Mission77.神々の命
光が晴れ、国彦はある違和感に首を傾げた。刃物のような波紋は付近の地面に突き刺さっている。国彦は左腕に微かな痛みを覚えて左腕を見る。左腕に一線、紅い筋が出来ていた。攻撃が当たったのだろう。
待って。
僕でこの傷なら、僕の前に立ちはだかった灯茉は……?
国彦は前を向いて、目を疑う。国彦が感じた違和感の正体がそこにあった。
「灯茉!!」
全身傷だらけの灯茉が自分に寄りかかるように倒れて来た。彼を受け止め、ズルズルと座り込む国彦。国彦が灯茉を見ると彼は痛みに顔を歪め、息が荒かった。顔にも大きな傷があり、右目辺りからは血が流れ出ている。一番大きい傷は腹に出来たもので服に血が滲んでいて分かりにくいが肉が少し抉れているようだった。
「亜矢都!」
「狐幸!」
その2人の声に国彦が周りを見渡すと『神譜』を解いた神が自身の主を庇ったようだった。亜矢都は千聖に寄りかかるように倒れている。攻撃が頭を直撃したらしく、髪を結っていた簪が取れ、長髪が顔にかかっている。狐幸も管狐に寄りかかるように倒れており、右腕がぱっくりと切られて血が滲んでいる。
「大丈夫、やっくん?」
「おいぃ、白鉄…」
泣きそうな声に別の方を向くと額と腹辺りから血を出した弥厳が螢に抱きしめられるように抱えられていた。西珠の前にはスノーホワイトの髪の片側と右脇腹を紅く染めた白鉄が倒れている。
国彦は、ハッとして第五部隊の方を振り返った。そこには手錠をかけられた両手を前方に突き出すようにして立つ、傷だらけの緋暮がいた。その後ろには倒れかけている彼を心配そうに支える竜胆華丸と無事の第五部隊全員がいた。
〈う…〉
灯茉の呻き声に国彦は灯茉を見た。右目辺りから出た血によって染まった彼の顔を拭う。
どうしよう。
国彦の心中を支配する焦りと恐怖。
〈…国彦、無事、か〉
「灯茉、大丈夫?!なんで庇ったの?!」
国彦が怒ったように言うと彼はクスリと笑った。笑った意味が分からなかった国彦は怪訝な顔をした。灯茉が国彦の頭を弱々しく撫でた。
〈……守るべき、奴じゃからに…決まっておろう〉
「!?」
当たり前のように言う灯茉。他の神もそうだ。だから『神譜』を解いてまで自らの主を身をていして守ったのだ。恐らく、第五部隊はこの逆なのだろう。この、大きな攻撃を神が庇ったのではなく、人間である彼ら自身が庇い、傷を負ったのだ。
人間と神の信頼関係は、揺るがない。
だが、それを不愉快そうにティモリアは眺めていた。
〈〈神よ、何故、人間を庇う?人間よ、何故、神を庇う?何故、そこまでして相手を守る。すぐにくたばるような哀れな者を〉〉
低い、不機嫌そうな声に国彦は顔を上げ、彼を睨み付けた。自分と似たような容姿に思わず、顔がひきつる。
〈……なんで?なんでって、そりゃあ、大事な人だからだよ〉
弥厳が螢の手を借りながら立ち上がりつつ言う。その視線は傷を負っていながらも鋭く、ティモリアを貫く。それに続くように狐幸がフラリと立ち上がると管狐がそれを慌てて支える。
〈私達に居場所を与えてくださいました。大切な、大事な恩人です〉
次に立ち上がったのは白鉄だった。西珠に肩を貸して貰いながら立った彼の足取りはしっかりしたものだった。
〈大切な、大事なって言う理由じゃダメなん?おれたちは人間と2人で一つみたいなもんや〉
〈そうよ…全くその通りよ〉
亜矢都が乱れた長髪をそのままにゆっくりと立ち上がる。千聖が彼を支えると亜矢都はにっこりと笑った。
〈ワタシ達は助け合って生きてきた。ワタシ達は信頼の中で生きてるの〉
〈〈ハッ。戯け〉〉
ティモリアが嘲笑うと〈〈黙れっっ!〉〉と緋暮が声を上げた。途端にティモリアの顔が歪む。
〈〈僕も、分かる。彼らには彼らなりの生き方がある。神様と人間は信頼しあい、共に歩んできたからこその今がある……それを、見てすらいない、見ようとすらせずに思い込んだように決定付ける貴様に、嗤われる筋合いは、ないっっ!!〉〉
緋暮の目には確かな怒りと憎しみが宿っていた。国彦は灯茉が動くのを感じ、慌ててゆっくりと立ち上がる手助けをした。灯茉は鋭い視線をティモリアに投げつけると言い放つ。
