Mission76.堕ちた最強
「は………?」
誰という事もなく、そんな声がもれる。彼らの目の前には、何処かで恐れていた光景が広がっていた。誰もが目を、疑った。
戦闘支部最強と名高い第五部隊が、ティモリアによって完全敗北していた。ティモリアから離れたところ、近いところに血が出た傷を、痛みに歪んだ顔で押さえながら第五部隊隊員が倒れている。その脇には『神譜』を解いて自らの主を心配する神の姿があった。神の力が全て、人を治せるとは限らない。
ティモリアは驚く第十部隊を見て、愉快そうに嗤った。ゾワッ!国彦の、全員の背に悪寒が走る。だが、それを彼らは忘れていた。仲間達が傷つけられた事に怒り震えていた。
「やっくん!」
〈分かった!〉
螢の指示で『神譜』を解いた弥厳が現れる。それに我に返ったように西珠が叫んだ。
「第五部隊を下がらせるぞ!千聖、竜胆華丸、緋暮はオレと一緒に時間を稼げっ!」
3人に返事を聞く前に西珠は上着をはためかせて悠然と立つティモリアに向かって行く。千聖は一拍、つくとその後を追った。その後に2人が続く。国彦は灯茉と管狐と共に傷ついた隊員達を入り口近くへと運び込む。神も手伝い、ゆっくりと怪我人を運ぶ。入り口近くでは運ばれてきた隊員達に弥厳が微弱ながらに持つ医学と神の力で傷を軽症にしていく。
国彦は最後の隊員を運び終え、前方を振り返った。雷を飛ばす西珠と大斧を振り回す千聖の攻撃、後方支援する緋暮と竜胆華丸の攻撃はティモリアに意図も簡単に避けられており、弄ばれている。彼らの体にはティモリアに傷つけられたのか小さな傷がいつの間にかついている。
それを見た国彦は顔が熱くなったのを感じた。怒りで、感情が高ぶっているのだと自分でも理解出来た。そんな自分を落ち着かせるように2振りの大脇差の柄を強く握り締めた。
「灯茉、行くよ!」
〈はぁ…しょうがないのぉ〉
国彦の言葉に灯茉は苦笑しつつも走り出した彼を空中を滑るように飛んで追う。それに気づいた管狐が後ろで何やら叫んでいたが国彦と灯茉の耳には入らなかった。
「っ!なんでこんなに第十部隊の新人は出ていくんだ?!」
「しょうがないねー」
乱暴に前髪をかきあげ、不満を露にする管狐に螢がこの場に合わない、含み笑いをして言った。その後ろでは治療を終えつつある弥厳も俯いて笑いを堪えている。そのため治療している第五部隊隊員とその神が不思議そうな顔を弥厳に向けている。
管狐が螢の言い分にため息をつきながら同意するように笑った。
一方、彼らはティモリアに攻撃をかわされ、逆に攻撃を受けて傷ついてしまった事に一瞬の焦りを覚えていた。
千聖が大斧を振る。がそれをティモリアはヒラリとかわす。そしてその背後から放たれた雷も見ずにかわす。
クソッと千聖は内心で舌打ちすると大きく跳躍した。柄を握り締め、亜矢都に脳内で「攻撃力を上げろ」と指示すると亜矢都は心配そうに躊躇いの声を上げた。が大斧に刻まれた双龍が光輝き、動いたように見えた。そのまま千聖はこちらを振り返ろうとしていたティモリアの頭上から大斧を振り下ろした。
「…………は?」
〈ウソ…〉
千聖と亜矢都の呆けた声が響く。千聖は目の前の光景に目を見開いた。攻撃した大斧が、ティモリアの指先で防がれていた。たった一本の人差し指によって防がれた攻撃。ティモリアは千聖を振り返り、愉快そうに嗤うと千聖を武器ごと弾いた。受け身を取れなかった千聖が地面を転がる。立ち上がろうとする彼にティモリアが攻撃を仕掛ける。西珠がハッと我に返り、大剣を構える。バチバチッと大剣に雷がまとわりつき、豪華な上着がはためく。西珠が地面を踏み込み、攻撃態勢のティモリアに向かって雷が纏った大剣を突き刺した。
「うおおおおおおお!!!」
