Act.6「再び戦場へ」.4
「タラップ収納。全作業員の退避を確認」
テイの入力したコマンドに沿って、船内に入るための通路、タラップが閉じていく。さらに周囲を生体レーダーで確認。問題ないことを告げる。
「艦内セルフチェックオールグリーン、タキオンエンジン始動開始」
窯に熱が入る。装甲表面にもわずかに熱が伝播して震え始めた。後ろから見れば、メインスラスター内部に青紫の光が見えるだろう。
「最終チェック完了。ドッグ内減圧――完了。メインスラスターをクローズからオープンへ」
スラスター内部で光が集まり、タキオン粒子が加速していく。
通常の内燃型にしろ、還流型にしろ、高レベルエネルギー推進システムは熱を伴う。だが、タキオンエンジンは超光速を実現した最新型エンジン。そのエネルギーはむしろ周囲の熱を奪う逆転現象を見せていた。
物理法則を超越したタキオンエンジンの起こす神秘的な光を、ドッグの外からアーブや、研究員たちは眺めている。
これから、自分たちの命運を決する戦いに赴く船の発進を、見守っていた。
「ドッグ開放、ゲートオープン。カタパルト上昇」
静かに、頭上の宇宙空間へ続く扉が開かれた。
漆黒、星々の煌めきがわずかに見える深淵へ続く暗黒の回廊へ、カタパルトが動き出す。分厚い氷の中に造られたコロニー。その氷が二つに割れて、ゆっくりとメルクリウスが姿を見せた。
「水星の神が、氷の星から現れる、か」
「水星の星?」
その会話は、上昇していくメルクリウスを見守るドッグ内で行われていた。アルヴァス人のファインは、昔を思い出すように言う。
「彼の、地球人の神話だったかな。賢者の石の象徴だとか、水の星の神だとか。研究者である我らには、それなりにいい名前だと思っていたが」
「彼は、神様なんかじゃないですよ」
「アーブ?」
「私たちと同じ、心を持った人間です」
その言葉を、テイは聞くことはできない。
ただ、人間であるのなら、彼は自分を拾った者たちを守りたいと思う。
力があるのなら、それを行使する理由と方法があるのなら。迷いを抱きながらも行動する。AIらしからぬ、そんな意思を持って。
「フライホイール接続。エンジン出力発進段階へ移行」
翼は広げられた。ならば後は、止まり木から飛び立つだけだ。
「ガントリーロック、解除!」
重低音とともに、船を固定する最後のロックが解除された。
同時に、氷の中に埋まっていた誘導ビーコンが光を放つ。まっすぐに伸びる光の道を、宇宙空間へ向けて突き進む。
「テイユニット、発進する!」
タキオンエンジンのスラスターがうなりを上げた。
最大出力、超光速航行へわずか二十六秒。
その姿を、コロニーの絶対防衛線へと押し出した。
「有視界戦闘領域、突入」
もう、後戻りはできない。
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