Mission75.命を燃やした罰の果て
残った戦闘支部第五部隊と第十部隊は前へ前へと進んでいた。そして、目の前にはまたもや空間が。此処が最後だと誰もが感じ取った。仲間同士で頷きあい、彼らはゆっくりとその空間、開けた空間へ足を踏み入れた。
そこは今までと打って変わって異様な空気に包まれていた。気色悪い色をした壁から突き出た無数の鋭い角のようなもの。空間の奥に設置された古びた、扉が壊された小さなお社。そのすぐ近くに集うは大小様々な『忌鬼』達。それを見て彼らは武器を構えた。がおかしい、と首を傾げる。
「『忌鬼』だけか…?」
「そりゃあねぇだろ」
そう。『忌鬼』だけで肝心の最後の一人、ボスが見当たらないのだ。まさか、自分達を油断させる魂胆か?誰もがそう思った。"緋暮という『禁忌』"を除いて。
〈〈?!〉〉
緋暮が『忌鬼』達の群れを凝視する。その様子に第十部隊や彼の主である竜胆華丸は驚きを隠せずに困惑している。あそこに何がいるのか。考えなくても…分かる、が脳がそれを拒否する。あそこにいるのは自分達の最大の敵だから。
「……来るぞ」
西珠が緊張した声色で低く呟くと全員が武器を握り締めた。緋暮が『忌鬼』達を睨み付けるように凝視した後、彼らより一歩前に出て、挑発するように言い放った。
〈〈あれぇ~?なんでそんなとこに隠れてるの~?もしかして、怖いの?〉〉
ユラァと『忌鬼』達の前の空間が歪む。その歪んだ空間はバチバチと場違いな音を出しながら誰かを吐き出すように漂う。その真っ黒な暗闇のような空間からは金色が見え隠れしている。その金色が、暗闇から姿を現した。途端に感じる、感じた事もないほどの悪寒と殺気、そして恐れ。幹部らしい『禁忌』などとは比較にならない。つまりは。
〈〈なんだ?裏切り者風情がよくそんな大口を叩けたものよの〉〉
腰に手を当て、緋暮を嘲笑うその者こそ、世界が犯した『禁忌』。その『禁忌』は彼らを一瞬のうちに値踏みするように眺めた。緋暮は不機嫌そうに顔を歪めて再び言い放つ。
〈〈だって、みんな僕のこと邪魔扱いするんだもん。そんなとこよりは組織側の方がいいもん!〉〉
その発言に『禁忌』は口角を上げ、不気味に微笑んだ。一瞬、口裂け女かと思うくらいにその笑みは不気味であった。その笑みに国彦や螢、第五部隊の女性隊員が「ひっ」と小さく悲鳴をあげる。
〈〈そうか。なら確実に、貴様は始末しよう………そこの愚かな人間と神共と一緒になっっ!!〉〉
目を見開き、憎しみのままに『禁忌』が叫ぶと背後に仕えていた『忌鬼』達が同意するように雄叫びを上げた。雄叫びが異様な空間の中でこだまし、耳が痛くなる。全員が武器を構えた。
「西珠!『忌鬼』を頼んだぞ」
「わぁかってらぁ」
第五部隊の隊長が隣に立つ西珠に言うと彼は大剣を担いで仕方なさそうに言う。ザッと第十部隊が武器を構える。それを背後で感じ取り、西珠は満足そうに口角を上げた。国彦は前に立つ千聖と管狐の隙間から『禁忌』がこっちを見ている事に気がついた。他の者は気づいていないようだが誰かを愛おしいそうに見ていたが視線を逸らした。それに気づいた緋暮が顔だけで後ろを振り返ったがすぐさま前を向いた。
『禁忌』は愉快そうに背後に仕える『忌鬼』達を尻目に見ると両腕を広げ、人間と神を挑発する。
〈〈某の名はティモリア。世界が犯せし『禁忌』〉〉
不気味に微笑んだ『禁忌』は男性でティモリアと言った。彼は金色の髪で後ろ髪が一本異様に長い。瞳は碧。黒と赤を基調とした巫女服(男物。男です)を着て、掌から二の腕までを覆う黒の長手袋をしている。靴はブーツらしく先っぽが服から見え隠れしている。
〈〈さあ、喰らい尽くすが良い!〉〉
ティモリアが右腕を彼らに向けると『忌鬼』達が一斉に駆け出した。
〈〈気をつけて!あの人の分身が一番強いんだから!〉〉
緋暮が警告するように叫ぶ。それに答えるように全員が武器を真剣な表情で握り締めた。
「行くぞおめぇら?」
「任せろ」
「ボクらに敵うかな?」
「ぶったぎってやる」
「頑張ります!」
〈早よ終わらせよ〉
〈お任せください!〉
