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Act.8「艦隊戦」.3


 テイの――メルクリウスの動きは、むろん敵にも捉えられている。

 いくらレーダーをごまかそうと、エンジンの発光と光学補足を欺瞞するのは、この速度では不可能だ。

 その分、気づいたときには遅いかもしれないが。


〈敵艦接近、迎撃ミサイル、間に合いません!〉

〈旗艦周辺の部隊を密集隊形にしろ! 敵の火砲を通すな!〉

「そこか。艦の厚みがあるのは――」


 出撃してくる航空機が、こちらを補足した。宇宙戦艦の主砲は、基本的に数光秒先の的に狙いを定めている。近接防御用の副砲もあるだろうが、主砲ほどではない。

 そのために艦載機を通常戦艦でも搭載していることが多く、それが出てきた。


〈なんだ、あの戦艦の速度!?〉

〈俺たちより速いのか。敵戦艦、艦隊右舷に旋回!〉

〈うろたえるな。敵はまさかの単騎。広域レーダーにも他の反応はない以上、敵戦力はごく限られている。その敵が取れる手段はたった一つ。敵司令官への電撃攻撃しかない!〉

「よくご存じで」


 旋回したメルクリウスは、敵の密集している箇所に向けてビームを打ち込む。だが、装甲の厚い艦が自らを盾にして防御フィールドを重ね掛けする。

 一隻二隻程度なら貫けただろうが、片側六隻の戦艦が、一隻を守るために密集している。集中砲火を浴びせるには、メルクリウスの艦首を垂直に立てなければならない。


〈側面に空きを作りつつ、敵の火砲を防ぐんだ。密集防御隊形を維持しろ〉

「ギリギリ貫けない。こちらの正面突破を誘っているのか」

〈なるほど、速い。そして強力な火砲だ。あの研究所がただの研究好きのたまり場というわけではないということが、はっきりとしたな〉


 敵の砲撃はメルクリウスには当たらない。だが、狙う場所がわかっている攻撃なら、ゲクランの王国艦隊は防ぎようがあった。

 その隙を見過ごす、コリニー伯ではない。


〈ゲクラン提督! その羽虫はそちらで押さえて置いていただこう。我らのミサイル艦隊はこれより研究所に強襲。その表面の氷と装甲を、一斉放火にて破壊してくれよう〉

〈どうやらそれがいいらしいですな。いつも通り、我らは盾。そちらは矛に〉

〈ふはははっ! 見せてくれよう。貴族連合の一番槍を!〉

「時間をかけていられない……強行突破か!」


 メルクリウスは旋回を中止。上げ舵七十。垂直に近い方向へ機首を巡らした。高速戦闘機でもやらないような急激な方向転換。ロールしながら進行方向を変えると、今度は正面方向にゲクランの船を捉えた。

 下げ舵六十。ジェットコースターのような勢いで、敵戦艦を上から攻撃する(トップアタック)


〈本気で突っ込んでくるのか!?〉

「それしか手はないんだ!」


 すでに彼の艦隊は攻撃方向を変えている。半月上に前衛艦が移動し、後衛艦たちも逆方向に延びている。ゲクランの旗艦を中心に半包囲隊形を形成しつつあるのだ。メルクリウスの突撃は、彼らの十字砲火の中へと飛び込むことと同意だった。

 戦艦は、巡航速度こそ速いが、旋回能力には乏しい。その巨体を振り回せば、中にいる人間たちが耐えられないからだ。人工重力発生装置が耐えられるGを維持しつつ、最大速度で旋回しようとすれば、半包囲が未完成な今、メルクリウスへの砲火は薄い。


「行くぞ、メルクリウス!」


 テイの光学観測ユニットは、敵の熱線に埋め尽くされた。



少しでも気に入っていただけたら幸いです。




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