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禁忌×戦闘ディストーション  作者: Riviy
第七章 『禁忌』×戦闘ディストーション
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Mission83.最期の希望と最初の絶望



灯茉の元へ国彦が行くと真剣な表情で彼は問う。


〈良いか、国彦〉

「うん。覚悟はできてる」


灯茉はそうか、と国彦の答えに満足そうに笑った。国彦が全員を振り返り、頭を下げた。それが、誰が言うまでもなく合図となった。


「「撤退っ!!」」


西珠と小乃刃の声が重なり、国彦と灯茉を抜かした全員が元お社の出口目指して走り出す。崩れ落ちる天井や壁から逃れるように駆けて行く彼らを悲しそうな、それでいて嬉しそうな眼差しで見ていた国彦に灯茉は笑いながら言った。


〈今ならまだ間に合うぞ?〉

「大丈夫、名残惜しかっただけだからっ」


国彦は少し語尾を強めながら灯茉を振り返った。それが強がっているのは容易く分かる事だった。国彦は目元に浮かんだ涙を拭うと真剣な表情で見た。


「で、僕はどうすればいいの?」

〈嗚呼、このナイフを妾と共に持て。まずはそれからじゃ〉


灯茉の指示に従い、国彦は灯茉の持つナイフに自らの手を重ねる。途端、そのナイフからまばゆいほどの光が放たれた。国彦が驚いて手を引っ込めそうになるのを制止して灯茉がニィと笑う。


〈やはり、『神人』じゃったか。国彦!何があってもその手、離すではないぞ!〉

「わ、分かった!」


ドゴンッと近くで床が崩壊し、底が丸見えになる。底は何も見えない、真っ暗闇である。それを横目に国彦はギュッとナイフを握る手に力を込めた。底に落ちる、と云う一つの最悪のシナリオが国彦の頭をよぎり、体が今更ながら恐怖に震えた。

考えるなっ!

と自分を叱咤し、その思考を掻き消すと集中する。国彦の視界の隅に何かが移った。国彦が逃げ遅れたのかと慌てて顔を向けるとそこにいたのは


「…え…ティモリア、と、女の人?」


透明な姿をしたティモリアと女性だった。ティモリアの記憶で見たあの女性にそっくりだった。まさか……灯茉を見届けに来たの…?

可能性はあった。見届け人となる神様が全員、灯茉の時間稼ぎと云う名の準備で撤退しているのだから。見届け人はその場に居合わせる事が条件なのかもしれない。もしかして、察していて、見届け人とした?

仮定が仮説を生み、結果と結論へと導いていく。


〈国彦!〉


だが、それを国彦はすんでのところで遮断し、再び集中した。今、自分がやるべき事はそれではないのだから。国彦は自分を見る灯茉に頷くと彼も頷き返す。さあ、始まる。


ナイフを持つ2人の足元を円を描くように光が囲む。その光から風が吹き出し、2人の髪と頬を撫でていく。ナイフは依然として光っている。国彦は風と揺れで倒れぬように足に力を入れて踏ん張ると灯茉を見た。


「どうするの?!」

〈妾が『書き換え』を始める。お主は妾が最大限の"力"を使ったところを見計らって自身の"力"をこのナイフに注げ〉

「で、でも僕…」


タイミングも"力"も分からないし、使った事などない。

そう言おうとしていることに気づいた灯茉は彼を安心させるように口元を綻ばせた。


〈大丈夫じゃ。お主なら出来る〉

「………分かった」


真剣な眼差しで頷いた彼に頷き返し、灯茉は『書き換え』の言葉を紡いでいく。


〈我、『書き換え』を所望する者なり。女神、アラティナの"力"を受け継ぐ我に応え、この悲劇つぐないを『書き換え』よ〉


2人の足元に五芒星が一瞬にして描かれると淡い紫色の光を放ちながら2人の持つナイフを小さな五芒星が包み込んで行く。小さな五芒星が消えるとナイフの刃物の部分が長くなり、見事なまでに美しいダイヤモンドを柄頭に埋め込んだ長剣に変貌していた。それに驚く国彦を尻目に灯茉は紡ぐのをやめない。


