Act.8「艦隊戦」.4
放たれた砲火を、強化されたシールドと流線形の装甲で弾き、そしてぎりぎりの回避でダメージを防いでいく。
〈提督をお守りしろ! 敵の接近を許すな!〉
〈あの旋回速度、人間が乗っていられるものではないな。これが、最新の戦術AIか〉
まさか、この提督もそこに人間の頭が詰まっているとは思っていないだろう。
だからこそ、重力や旋回速度の限界を超えながら、戦うことができる。
「倍返しだ!!」
すれ違いざまに叩き込まれるメルクリウスの火砲。外付けされたミサイルを撃ち尽くし、ポッドをパージすればわずかに加速力が上がる。ミサイル迎撃用のCIWSまでも前方へ向けて集中砲火。
そのすべてが、護衛艦隊の正面防御によって守られる。
〈シールド損壊、エンジンへのエネルギー逆流が止まりません!〉
〈三番艦被弾、速く離れろ、誘爆――!〉
直後、敵艦が一隻爆発する。吹き飛んだ衝撃で防御に穴が空いた。だが、こちらも再度攻撃は間に合わない。敵旗艦とすれ違い、後方へ抜けていく。
その状態で、機首を持ち上げながら、制動をかけた。
〈敵艦、コブラ! いえ、これは――〉
その様子を捉えたオペレーターの声は、上ずり震えていた。数百メートルの巨体が緊急制度から縦方向に宙返りを始めたのだ。その機種は、自分たちのエンジンに向いている。
コブラを超えてクルビット――その状態を維持して滑っていく。
〈総員、衝撃に備え!〉
「ここだ」
トリガーを引く必要はない。意識を動かせば、砲弾は発射される。Gに耐えられるAIユニットであり、ここが宇宙空間という墜落の心配のない場所だからこそできる芸当。
ゲクラン提督乗艦『ベルトラン』のエンジンを、メルクリウスの攻撃が貫いた。
〈旗艦被弾! 損傷甚大。ダメージコントロール、指令を脱出させるんだ!〉
〈ゲクラン提督! こちらが目標を制圧するまで持ちこたえるのだ。間もなくこちらは射程に――〉
〈超光速ミサイル接近! 迎撃間に合いません!〉
〈なにぃっ!?〉
遅延誘導弾が、コリニー伯乗艦『ガスパール』へ向かっていく。どちらも相手にするのは厳しかった。だからこそミサイルを道中に残した。
しかし、敵はどこからか飛んできたミサイルに注意を割く時間はさほど多くない。
「……すまない、メルクリウス」
アーブが、フリッシュ所長やファイン主任たちが造り上げた実験艦。その最後の武器を使ってでも、止めるしかない。全速力で移動しても、彼らのミサイル発射を防ぐ手立てはない。
「タキオンエンジン出力上昇。バースト臨界値を設定。脱出装置設定……」
高速演算処理でシステムを調整する傍ら、人間的思考が同時並列で皮肉な笑い声を、合成音声から発生させた。
「こんなところで、地球人傭兵らしさを発揮したくなかったよ」
進路固定。目標コリニー伯乗艦『ガスパール』
メルクリウスは確実に敵艦を撃沈し、ミサイルごと吹き飛ばす方法を取った。
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