Act.8「艦隊戦」.1
〈いやぁ、しかし、嫌な任務ですな。こう、何と言いますか〉
最初に通信を仲間の、同盟軍側へ飛ばしたのは、王国軍辺境指揮官ゲクラン。乗艦名は『ベルトラン』であり、攻撃力に定評のある提督である。
〈敵艦を一隻も残さない、苛烈な攻撃で知られるゲクラン提督とは思えない言葉ですな〉
答えたのは、貴族連合辺境伯コリニー。乗艦名は『ガスパール』少数部隊による奇襲戦法を得意とする提督だ。
〈そちらこそ、奇襲戦法という隠密性が尊ばれる戦術が得意のはず。このような艦列を並べた艦隊編成は、不本意では?〉
〈貴族たるものが本来コソ泥や泥を被った傭兵のように裏をかき忍び足で近づかなければならないなど、不名誉極まりない! 私とて、貴公のような高火力艦隊を指揮したいものであるさ!〉
〈落ち着いてくださいな。コリニー伯。あの研究所の分厚い氷を突破するには、あなたのミサイル艦艇が必要なのですから〉
高火力な艦艇を揃えたゲクランだが、決して交戦的というわけではないようだ。むしろ、この任務を忌避しているかのようにも思える。
〈まさか民間の研究施設を確保するためにこんな数の艦艇を有するものでしょうか。あまりにも過剰反応かと思いますが〉
〈ふん、大方、確保した後の帝国と共和国との戦いのためであろう〉
〈やっぱりそう思いますか? 奪えないなら壊してしまえと言われなかっただけ、ましかな〉
〈ゲクラン伯! そのようなたるんだ態度でどうする。この研究所の実験艦、すでに帝国と共和国の先遣隊を退けているようだ。決して油断はできないぞ〉
〈ええ。だから厄介なんですよ〉
彼らに油断はない。そして、コリニーはもちろん、ゲクランも手加減など考えていない。たった数隻とは言え、実験艦が両国の先遣部隊を潰した。その事実だけでこの二百隻を超える艦艇は警戒心を最大にまで引き上げている。
エース――時に撃墜王だの、ワンマンアーミーだの呼ばれる者によって、戦況が覆される状況は知っている。艦隊戦において発生しにくいものとは言え、敵は未知の性能を持つ艦艇。
油断などもってのほか、手加減して鹵獲しようなどというつもりはなかった。
「油断してくれていたらいいのに。良将は引き際を知り攻め時を違わぬものってことか」
受信した量子通信を解読したテイは、数で圧倒しながら確実にこちらを倒すことを狙う二人の提督に嘆息する。
共和国、帝国ともに数は少なく、こちらへの侮りが少なからずあった。だからこそ機体性能で圧倒し、艦載機の不在をもろともせず倒せた。
だが、次はそうはいかない。
「敵は縦深陣で近づいてくるか。当然だな、こっちは数が少ないんだから、包囲殲滅も確実。後方の防衛兵器群は機動性に乏しく、攻撃範囲もごく狭い……」
まるで巨大な壁が近づいてくるような圧力を、肉体を失ったはずのテイは船の装甲を通して感じ取っていた。
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