Mission46.真の血
小乃刃は今まで、いやあの時以来震えることのなかった体を自分の両腕で抱き締めた。
嗚呼、当たってしまった。私の勘が。
「教官、準備整いました!!」
「いつでもどうぞ!」
背後からかけられる声に小乃刃は小さく頷き、耳に入れたイヤホンを抑えた。マイクを引き出し、ゆっくりと治療に専念する医療支部の間を通り、玄関を出る。
小乃刃は小さく深呼吸をし、マイクに向かって叫びながら闘いへ飛び出した。
**
国彦は灯茉の手から逃れるように前へ躍り出ると大太刀を構えた。灯茉が心配そうに声を上げかけたが振り返った彼の言葉に呆れながら肩を落とした。
〈全く…こちらの気も知らんで…〉
(大丈夫、僕は大丈夫だから)
国彦の言葉を舌の上で転がしながら灯茉はクスリと笑った。
嗚呼、それでこそ、妾が唯一選んだ人間だ。
灯茉は国彦の隣に並び、目の前の男を睨みつけた。男はバッと大きく跳躍するとやはりというべきか、国彦に向かって刃物を振った。ガキンッと国彦は大太刀で防ぎ、痛む腹を庇いつつ、相手を押し込む。男は負けじと押し返す。相手は怪我を負っている、対したことない!ニヤリと嗤った男に国彦もニヤリと笑い返した。男が不思議そうに憎悪しか宿っていなかった顔を歪める。国彦が後方に下がった。支えをなくし、前のめりになった男は右足を軸にして方向転換し、後退している国彦に向かって駆けようとした。
〈周りにも目を配らんと、こうなるのじゃぞ?〉
ーズバッー
男の真後ろに立っていた灯茉が右手を振ると男の首から血が吹き出た。灯茉は国彦の元へと戻る。他の仲間達も男が出現させた『忌鬼』達をあらかた倒し終わったようでやって来た。
首から血を吹き出し、原因で犯人であろう男は倒れ、残りの『忌鬼』やら『アラーヴァ』やらを倒せば一見落着
『は?』
のはずだった。
全員は目を疑った。何故って、首を切られて血を吹き出した男が以前として立っていたから。そして、その血は男を包み込み、紅く染まった幾つもの刃物を作り出したから。増えた刃物は男の近くを浮いている。
倒せない、なんで死なない…全員の心中を不安と絶望と恐怖が支配する。男はニヤリと嗤って紅く染まった刃物達に攻撃するよう指示した。驚愕していたために全員、動きが遅れた。紅く染まった刃物達が彼らに迫った。
【ツルギ!叩き落としてやりなさいっ!】
【やっちゃえにー姉!】
耳元のイヤホンから鶴姫や光希の声がした。そして次の瞬間、第十部隊を狙っていた刃物達は彼らの背後からやって来た無数の矢とこちらも無数の鋭い何かによって叩き落とされ、地面に刺さった。地面に刺さった刃物達はシュウ…と少し間抜けな音を出して血となって消えていく。
「鶴姫…?ツルギ…?」
「みっちゃん…?弐薙さん…?」
千聖、国彦の順でこの攻撃から助けてくれたであろう友人の名を口にする。周りでは今だに『忌鬼』やら『アラーヴァ』やらと闘う他の部隊の声で溢れかえっている。どうやってこの危機的状況を察知した…?
「死んではいないようだな」
その声に今度は男が驚いた。自分の切られた首元に背後から刃物を当てられていたからだ。気配などしなかったのに、いつの間に。
「飛鳥?!なんで…なんで戦場なんかに?!」
〈うっそ?!〉
螢と弥厳が男の背後に立つ人物に向かって叫ぶ。螢の声には悲痛な色が滲んでいた。男はブンッと持っていた刃物を小乃刃に向かって振ると彼女は前方に空中一回転しながら回避した。そして驚く第十部隊を横目に見ながらある事を告げた。
「復活する『アラーヴァ』、お社の崩壊、悪質な悪戯、そして改竄。間違いない、犯人はこいつだ」
『?!』
【後方支援支部より通達。『忌鬼』及び『アラーヴァ』の数が減少傾向にあります。中傷の者を撤退らせてください】
〈〈「「……………」」〉〉
小乃刃の言葉とイヤホンから聞こえて来た内容に彼らは困惑した。が男は静かに、再び嗤った。ゾワッッ!凄まじい悪寒。身の毛もよだつ恐怖が襲いかかった。その悪寒の後、
【?!どういう事?!緊急事態発生!『忌鬼』及び『アラーヴァ』の数が増加しています!】
〈………こやつか。『忌鬼』を増やしたのは〉
慌てた様子の声がイヤホンからした。この男が嗤った途端に増えた。今回の騒動も小乃刃が言ったこともこいつのせいか。頭の理解が追いついた。
「やれやれ…話が全て終わってから片付けたかったがそうもいかないか。戦闘支部全部隊、闘いながらで良い、聞け!!」
小乃刃の大きく、よく通る声が耳元で反響する。全部隊が増えて来た敵と闘いながら彼女の話に耳をすませる。第十部隊も増えて来た敵に逃げ道を塞がれてはたまらないと闘いに、西珠と管狐、『神譜』を発動させた螢と弥厳が向かう。怪我をした国彦を千聖が支え、灯茉が男を警戒している。男はゆらゆらと様子を伺っている。
「私は数週間前からある仮説を立てていた。その仮説が見事全て一致した。“バライガノ村”…3年前、ある神の怒りを買い、廃村と化した村だ」
それって………あの時に行った廃村?
