Mission78.罰とは一体、なんなのか?
ティモリアの背後に出現した大きな闇は小さく分裂すると彼らに襲いかかって来た。鋭い刃となって襲い来るそれらを上手い具合にかわしながら国彦は両の大脇差をティモリアの眼前に突き刺した。それをティモリアは闇の一つがナイフになったもので防ぐとそのまま、今だに背後に広がる闇から刃物を出し、国彦に向かって攻撃させた。
「おっと、こっちの存在を忘れてもらっちゃ困るな」
〈〈?!〉〉
横から千聖が大斧をブンッと振り回して来た。国彦が後方に突然下がり、ティモリアの態勢が崩れる。国彦と入れ違いになって千聖が彼の前に躍り出る。ティモリアは気にせずに闇から出た刃物に攻撃させた。
〈〈ぐっ?!〉〉
「へへ、どんなもんよ!」
千聖が刃物を弾き飛ばしたその瞬間を狙ってナイフを振り上げたティモリアの体を別のものが貫いた。ビリビリと痺れる感触と脇腹に広がる痛みにティモリアが後退しながら確認すると雷を纏った大剣を持った西珠が国彦と千聖と共に立っていた。ティモリアが悔しげに舌打ちをした途端、彼らを攻撃していた刃物が消え、彼の背後の闇も消えた。ティモリアは何故か動かない彼らを前に、ナイフを持っていない片手を突き上げた。彼の背後から突如として『忌鬼』が体をくねらせて現れる。だが、ティモリアは混乱していて気づいていなかった。3人の奥にいる彼らの行動に。
「狐、頼んだ!」
千聖が叫ぶ。その声にティモリアはハッとした。管狐の9本の尻尾の上に鋭く尖った鬼火がごうごうと燃えていた。ティモリアは『忌鬼』達に早くするよう視線を送るが、本体であるティモリアが傷付いたためか、動きが遅い。
管狐がゆっくりと腕を上げ、鬼火に指示した。
「燃やせ」
凄まじい速さで鬼火が『忌鬼』達に襲いかかり燃やしていく。それに気をとられたティモリアへ螢と竜胆華丸が迫る。竜胆華丸が脇差を構え、ティモリアが動くよりも早く、その胴体に刃を振りかざした。ズバッと云う切れ味のいい音と共にティモリアの右肩から左脇腹まで一線。黒い、泥のような血が滲み、此処に来て初めて、痛みで呻き、顔を歪めた。
「終わってないよ!」
その掛け声と共に今度は螢の槍が彼に突き刺さる。その槍はティモリアの心臓辺りを貫き、背後にたまたまいた『忌鬼』までをも貫いた。槍に纏った光がティモリアから体力を奪って行く。ティモリアが持っていたナイフを振ると、ズボリと容赦なく槍が抜かれ、2人が皆の元に後退する。ティモリアはガクリ、と膝をついた。背後で出ようともがいていた『忌鬼』達は管狐の鬼火で既に全て黒い靄と化していた。
さすがにこれだけの連続攻撃はティモリアも無理だったらしい。先ほど国彦と灯茉から受けた傷もあっただろうが、肩で息をしており、その体からは黒い血が地面に染み込んで行っている。だが、第十部隊も同じだった。『神譜』は傷までは完全に治す事が出来ない。『神譜』を発動中でも神か人間が怪我をしていればその分、ダメージは来る。つまり、彼らも疲労困憊状態なのだ。最期の『神譜』、と言っても過言ではなかった。これで勝負をつける。
〈〈……………何故〉〉
「ん?」
〈〈何故、『禁忌』を認めぬ。貴様らが我らを倒そうとするのは、認めていないからだとしか思えん〉〉
まだ言うか。そう思った千聖が大斧で黙らせようと一歩、足を踏み出そうとするとそれを制する手があった。国彦である。国彦はティモリアをじっと見つめ、彼が言った言葉を口の中で噛み砕く。
この人は、何が言いたいんだろう?僕らに償いをさせたいだけじゃないのかな。僕らは……この事実を教えてくれた昔の人達は、『禁忌』を犯したのを認め、その償いとして力を奪い、閉じ込めた。後世に荷を背負わせてしまう形だったけれど、それは彼らなりの償いと認めだった。でも、何故、『禁忌』は認めていないと感じるんだろう?『やり直し』をしない限り、『禁忌』なりの償いとは認められないのかな……
そこまで考えて国彦はハッとした。ティモリアの容姿は自分にそっくりである。碧の目なんて神様や人間にそうそういるものではない。容姿はそっくりだが、雰囲気は別人である。その別人は国彦が、いや、此処にいる全員が知っている人物だ。千聖が隣で息を呑む声が聞こえた。彼らも別の違和感に気づき始めている。当の本人は彼らの心情など知らずにゆっくりと立ち上がるとナイフを落とした。右手の親指を噛んで黒い血を滴らせるとその血を地面に落とした。
