的じゃないか!」
「たしかにな。俺たちじゃあこの状況をどうにかする事は難しいし、悔しいけどあそこで浮いてるクソ野郎の魔法術師をブチのめす力もない」
「じゃあッ」
「でもクライシスはきっと来る! ここで耐えれば、必ず希望はあるんだ!!!」
ダリアは確信をもってそう伝えた。
すると、その思いが伝わったのか、ふとある冒険者が地面に落とした自分の武器を拾いあげる。
「……分からんが、とにかく誰か来るんだな!」
「ああ!」
そう言って強く頷く。
次第に冒険者たちに、再び闘志が電波し始めた。
「よし、やってやるぞ!」
「どうせ死ぬなら、一泡吹かせてやる」
「俺たちで村人を守るんだ!」
猛々しく戦意を滾らせた冒険者たちを見て、残った四体のシャドウボルクも警戒を露わにした。
それにさっき、群れの二体がやられたばかりでもある。
シャドウボルクたちは、まるでこちらに畏れを抱いたかのようにじりじりと後退しだした。
「奴ら、ビビってるぞ!」
「よし、チャンス到来! こっちは倍の人数いるんだ。二人で一体ずつ攻めるぞ!」
「「おおっ!!」」
だがその時、突然空から炎の槍が降り注ぎ、ダリアの目の前には大きな火柱が二つ上がった。
「お、当ったり~」