〈人と神の戯れを、人と神の繋がりをそのままに…世界の寿命の『書き換え』を開始するっ!〉


ブオンと鈍い音と共に2人の周りを大きな木、火、土、金、水の文字が囲む。それらは小さく縮むと長剣の刃を回る。そして、ブワッ!とその刃から世界が、人間が、神が歩んだ道である光がこの空間いっぱいに広がる。光の中には様々な出来事が映し出されていた。その光が吐き出され、そして長剣の刃に戻って行く。これが『書き換え』なのか。聞きたくても灯茉は瞳を閉じて集中しているようで邪魔はできない。けれど、


「今だ!」


自分達とティモリアが戦っている場面が光の中に見えた。そこを狙って国彦は柄を持つ手に力を入れた。ドクン、心臓の鼓動が大きく鳴り響き、国彦の耳にまで聞こえて来る。全身の血が体中を駆け巡り、封じていた"力"が淡い碧色の光となって国彦の手を伝い、柄を伝い、刃を伝う。国彦は薄く目を閉じ、集中した。

『やり直し』を絶対止める。

その思いで。


ギッ、と鈍い音を立て、吐き出された光が動きを止め、外に出ようとする。ティモリアの、『禁忌』の思いもこちらに劣らず強い。だが、全て出てしまえば『書き換え』は失敗に終わる。灯茉は意識を集中させ、丁寧に光を戻して行く。光もその思考に感化されたのか、止まっていた光がゆっくりと長剣の刃へ戻って行く。


2人が止めている間も空間は崩れて行く。もう出口は瓦礫で塞がれていた。逃げる事などできるのだろうか、いや、できる。国彦は皮肉だなぁと"力"を注ぎ込みながら口元を歪める。それを薄目に見た灯茉も同意するように口元の端を歪めた。


〈『書き換え』は、完了した。あとは、止めるのみじゃ〉

「全部の"力"を注ぎ込みつもりで?」

〈嗚呼。最後の一仕事じゃ……さぁ、気を引き締めていくぞ〉


灯茉の言葉に返事をする意味で国彦は"力"を長剣に先程よりも大量に流し込む。足元の五芒星が淡く紫色に瞬き、長剣の刃を回っている小さな文字達もそれに共鳴するように光輝く。ズドン、ズドン、と瓦礫が2人の頭上付近から床へと落ち、床に空洞を作っていく。『禁忌』を封じ込めていたお社も限界なのだろう。壁にも亀裂が走り、いつ見えない天井が落ちてくるとも限らない。そんな危険な状況の中、2人は『やり直し』を止めるために"力"を注ぎ込み続ける。何分、何時間経ったかも分からない。時間感覚がずれて来ている。次第に2人の額からは汗が滲み出ていた。


その時、2人の頭上から大きな、鋭い瓦礫が落下した。その瓦礫はゆっくりと彼らに向かって下降する。2人に直撃すれば命はないだろうが、2人は皮肉な事に気づいていない。


そして、


〈「?!」〉


2人が気づいた時にはその瓦礫は目の前だった。瓦礫が2人をゆっくりと貫き、押し潰した。遅れてズドン……と音が響く。2人がいた足元に描かれていた五芒星が薄くなり、光を失っていく。2人を囲んでいた光と風も同様であった。押し潰された際に瓦礫から運よく破壊を免れた長剣。長剣の刃を回っていた文字達も光を失いつつも長剣の刃に吸い込まれていく。

『やり直し』は、終わった。結果は、失敗。


だがその時、長剣の刃が光輝き始めた。その光は次第に大きくなって行き、崩れて行く天井も亀裂が走った壁も床も2人も、国彦が見た透明な姿の2人も包み込み、次第にはこの空間を飛び出し、通路と云う通路全てに光を溢れさせた。そして、光が元お社全てを包み込み、その光景を見上げていた全ての人間と神様、倒され損ねた『忌鬼』達、世界を暖かく、優しく包み込んだ。




















《大昔、"誰か"がこう言った。


いずれ世界中を暖かく、優しい光が包み込むだろう

その光はやがて、新たな光を産み、哀しき影を癒すだろう

そして、……『黒』と『白』、『大罪』、『希望』と『絶望』、『罰』を償い、世界を平和に導くだろう


と。だがそれを誰も知らない。知っているのはその"誰か"とその"誰か"が心を許した唯一の人だけ。

その事実を知るのは、光が彼らを包み込んだその時。》























ヤバい。本当にもうすぐで終わりますよこれ。

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