〈『禁忌』を犯したのが世界であろうと人間であろうと妾達はこやつらを助ける。主であり、仲間であり、友人であり、家族である大切な、大事な者を放っておく神がいるはずなかろう〉
嗚呼、ありがとう。
「そこまで言われちゃあ、こっちも答えてやらなきゃなぁ」
西珠が嬉しそうに言った。それに第十部隊は頷く。
「大好きなやっくんのためだもんね!」
「臣下のためだ。これくらい当然だろう」
「ったく。良いときにカッコつけやがって、バァーカ」
〈ふふ、嬉しかったよ、緋暮〉
「ねぇ、灯茉。僕らも、同じだよ。契約以上の繋がり、信頼関係が僕らにある。神様も、人間も、今の世界も、何も知らないくせに、世界が犯した『禁忌』だからって、あんたの好きにはさせない!」
国彦が叫ぶ。傷ついていた体に力がみなぎってきた。第十部隊『神樂』はその足を地につき、力強く立つ。
此処にいる誰もが一つの目的のために動いている。大切な人と一緒にいるため、あの人を守るため、力になるため……その目的全ての頂点は『禁忌』を倒し、『大戦』に勝利する事。
歯が立たないと思い、重い攻撃を食らったとしても、彼らは勝つまで闘い続ける。世界を守るために、『禁忌』を倒すために。
「オレ達は『『禁忌』対抗専門組織』戦闘支部第十部隊『神樂』。さあ、もう一度、神と共に舞を披露しようぜ!」
西珠が力の限りに叫ぶと第十部隊が各々の返事を返す。ティモリアは憤怒と、憎しみで顔を歪ませた。碧の瞳が淀む。
さあ、再戦だ。目的を果たすまで、突き進む。人間は、神はそういう生き物なのだから。
〈〈その強気な言葉はいつまで続くか、見物だな!その全て、喰らい尽くしてやろうぞ!〉〉
目を開き、両腕を広げて言ったティモリアの背後に大きな闇が広がった。全員が傷を意図もせずにしっかりと立ち、『神譜』を発動させていく。
「雷神様とオレの稲妻、喰らってからでも言えんのかねぇ!?」
〈おれたちの本気、甘くみんといてっ!〉
雷を纏わせた大剣を右肩に担ぎ、西珠と白鉄が挑発的に言い放つ。バチバチと火花が散るその姿はまるで雷の衣をまとっているかのようであった。
「妖狐の実力、その身を持って体感して死ね」
〈我が君、お言葉が過ぎますぞ。しかしながら、同意です〉
9本の尻尾がゆらゆらと揺り動き、管狐と狐幸の言葉からは黒い殺気が舞い上がる。まさに黒いオーラに包まれた彼は妖狐そのものであった。
「ボクらの攻撃は、そんな簡単に止まんないよ?」
〈だよなー螢。それを、止められるのかな?〉
美しい光と幻のように儚い蝶を槍に纏わせた、螢と弥厳が悪戯っ子のように言う。たまに螢の周りを2色の光が舞うがそれはまるで天女の羽衣のようであった。
「戦闘神の最強クラスの攻撃、当たっても泣くんじゃねぇぞ?」
〈あら、ちーちゃん。泣くだなんて柔いわ。それ以上に、ボッコボコよ♪〉
千聖と亜矢都が相手をおちょくるように言い放つ。千聖の首の左側を侵食している龍の刺青と同じ龍が千聖を守るかのように彼の周りを回り、大斧へと吸い込まれて行った。
〈俺だって、出来るんです。舐めないでくださいっ!〉
〈〈僕の大将様は~強いんだから、後悔しても遅いし、許さない〉〉
竜胆華丸が意気込み、緋暮が脅すように言う。どうやら例外の『神譜』が成功したようで竜胆華丸の左目と背中から『忌鬼』に狩られた時と同じような骨の腕、左目には手先のような骨が伸びている。首元には紅いまだら模様がついた、緋暮のマフラーを巻いている。その姿は不気味であると共に何処か神々しかった。
「理由がどうであれ、『禁忌』を犯したのは世界であり、僕らだ」
〈だがのぉ、それが『やり直し』の、滅亡の理由には決してならん〉
国彦と灯茉の周りを何処からともなく吹いた風が包み、灯茉の姿が少しずつ薄くなって行く。そして、灯茉の姿が消えた時、国彦の両耳には契約した証のイヤリングがあった。碧の瞳を開け、真剣に、力強く、その言葉を吐き出す。
『禁忌』の顔が不愉快そうに嗤う。
「〈世界が犯した『禁忌』を今ここで、全て消す!〉」
戦闘支部第十部隊『神樂』とティモリアが同時に相手に向かって跳躍した。
一体、プロフィール止めます!じゃないとただのネタバレゾーンになっちゃうんで!ちゃんと出しますよ!