第十部隊『神樂』は襲いかかってきた『忌鬼』達の群れに奇襲のつもりで駆け出すと大きく跳躍した。
国彦はこちらに向かって来た、片腕が大太刀と同化した『忌鬼』の攻撃を空中で一回転して避けながら"灯丸"(以下、左の大脇差)で敵の目元を一線。唐突の痛みで喚く『忌鬼』を尻目に、着地して振り返り様に"彦丸"(以下、右の大脇差)を振る。が、それは別の大型の『忌鬼』に阻まれる。国彦はガッと相手を弾き飛ばすと目元を攻撃した『忌鬼』が大型と入れ替わり、国彦を攻撃。国彦は後ろに後退しながら回避すると緋暮の言っていた意味を理解する。
「(緋暮が言ってた強いって連携を取るって事!?)」
そう、今までの『忌鬼』達は知識があるリーダーの『忌鬼』の指示に従ってこちらに攻撃してきていた。連携などまるで無視だった。だが、『禁忌』のボスであるティモリアの分身はほぼ2体一組で行動し、そして連携を取っている。
「なるほどね…」
国彦が納得した表情でニィと笑う。大型の『忌鬼』が国彦に向けて刃物を振り下ろす。それを大脇差2振りを交差させて防ぐ。腕が大太刀と同化した『忌鬼』がそれを狙ったかのように国彦の背後に現れ、大太刀を振った。
自分が以前、使っていた大太刀。そのリーチは把握している。
「灯茉!」
〈全く、安らぐ時がないのぉ。お主といる、とっ!〉
国彦が頭上を見上げ、叫ぶと灯茉が空中に浮かんでいた。灯茉はそう皮肉をもらしながら右腕を下に向けて振った。途端に、大型の『忌鬼』の腕がスパッと消えた。突然の事で戸惑いを隠せない『忌鬼』の肩に手を置いてその背後に向かって飛ぶ。国彦を攻撃しようとしていた『忌鬼』は彼が突然消えたように見えて対処出来ず、その大太刀を仲間の『忌鬼』に振り切った。途端に一体消滅。
国彦は「ナイス!」と降りてきた灯茉と軽めにハイタッチをかわし、残り一体に向かって跳躍する。自分の武器で仲間を倒してしまった事に動揺する事なく、大太刀と同化した腕を2人に向ける『忌鬼』。上空から上段斬りを2振りの大脇差で国彦が攻撃するとそれを顔であろう赤い目が輝く顔の前に大太刀を垂直に置くことで『忌鬼』は防ぐ。その背後から灯茉が攻撃しようと右腕を振り上げた。その時、国彦の目の前で『忌鬼』の赤い目が細められた。まるで嗤っているような。嫌な胸騒ぎがして国彦は大太刀を弾いて空中で一回転し、着地するとその正体が分からぬまま、片膝をついた状態で灯茉に向かって叫んだ。
「灯茉!!」
〈モウ、遅イ〉
目の前の『忌鬼』が嘲笑う。灯茉は国彦の悲鳴じみた声に行動を中断した。その途端
〈うっ?!〉
振り上げた右腕を何かが後ろから強い力で引っ張った。それは灯茉の首にも容赦なく強い力で巻き付いた。灯茉が締め付けられる痛みに顔を歪めながらその正体をかろうじて振り返って見るとそれは背中から何本もの蛇を生やした『忌鬼』だった。連携を取っていた片割れが消滅した場合は別の『忌鬼』がサポートする事になっていたのか、灯茉を捕らえている『忌鬼』は能面のような顔を歪ませて愉快そうに嗤った。ちっ、と灯茉は悔しそうに舌打ちすると無事な左腕を振り、蛇を引き裂くと彼らよりも頭上に上昇した。
一方、国彦は灯茉が脱出できたことにホッと胸を撫で下ろすと迫って来た大太刀のリーチを利用し、その懐に潜り込んだ。そして、『忌鬼』を横に蹴って飛ばした。『忌鬼』は壁から突き出た鋭い角のようなものに体を貫かれるが、『アラーヴァ』らしく、そこから脱出した貫かれた体は徐々に回復していく。角のようなものから脱出した『忌鬼』改め『アラーヴァ』は愉快そうに赤い目を細めた。それに背後からの異様な気配を感じて国彦は咄嗟に頭上に飛んだ。途端、ついさっきまで彼がいた場所に壁から突き出た鋭い角のようなものが突如現れた。それに呆気にとられながら国彦が視線を動かすと自分が立っていた場所の数メートル先に杖のような物をもった『忌鬼』がいた。恐らく、そいつだろう。神が使うような力もとい技術、これも緋暮が警告していたものの一つだと国彦は気付き、空中で体を捻ると着地した。前には高度な技術を使う『忌鬼』、後ろには『アラーヴァ』。完全に阻まれた。国彦の頭上では灯茉が蛇のような物を持つ『忌鬼』と格闘を繰り広げている。他の仲間も別の『忌鬼』の相手をしているし、第五部隊はティモリアの相手をしている。此処は自分でどうにか、『神譜』を発動していない自分だけでどうにかするしかない。国彦は両の大脇差の柄を強く、握り締めた。