ティモリアは一瞬、驚いたような表情を見せたが次の瞬間には西珠を嘲笑うかのように口元を歪めた。その顔は、恐ろしく、不気味だった。
〈〈馬鹿が〉〉
ブオン、不気味な音が西珠の持つ大剣に軽く、人差し指だけで触れたティモリアの指先からした。途端、黒い波紋と共に西珠が突然、吹っ飛ばされた。波紋は刃のように鋭いらしく、彼の腹と左肩を切り裂いた。吹っ飛ばされた西珠は壁から突き出ている鋭い角のようなものに当たりそうになったがすんでのところで足でスピードを落として、ギリギリで回避した。が、傷が痛むらしく大剣を杖に片膝をついた。クスリと西珠を見てティモリアが愉快そうに口元を歪める。が、何かに気づいてその笑みをしまう。スッと彼の眼面に突き刺さる勢いで脇差が突き出された。それを仰け反ってかわしたティモリアは横目でその正体を見る。その正体は竜胆華丸だった。ティモリアはガッと容赦なく竜胆華丸の脇差を持つ手首を掴み上げると暴れる彼を尻目に掴んでいない方の片手に何やら形作るとその鋭いものを彼の腹に突き刺した。痛みで動けない2人が恐怖の声を上げかける。
〈?!〉
強く目を閉じた竜胆華丸は一向に来ない痛みに疑問を抱いた。ゆっくりと片目を開くとそこには緋暮が手錠の鎖でその鋭いものを防いでいた。主である竜胆華丸を害されそうになった事にその顔には怒りが満ちていた。その彼の表情にティモリアは不機嫌そうに顔を歪めた。
〈〈大将様から、離れてよ、ねっ!〉〉
ガキンッと緋暮は鎖で鋭いものを弾くと後方に飛んだティモリアから竜胆華丸を救出した。
その途端、グサッと嫌な、鈍い音がした。ティモリアがその音がした方、下を見る。自分の胸辺りから刃物の切っ先が突き出ていた。今度は千聖達が愉快そうに笑う番だった。
「人数は確認するもんだよっ!」
ティモリアの背後にいたのは国彦だった。国彦は左の大脇差を容赦なく引き抜くと2振りの大脇差で回転斬りを放った。かすかにティモリアの体が攻撃で前のめりになる。そこへ追い討ちをかけるように前方に回り込んだ灯茉が右腕を振り切り、一線を与える。その一線はティモリアの左頬から右の胴体を切り裂いた。その傷口から血のような黒い、ドロッとしたものが微かに流れ出す。その時、国彦と灯茉は彼が口元を歪めているのに気づいた。決して、痛みからではない事を知りながら。
「!?」
〈お主ら下がれっっ!!〉
灯茉が緊迫感に満ちた声で叫ぶと国彦を庇うように手を伸ばして駆けた。その叫びを聞いた全員が武器で次に起こるであろう事に驚愕と緊張を称えた瞳をし、備える。動けない第五部隊隊員を守るように彼らの神が立ちはだかり、管狐、螢、弥厳は助太刀しようとして動き出していたが灯茉の警告に足を止め、防ぐ準備をする。
口元を歪めたまま、ティモリアは空中で静止した。その途端、彼から黒く、先ほどよりも大きく、鋭い波紋が放たれた。波紋が放たれたと同時に眩いほどの光も放たれ、全員の視界を塞いだ。眩いほどの光の中、どこから来るとも分からない波紋を武器で防ごうと全員が構えた。
光の中で、何かが切り刻まれる音と呻く声が聞こえた。
・候補生&訓練関係者
斬原 千聖
国彦と同じ戦闘支部第十五期候補生の一人。大雑把でバサバサした性格だがこれでも戦闘能力はピカイチで優しい。武器は大斧。臣下の神は戦闘神の亜矢都。
→戦闘支部第十部隊『神樂』所属
19歳、175cm
第一人称:俺 第二人称:お前
亜矢都
千聖の臣下である戦闘神で武器の大斧。オネェだが好きなのは女性。可愛いモノ好き。千聖の血によって人間の姿になれる。
主である千聖の呼び名はちーちゃん
→戦闘支部第十部隊『神樂』所属(千聖の臣下のため所属扱い)
(人間の姿の場合)推定25歳、177cm+ヒール2cm
第一人称:ワタシ 第二人称:アナタ




