第2話 ご指名
ついに、家まで送らせてしまった。
男として、合わせる顔がなくなってしまう。
何を思ったのか、僕は別れたあと、彼女の後ろ姿をみていた。
すると、三串さんは道路を渡り終えると、傘をたたんでしまった。
それは、たった数秒のことであった。
まさかとは思ったが、図星らしい。
三串さんの家は、僕の家から近いどころか、道路を挟んで、茶色いマンションの向かいの、かわいいピンクの一軒家だった。
そして、僕が見つめていることに気付き、笑顔を向けるとともに、何か言葉を発し、扉の向こうに消えたが、それは雨の音にかき消され、僕の耳には届かなかった。
昨日のこと何か言われるかと思ったのに、何もなかったな。
朝、会った時も普通だった。
男は左右されやすいんだぞ。
てっきり気があるのかと思ってしまったくらいだ。
しかし、嬉しいことに三串さんは、僕の1つ前の席だから、後ろ姿ではあるが、授業中だって合法的に見ていられる。
ただ、それも昨日と今日の三日天下なわけだ。
残念なことに今から、クラス役員決めと班編成が行われる。
見納めってことで、しっかり目に焼き付けておこう。
今はホームルーム後の自由時間だが、教室を出るものはほとんどおらず、まだ入学ホヤホヤの雰囲気が抜け切らないようだ。
というか、昨日が入学式なんだっけ。
しばらくして、担任のかおちゃんこと、新城かおりが教室に入ってきた。
その変なあだ名は、クラスの女子たちがつけたものだろう。
昨日のうちによくそこまで頭がまわるもんだな。
「まず、委員長、副委員長を選びたいと思います」
――― バサッ ―――
かおちゃんがそう言い終えるか、終えないかのタイミングで、目の前に勢いよく手が挙がった。
と、同時にクラス内から大きな歓声が上がった。
知らなかった。
彼女がそういうタイプだったとは。
確かに、昨日も僕をグイグイ引っ張ってくれた。
意外に向いているのかもな。
「続きは、三串さんにお任せしたいと思います。
異論はありませんね」
もちろん、そんな意見は出ず、バトンは、彼女に渡された。
委員長は立候補者がいなかったが、彼女の手腕で他の委員は比較的すんなりと決まった。
しかし、その後も委員長だけがなかなか決まらなかった。
委員長は、副委員長と別姓でなければならない。
すなわち、男子だ。
かおちゃんも、三串さんも立候補を募ったが、一向に現れそうにない。
クラス全員で、委員長の決め方を話し合った。
結局、副委員長の指名で決定することになった。
そんな時間があれば、もっと早く決められるとおもうんだけどなぁ。
時間……、最近、何かその言葉に違和感を覚える。
過去、現在、未来。
僕は、過去を語れるほど長く生きていない。
未来を語れるほど先が見据えられているわけでもない。
しかし、その短い、悠久の流れにおいて何か違和感がある。
考えすぎだ。
夢で見たこととか、適当にごちゃまぜにしてしまっているんだろう。
ともかく、僕が三串さんに指名される可能性は皆無だ。
昨日1日で、男としてあれだけ頼りない一面を見せたのだから。
「私は、出席番号32番、都鳥 光弥くんを委員長に指名します!」
その一言で、クラスの男子たちの間にはびこっていた緊張感は消え去った。
僕も、他人事のように感じていたのだが、一応その渦中からは抜け出したことを確認したかった。
……??
マジかよ。
気付けば、クラスの男子、だけでなく女子からも仏を拝むかのような視線が、僕に惜しみなく降り注がれている。
そして、三串さんからはこの上ないほどの笑顔が向けられている。
それをみれば、もうどうでも良くなってきた。
よし、やってやらぁ!