〈頭を下げて下さいっっっ!!〉
突然、悲鳴にも似た叫び声が響いた。国彦はまたもや呆気にとられながらも頭上の灯茉と視線を合わせると、頭を抱えてしゃがみこんだ。紅い、まだら模様を持つ白いマフラーがしゃがみこんだ国彦の視界の端に映った。
〈〈簡単に倒せると思わないでよ?〉〉
緋暮が竜胆華丸の隣で両手を胸の前にかざす。
〈〈貴方の“罪”を解放しましょう。“絡めの法則”〉〉
ブオンと不気味な、風を切る音がした途端、『忌鬼』達の頭上に何かが現れた。そしてその何かはゆらゆら揺れながら、『忌鬼』達の上に落ちた。ズドン、と重い音に国彦が目を向けると前方にいた『忌鬼』と後方にいた『アラーヴァ』が巨大なつららに頭から貫かれていた。頭から完全に潰れ、『アラーヴァ』で復活したとしてもそこに居座った巨大なつららによって黒い靄とすぐさま化していく。国彦が躊躇いがちに周りを見ると仲間達が相手をしていた『忌鬼』や『アラーヴァ』は緋暮が出現させたであろう巨大なつららの下敷きになって黒い靄と化していた。が、それよりも国彦は自分の近くー正確には数メールほど先ーに突き刺さったつららに驚いていた。巨大な分、正確に敵に当てるのが難しいのだろう。国彦は竜胆華丸の指示に従って頭を下げた事にホッと胸を撫で下ろした。立ち上がりつつ、頭上を見上げると無事な灯茉がこちらに向かって降下してくるところだった。
〈全く…凄いものを使う童じゃ〉
〈〈だって一気に倒すにはこれしかなかったんだもん。どーせ、あの人は僕についての『忌鬼』の対策、してなかったと思ったし~〉〉
灯茉に答えるように緋暮がちょっと得意気な顔をして竜胆華丸と共にこちらにやって来る。
「ったく、すげぇのやんなぁ」
「お陰ですっきりしちゃったけどね」
千聖達もやって来た。とりあえず、『忌鬼』は倒したようだ。また出てくると云う可能性は捨てきれない。第十部隊は第五部隊が相手をしているであろうティモリアの方へと目を向けた。嫌な胸騒ぎが警鐘を鳴らしていたことを無視して。
3月中には終わらせたいな…
・戦闘支部第十部隊『神樂』
弥厳
元バカ王太子の臣下。だが今は医療支部と国彦達のおかげで新しい主に巡り会えた。戦闘支部第十部隊『神樂』の副隊長の臣下。しっかりとした性格で螢の彼氏。三月生まれの神(不明?)。
主である螢の呼び名は主、螢
推定14歳、167cm
第一人称:オレ 第二人称:貴方
林速 螢
戦闘支部第十一期候補生。今は戦闘支部第十部隊『神樂』の副隊長。小乃刃の従妹。臣下は弥厳で武器は槍。
上下関係をあまり好んでいないため気楽が好き。
20歳、162cm
第一人称:ボク 第二人称:キミ
管狐
戦闘支部第九期候補生。今は戦闘支部第十部隊『神樂』の一員。通称、狐。顔の上半分を隠す狐の仮面をしている。クールな奴だけどいい奴。真面目。武器は刀。臣下は同じく狐という名がつくものだとか。
23歳、181cm
第一人称:俺 第二人称:名前
西珠
戦闘支部第八期候補生。今は戦闘支部第十部隊『神樂』の隊長。いつも酒を飲んでいることから酒呑童子と呼ばれる。ちゃんとやれば出来る酔っ払いおっさん。武器は大剣。臣下は大剣らしいが……?
33歳、178cm
第一人称:オレ 第二人称:お前、おめぇ
狐幸
管狐の臣下。長谷部大御神の兄
普段は刀。だが気分屋で人型になるのも気分次第。祈祷、呪詛とか諸々大得意。狐ってついているが油揚げは嫌いです。人型は主である管狐と同じ姿で仮面なしで髪が長い。
主である管狐の呼び名は我が君
(人間の姿の場合)推定28歳、184cm
第一人称:私、小生 第二人称:名前殿
白鉄
西珠の臣下。狐幸と同じように気分屋で関西弁を喋る。神には珍しく雷属性を持つ。雷神。普段は大剣。
主である西珠の呼び名は西珠、主さん
(人間の姿の場合)推定29歳、190cm
第一人称:おれ 第二人称:きみ