何か来る。全員がそう思い、武器を構えたが何分、ティモリアに付けられた傷や『忌鬼』に付けられた傷が痛く、最初のように大きく立ち回る事は不可能に近かった。国彦はチラリと第五部隊を見る。貧血気味なのか誰も気絶から復活はしていない。彼らの臣下である神達がオペレーター部隊と連絡を取り合っている。他の『禁忌』と闘っている部隊と応援部隊が来るのが先か自分達が朽ちるのが先か……時間も体力も全てがない。
ティモリアの黒い血が地面に小さな水溜まりを作った。その瞬間、そこから黒い波紋が広がる。前のような刃物にはなっておらず、第十部隊はそれを腕で防ぐ。風が彼らの頬と髪を優しく撫でていく。波紋が通りすぎた時、国彦は声を聞いた気がした。
ティモリアの片手にはいつの間にか黒い鎌が握られていた。あの波紋は黒い鎌を出すさいのものだと容易に想像出来た。ティモリアは黒い鎌を握り、ゆっくりとした動きで構える。そして、また一瞬だけあの、"愛おしそうな目"を誰かに向ける。その意味は、意図は。国彦がそう考え出した時、頭の中からひび割れるような痛みが走り、反射的に頭を押さえてしまった。
「うっ…」
「?国彦?どうした?」
千聖が気にかけてくれるが国彦の心中は混乱していた。
この頭痛…あの時と似てるけど、僕じゃない!これは……
「国彦!」
千聖の緊迫した声に国彦は薄く目を開けた。目の前に、ティモリアの黒い鎌が迫っていた。千聖と西珠が国彦の前に躍り出るが鎌のリーチは2人の間をすり抜け、国彦を狙った。
その時、"誰か"が嗤った。
〈俺を、忘れないで下さいよ、『禁忌』〉
そんな、怒気を含んだ低い声が国彦の耳に届いた時、鎌を抑える白い骨があった。慌てて振り返ると左目から血を流した竜胆華丸が背中から生えている骨でガードしたのだと分かった。ブンッとその骨を払い、ティモリアが何を思ったか後退する。力を使い過ぎたのか竜胆華丸が倒れそうになるのを螢が支えた。
両者、動かず、にらみ合いが続く。その間、国彦はティモリアを凝視しながらこの頭痛の原因を見つけた。だがそれはあまりにも突拍子もない事。証拠すらないのに……
〈〈………………〉〉
「ん?なんか言ったか?」
ティモリアが小さな声で呟いたのを西珠が聞き逃さずに聞き返す。ティモリアは黒い鎌の柄をギュッと握り締め、"誰か"に向けて叫んだ。その顔は、酷く、歪んでいた。
〈〈貴様らが"裏切った"から『罰』は生まれた!『禁忌』は、貴様らの罪そのもの。その償いをしろ!〉〉
途中から支離滅裂、な気もする。それは長い間、『禁忌』であり続けた結果なのだろう。『禁忌』を抜けた緋暮と抜けなかった彼らの違いは、その償いを受け入れたかどうか。
彼らは武器を握り締めた。相手がなんと言おうと狂おうとこちらの目的は決まっているのだ。
「さあ、あやつを倒そう」
頭を軽く振り、頭痛と思考を振り払うと国彦は真剣な声色で言った。全員が小さく頷く。ティモリアもやる気のようで黒い鎌の柄を握る。両者が跳躍したまさにその時、ズゥン!と空気が揺れた。全員が足を止め、天井が見えない上を見上げる。パラパラと粉が落ちてくる。
「崩れかけてる?!」
「早くトドメ刺すぞ!」
螢と西珠の声に全員が我に返り、ティモリアを見た。すると彼は、何故か、黒い鎌を手離していた。
闘う事を諦めたのかー今の今で?ー
それとも何か策があるのかー可能性としてはゼロではないー
全員が困惑していると、彼は服の袖で口元を隠して、自傷気味に嗤った。
〈〈あいつらも、倒されたのかもしれんな。人間と神が『やり直し』を求めずにトドメを刺す……強欲で傲慢な貴様らの『罰』には相応しいかもな〉〉
「?…なに言って…」
よく意味が分からない。再び、空気が揺れた。その後、横揺れの地震が彼らを襲った。第十部隊は国彦、螢、竜胆華丸が地面に片膝をついて体勢を保ち、残りは足に力を入れ、踏ん張る。国彦がチラリとティモリアを見ると彼は
「…………………ねぇ、『禁忌』も『罰』も、一体、なんだろうね。倒そう倒そうしてきたけれど、今、その少しだけ、分かった気がするよ……ねぇ、灯茉」
少しだけ、泣いていた。
そして国彦から誰かが抜けた。
今回もネタバレの影響でプロフィールはお預けです…すいません…




