Witches-6
世界は青いままだった。ずっと、果てもなく青が僕らを覆っていた。
海の下のように、空の上のように。最も澄み渡る空と海が、君だった。
紫の魔女は自らの体液でできた血溜まりに立って、凛とした表情で僕を見た。
その眼に宿る理解の色が、怖かった。
「どうして今回の巡礼は、こんなに変なことが起きるの?」
狼狽えた僕は彼女に尋ねた。
紫はドクドクと血液を垂れ流し続ける胸を抑えながら、少し怒ったように、応える。
「その答えを知って君がどうするか約束してくれないと、教えられないな」
それは卑怯だ。そんな契約がまかり通ってしまえば、世の中は詐欺で溢れかえってしまう。
「卑怯なのは君の方さ。黒を自害させて、黄を見殺しにして、白を絶望させて。あまつさえ、目の前で苦しむあたしの心配さえしないなんて、ね」
責めるような彼女の口調にはしかし黄色の魔女とまた異なった愛情が含まれており、
「こういう風に君を記述するのが、卑怯ってこと?」
紫は満足そうに頷いて、僕の頭を数度、撫でた。
彼女の振る舞いの全てが僕にとって理想的であるのは、僕が彼女をそうあるべきだと規定するから。
世界の全てが思い通りになるのであれば、これは魔法だ。
魔法を求めた人類の、確信犯で繋がった、浅薄な言葉遊び。
でも、芸術は――魔法じゃない。
「芸術は僕らを救わないの?」
そうだよ。あたしたちは、魔法の無い世界に生きているからね。
「サルトルでさえ、芸術に望みを託したのに?」
だって君は、サルトルを信奉してないじゃん。
「誰かを信奉すれば、僕は救われるの?」
心から信じられたなら、ね。でも、それは救いの形をした思考停止だよ。
紫は僕に赤い翼を生やした。僕らはどこまでも青い世界を、二人で飛び回った。
彼女が楽しんでいるかは分からない(すごく楽しいよ!)
彼女が僕をどう思っているかは分からない(マブダチだよ!)
でも、僕は楽しかった(最高じゃん!)
痛ましい胸からは未だに血が流れ続けている(超痛いよ!)
ごめんね(許す!)
世界の中心で、魔女は立ち止まった。
これは巡礼なんかじゃなかったんだ。言葉もなく、彼女は否定した。
彼女は愛の造形を僕に教えてくれた。愛は、図書館にある大きな本棚に似ていた。
「君はどうして芸術を愛するの?」
芸術が、僕を救ってくれると思ったからだ。
「君はどうして巡礼するの?」
巡礼が、僕を許してくれると思ったからだ。
「君はどうして、現実を生きなければならないの?」
僕が、生きたいと思うからだ。
紫の魔女は僕に軽く口づけをして、絶え間なく溢れるその鮮血で青く染まった世界を塗り返して――
世界は色を変えてゆく。紫――博愛の色に。
誰かを救いたいなんて思っちゃいないよ。
僕はただこの鬱屈とした感情を、途方もない絶望を、病的な忸怩を、君を救いたいという言葉で美化しているだけだ。
芸術の醜悪から、生の苦悩から、目を逸らしているだけだ。
泣き腫らした夏が手を振った。




