Act.6「再び戦場へ」.3
実験艦メルクリウスは、立派な戦闘艦へと変貌していた。
異常なまでに積載された火力を、高出力エンジンで運用する。軍事評論家が見たら泡を噴いて倒れそうな設計だが、それも成立するのは狂信的開発者たちの集まりであるからだろう。
「今から発進すれば、ちょうどコロニーが安全圏に出たところで、有視界戦闘距離に到達するかな」
「そうなったら、テイのいる場所が絶対防衛線だよ」
つまり、それより後ろには行かせられない。
帝国としては共和国のようにすぐさま武力行使を行ってくることはないであろうが、こちらが出撃すれば、相応の対抗処置を取ろうとしてくるだろう。
そして、会敵したころには、こちらが設定した停止ラインを踏み越える。
〈アーブ博士、テイユニットは今一緒かな?〉
「は、はい、一緒です!」
通信に声が聞こえてくる。フリッシュ所長からの声に、テイも耳を傾けた。
〈メルクリウスが出撃したのち、敵艦がこちらの要求した停止ラインを超えた瞬間、基地からの長距離ビームで狙撃を試みる。それが開戦の合図だと思ってくれていい。こちらは専守防衛のための自衛攻撃だと言うが、奴らからしてみれば反乱としてコロニーの制圧を行うだろう。だが、この距離を超えられると奴らの武装の射程でもある〉
「大丈夫だ。防衛線は把握している。一歩も通させはしないし、多少の長距離ミサイル程度なら迎撃できるでしょう」
〈民間研究施設の防衛設備を過大評価しないで貰いたいな……〉
だが、防衛のための設備は十分整えてある。そうでなければ強硬な姿勢を取られる前に、どこかの勢力に属して駐留艦隊でも派遣してもらっている。
〈すでに一般研究員は、ロンドミナス1への脱出を始めている。あの惑星は住環境が整っているわけではないが、過度な悪環境というわけでもない。深宇宙探索技術の粋を極めた我々なら、二か月以内にコロニー化することも可能だ。ちょうどいい移住実験にもなる〉
「けれど、次はロンドミナス1を狙われておしまいだ。帝国の船は、残らず落として僕に目を引き付ける」
〈悪いな。嫌な役目を引き受けさせる。その、転生した魂、とやらだというのは、未だに理解しがたいが〉
「気にしないでくれ。僕が一番理解できていない」
所長とテイの間に笑いが起こる。本の数分前にあったばかりの相手に、命を預けなければならない状況。なのに、どこか活気が湧いてくる。
フリッシュ所長も、結局研究者の一人であるのだ。
好奇心こそが、未来を切り拓く。
「アーブ、接続してくれ」
「うん……気を付けてね、テイ」
「君がいない分、最大加速ができるからちょうどいいさ。すぐに片づけて戻ってくる」
「足手まといは、ここで待ってるから。きちんと帰ってきなさいよ」
自嘲的な言葉は、一緒に行けない悔しさの発露だった。
コクピットに乗り込んだアーブの手で、メインコンピューターにシステムが接続される。自分が研究していたAIユニットが危険な、不本意な戦いに挑もうとしている。
彼女としては不満で、不安なのだろう。怒るより、心配そうな顔で、ヘルメット状のテイの頂点をペチリと叩く。
「気を付けてね!」
再び、今度は言い聞かせるように彼女は叫ぶ。ジェスチャーサインも何もできないテイは、カチカチ、とモニターを光らせる。特に意味はないけれど、返事だけはしておく。
そして、メルクリウスはゆっくりとカタパルトへ向けて移動した。
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