Mission45.血染の瞳と碧染の棺
〈?!〉
ピッと右手を振り切り、『アラーヴァ』の首と胴体を真っ二つに切断した時、灯茉は底知れぬ恐怖感と何かの気配を感じた。今そこで何かが起きている。この闘いは茶番に過ぎない。誰かがそう囁いているように聞こえた。
〈?灯茉?〉
千聖が振り回す大斧から亜矢都の彼を案ずる声が聞こえたが灯茉の耳には入っていない。目を見開いた表情のまま、固まる灯茉。振り向いてはいけない、振り向いてしまったら………
〈(………………それでも、“あの子”のため)〉
灯茉はそう強く思い、思い切って振り返った。
**
国彦は何が起きたのか理解できなかった。
頭が痛いし、警鐘は鳴り響いているし……あれ?周りの音が聞こえない?
「………あ"」
国彦は腹から伝わる鋭い痛みによって現実に引き戻された。恐る恐る、腹を見る、と。
「…………は?」
腹から紅い血が流れ出ていた。そして、何やら刃物が国彦の腹を貫いていた。貫いている、と気づくと同時に国彦は背後の敵に向かって大太刀を振り向きざまに振った。敵が後退し、振り向くと同時に腹から刃物が抜かれ、痛みに顔を歪める。国彦は腹を抑えながら敵を確認した。そしてまた、目を見開いて固まった。
【負傷者1名、後退させるので援護求む!】
【そっちから周り込め!挟み撃ちだ!】
【第二波、開始!】
【数は減っています!この調子です!】
耳元のイヤホンから聞こえて来る声は片方の耳から抜けて行く。自分と目の前の敵を追い抜いて『アラーヴァ』や『忌鬼』、戦闘支部の者達が戦い合う。
国彦の脳がこの現実を直視するなと警告を送って来る。それでも、直視してしまう。だって、これは…この敵は………
「人……間…?」
そう、片手に赤く染まった刃物を持った“ただ”の人間だったのだ。いや、“ただ”の人間ではない。その人間、男から漂うのは自分にのみ向けられた様々な感情。憎悪、怒り、殺気……何故、自分に向けられているのか国彦には理解できなかった。男は国彦を傷つけた事を確認するように彼の腹から流れる血を見てニィと笑った。
「?!」
ダメだ。
国彦の脳が拒否反応を起こす。直視するな。この男は、可笑しい。
国彦はただならぬ恐怖を感じながら大太刀を構えた。
〈〈「「……………ヤット、」」〉〉
あの濁声。国彦は理解した。こいつが『忌鬼』の、『アラーヴァ』の復活に関係する声の正体か、と。
国彦は考え事をしていて反応が遅れた。いつに間にか目の前に男が不気味に嗤いながら躍り出ていたのだ。国彦は後退しながら右足を男が持つ武器目掛けて振り上げた。がそんなの読めてると言わんばかりに男は刃物を持っていない片腕でガードすると刃物を国彦の顔面目掛けて突き刺した。
「っ?!」
紙一重でかわしたが頬に一線刻まれた。痛む腹を庇いながら後退する。と男は後退する国彦に向かって刃物を振り回した。全てを紙一重でかわしながら国彦は彼と距離を取る。背後に別の気配。その気配に大太刀を振った。そこにいたのは倒れる寸前の『忌鬼』だった。国彦によって最後の一撃を受けた『忌鬼』は黒い靄と化して消えて行く。国彦は慌てて男を振り返ったが、いない。周囲に視線を巡らす。
〈〈「「コッチ、ダ」」〉〉
「?!」
さっき倒した『忌鬼』の方?!