「その村の生き残りがこの騒動の犯人、戦闘支部第十一期候補生、第九部隊の一人………先々月から行方不明扱いになっていた“ムラン”、本人だ」
〈〈「「ナァーンダ、キョウカンニハ、バレタンダ」」〉〉
正体を言い当てられた男はクスクスと愉快そうに嗤う。その嗤いは正直、こちらにとっては不愉快でしかないが。第九部隊の面々が口々に【どういうことだムラン!!】【無事を喜べばいいのか喜ばない方がいいのか…】などと男に向かって叫ぶ。その声には戸惑いと驚き、裏切られたと云う喪失感が滲んでいた。後方支援支部が第九部隊に撤退するよう指示している。まぁ、無理もない。
男は自慢げに憎悪が宿った瞳を輝かせながら大袈裟な身振り手振りで語る。
〈〈「「キョウカンノ……オッシャッタトオリ………先々月二姿ヲ消シ、社ヲ破壊シタ」」〉〉
「何故、とあえて聞かせてもらおうか」
〈〈「「何故?ダッテ……憎イカラ。我ラノ神様ヲ誑カシタ挙句二村ヲ壊シタ“忌み子”ガッッッ!!」」〉〉
その理由に内心数名は呆れた。つまりは復讐か、と。男がいた村は隣村から嫌われるほどに嫌な事をやっていたと云うし、神様も全員が全員、村に住み着くわけでもない。神の怒りを買ったことからその神様は単なる通りすがりだったのかもしれない。
だが、“忌み子”と云う名の復讐すべき者への復讐心に取り憑かれた彼にはすでに、状況を理解するだけの脳は残っていなかった。
〈…愚かよのぉ…〉
「灯茉に俺も同感だ…」
灯茉が小さく呟いた言葉に千聖が同意する。詳しくは知らないがその“忌み子”とやら、名前からして被害者だろう。この世界では廃村となった“バライガノ村”を除いて“忌み子”などと云う迷信めいたものは廃れていた。目の前に神がいるのにどうして神様を怒らせるような行為を取る必要があるのだ。
その間国彦は事実をゆっくりと噛み砕いて理解しようと努めていた。というよりも出血が酷くて目眩を起こしているが。
千聖が国彦を撤退させようと灯茉と視線のみで会話し、彼を引きずるように移動を開始する。戦闘支部も幾度なる闘いで疲れが見え始めている。あの犯人たる男は小乃刃に任せてさっさとトンズラさせてもらおう……
〈〈「「ダカラ、コロシテモイイヨナ……?…『禁忌』…」」〉〉
突然、男の姿が消え、撤退を開始していた千聖達の目の前に現れた。
「?!亜矢都!!」
〈ごめんなさいちーちゃん、無理よ!!〉
千聖が亜矢都に援護か何かを求めるが彼は無理だと悲鳴に近い声を上げる。国彦が青白い顔を上げ、一瞬にして灯茉と視線で会話する。
もう、使っても良いでしょ?
それに灯茉は
もちろんじゃとも。
と視線で答える。
その途端、風もないのに2人のお揃いのイヤリングが揺れた。
その途端、襲いかかった男も男と共にこれ好機!と襲いかかろうとしていた『忌鬼』達も後方に吹き飛んだ。そして千聖と亜矢都の小さな、驚く声が響いた。
プチスランプ中です…あわわ




