第64話 鬼畜の所業
見張り役のもたらした凶報。それは冒険者たちに動揺と戦慄を与えた。
「ちくしょー!!とうとう見つかったのか!」
「やべーぞ。このままじゃ奴ら……俺たちどうする?」
「どうするっって…… いや、しかしッ」
村の冒険者たちは互いに顔を見合わせ、そして、目をそらした。
強力な魔法を操る脱法魔法術師あいてに、自分たちに何か出来るとも思わなかった。
それに、自分たちが何を成そうとも関係なく、これから村人達の居る一号店で、恐ろしいことが行われるのは必至だったのだ。
多くの者はその報せを聞いても、立ち尽くしたまますぐには動くことが出来なかった。
しかし、先ほどの弓使いは比較的早くに現状を理解すると、他の冒険者たちを扇動するようにこう言った。
「野郎ども、今の話を聞いたな? チャンスだ。敵の注意が向こうにあるうちにザクロ村から脱出するぞ。死にたい奴以外は俺と共に来い」
「あ…ああ」
そういって彼はパーティ―メンバーである数人の仲間を引き連れ、地下酒蔵室の出口階段へと向かった。
それを見た他の数人の冒険者も、おずおずと後ろからついて行く。
だが、弓使いが踏み段に足を掛けたその時、突然ダリアが横から走ってきて彼の顔面を殴りつけた。
「くがっ……」
鈍い音と共に弓使いは体勢を崩す。そして殴られた場所を押さえながら、ダリアの事をにらみつけた。
しかしその前に、ダリアは弓使いの胸倉に勢いよく掴みかかる。
「フッザけんじゃねーぞッ!!! 本気なのか?マジで村人を見捨てる気なのか??テメェら、それでも冒険者かよ!」
「フン、何が言いたい」
「それじゃあ、賊とやってることが変わらないって言ってるんだ!」
ダリアの憧れた冒険者とはこうではなかった。怒りのままに拳を握りしめる。
「……どうせ、お前だって、自分が危なくなったら逃げるんだろうが。そんなもんだよ。現実をみろよ若造めが」
「なんだとッ!!」
さらに殴りかかろうとするダリア。
だがそれをラザルスが止めた。
「ラザルスッ 放しやがれ!」
「落ち着けよ……! こんな奴に構ってる場合じゃないだろ。早く助けにいかなきゃ、手遅れになるぞ」
「……チっ、くそ!分かったよっ」
そう言ってダリアは弓使いを押しのけると、地上に続く階段を駆け上っていった。
「マルティも行こう」
「うん」
ラザルスにそう言われ、マルティも静かに頷く。
そうして彼らとラズロを加えたたった四人で、村人の救出へと向かったのだった。
宿屋「勇者の腰掛け」は、レフリーにとって一番最初の宿屋であった。
元冒険者であり、理想の宿というものに拘りがあったレフリーは、わざわざ村の外から建築系のスキルを持つ技術者を雇っては、大都市にも並んでいるような豪奢な宿舎を作らせたのだ。
そのため、宿は村にある他の建物と比べても、抜群に大きく堅牢だった。
砦のように立派な外壁は、並大抵の魔物の攻撃ではびくともしない。なので村人たちの避難場所としては最適のはずだった。
「クク、原住民共め。こんな所に隠れていやがったか」
ガゼルは生命探知を使えないが、召喚した魔物の何体かを使って情報を得ることが出来た。
それで、村人の一部がこの大きな宿屋に入っていく所を、視覚共有のスキルによって知り得たのだ。
「狂気の天災め。すぐにおびき出してやるからな」
そういってニヤつきながら、ガゼルは従えているストーンゴーレムを前進させた。
巨大なゴーレムが宿舎に迫ってくるのを見ると、勇者の腰掛けに避難している住人たちは皆恐怖した。
子供たちは泣き叫び、老人は必死に神に祈った。だがそれは、逆に自分たちの存在を敵に知らせる結果を招いたのだ。
建物の中から無数の人の気配を感じたガゼルは、即座にストーンゴーレムに指示を出した。
すると、ゴーレムは正面に向かって巨大な腕を振り下ろす。
轟音と共に、石壁は虚しく崩れ落ちた。
その時、中にいた村人の約三分の一が瓦礫に押しつぶされた。
目のまえで大勢の人間がミンチにされるのを見て、人々は狂気に侵される。
「キャアアアアあああ!!!」
「うわああぁっ!!!!!」
だが、それで終わりでは無かった。
ガゼルはゴーレムの背の上から舞い降りると、飛行魔法で村人たちの前に姿を現す。
「こら原住民共!お前らは生餌だ。あの狂戦士が現れるまで順番に殺してやる。もし死にたくなければ、さっさと……」
しかしその時、村人たちはみな目のまえの凄惨な光景に気を取られていたせいで、ガゼルの話などほとんど聞こえていなかったのだ。
「……クックック。そういう事なら仕方ないよなぁ?全員、死にたいってことだもんなっ!ハハハ」
そう言うと、ガゼルは自分の背後に黒い亜空間のゲートを出現させ、そこから複数の魔物を召喚した。
現れたのは血に飢えたシャドウボルクの群れ。その数、合わせて十体。
獣はうなり声を上げながら、獰猛な眼差しで目のまえでブルブルと怯える得物の品定めをした。
「行け、忠実なる下僕どもよ。……クク、なるべくいたぶれよ?すぐに終わらせちまったら、つまらないからな」
──駆け付けたマルティ達が見たのは、まさにこれから殺戮劇が行われようとするその瞬間だった。
「やめろォーーーッ!!!!」