国彦が驚きながら大太刀を向けた頃には消えかけた黒い靄の向こう側から彼を刺そうと出現した刃物があった。刃物は国彦の目を狙っているのかいなか、国彦に目の前に迫った。
「(当たる……?!)」
〈〈「「シネ!!!!」」〉〉
憎しみが篭った声。あの時、背後で聞こえた声だ。嗚呼、また頭が痛い。
国彦は頭の隅でこんな状況なのにそんな事を考えていた。目に当たらなければ視力には問題ないはずだ。でももし当たって視力がなくなったらヤダなぁ………
国彦は大太刀を持っていない片手で最悪の場合はガードしようと考えた。が思ったよりも動きが早い。国彦が本気でヤバイと思った時には刃物が彼の目の前にあった。避けれない…!
国彦がそう思った瞬間
〈国彦!!〉
背後から名を呼ばれながら国彦は引っ張られた。スッとかろうじて刃物が目に当たるのを免れた。国彦が自分を引っ張った相手を振り返る。
「灯茉?!」
それは灯茉であった。男と同じようにその瞳には憎悪を宿らせている。国彦は痛む腹を抑えながら灯茉の手を借りて立ち上がる。男は好機を逃した事に苛立ったように舌打ちした。
「灯茉、なんで…」
〈主であるお主を助けなくてどうするのじゃ?それよりも国彦…〉
灯茉が国彦を心配そうな表情で見る。あれ…?国彦は灯茉にその表情に違和感を感じた。
〈大丈夫か…?〉
傷についての大丈夫か、それとも闘う事に関しての大丈夫か。国彦には分からなかった。嗚呼、また頭が痛い。
国彦はコクンと質問を理解出来ぬまま頷いた。
とそこへ千聖、西珠、管狐、螢、弥厳がやって来た。自分が担当していた敵を討伐したらしい。それでもまだ『忌鬼』も『アラーヴァ』もたくさんいるが。
男は不機嫌そうにまた舌打ちをする。と、男の影の中から大量の『忌鬼』が姿を現した。
「なっ?!こいつなんだ?!」
「第十部隊から通達!原因らしき奴を発見!応援求む!」
「まだまだ、お仕事ってか?」
「うーん…頑張ろっか、やっくん!」
〈だな、螢!〉
驚く第十部隊に現れた『忌鬼』達が襲いかかる。誰が言うまでもなく、全員が『忌鬼』達を倒しに駆ける。灯茉は怪我をした国彦を支えながら目の前の男を睨みつけていた。
〈〈「「アアアアア、憎イ……コロス………ワルイノハ、スベテ…………オマエナンダ!!!」」〉〉
突然、男がとてつもない速さで2人に迫り、刃物を振り上げた。国彦がかろうじて大太刀を上げ、防御体制に入る。灯茉も攻撃体制に入ろうとするがそれよりも早く、男の刃物が国彦を襲った。
ーガキンッッ!!ー
大太刀で防いだが腹の傷が痛む。頭も痛い。国彦は顔を歪ませながらそれを受ける。ピッと灯茉が右手を振って攻撃すると男は後退した。そして何故か灯茉を尊ぶような表情で見た。
〈〈「「カワイソウ二……イマ、オスクイイタシマス……」」〉〉
「…………何言ってんの?」
〈………まさか……〉
灯茉がその言葉にあり得ない、と首を振った。国彦がなんだと首を傾げているとズキリ。先程よりも鋭い痛みが頭を巡った。思い出すな、忘れろ。そう言わんばかりに国彦の脳は拒絶反応を起こす。
国彦は灯茉に支えられながら男を睨んだ。男と重なって何故か、紅く染まった視界に何かが映る。幻覚か?ナニ、これ……
〈見るでない〉
スッとあの時のように灯茉が国彦の目元を手で覆った。灯茉のその声が、怯えていた。
嗚呼。
〈〈「「スベテ…オマエノセイダ。オマエガ……死ネバ…アンナコトニハナラナカッタ!!!!〉〉」」
その碧い瞳は、紅く、憎悪を露わにする男を見据えた。
あれ、これってネタバr…げほげほ
なんでもないですよはい




