81話 熱意と潜むもの
……飛行機、飛行機、飛行機。
作りかけから、ほぼ完成している機体まで様々だ。天井に吊り下げられた大量の水銀灯がここが地下だと忘れさせるぐらい強く照らしていた。
いや、飛行機だけではない。
一角では明らかに搭載するためのガトリングガン、大砲、ロケットまで置いてある。
中型機に大砲? ガンシップかよ……
「どうですか、この悪のアジトは。いーい出来でしょう。ほら奥に見えてるのは爆撃機、あれは戦闘機、横で作ってるのは試作ジェットエンジンですね」
「いや、ちょっと待って、これいつから作ってたの」
「ハイエースを旭川に運んでからやってましたねぇ、はい」
「大分前からやってたのか! いや、早すぎるくらいだけど! 一体どうやったんだこれ!」
「いやぁ金の力とは偉大ですね、不可能を可能にすることができる。ここまで工作機械の精度が上がるとは嬉しい誤算でした。金で職人の頬を叩いたかいがありましたよ。こんなことなら毎日初飛行のお披露目をやりたいですね」
眠気が一気に飛んだわ。
大声を出したせいか帽子やヘルメットをかぶった工員が作業していた手を止めてこちらを見上げた。
あれ、なんかあいつら見たことあるな。
こっちに気づいて手を振っている奴までいる。
思わず手を振り返してしまった。
「もしかして軍から引き抜いたりした? ……なんか見知った顔が見えるんだけど」
「ええ、給料は基本倍、成果を上げれば上げただけ歩合で増えますし、個室の社員寮も完備。福利厚生もばっちりでお昼休みなんて、みんな体育館で球あそびをやってますよ」
どうにもおかしいと思ってたんだよ、軍で教鞭とってると最近新しい顔ぶればっかりだったから、新人育成に力入れ始めたのかと思ったらこっちに引き抜かれていたとは……
あれ、じゃあ秋本さんめっちゃ怒ってるんじゃないの? あんまり軍とギスギスした感じになりたくないんだけどな。
ちょっと血の気が引いてぼんやりしていると、向こうからツナギを着た男が走ってきた。ツナギには人一倍油汚れが付いており裾はほつれ、膝や肘には穴が開いたのか継ぎ接ぎがしてあった。
「おお! 視察かね、坂井君! いや、失敬。今は相談役だったね。どうだね、この荘厳美麗な空間は。もう私はここに骨をうずめてしまいたいね、はっはっは」
「秋本さん!? あんた何やってるんですか! 軍は? 軍はどうしたんですか!?」
軍服を着た威厳ある姿はどこへやら、今はすっかり叩き上げの現場作業員だ。
「もちろん夜間に行っておる。ここは君に学んだことを実践ですぐに試せる、ここで身に着けた技術も軍の設備に反映できる、自分の技能が十全に生かせるというのは楽しいぞぉ! なぁ皆の衆!」
「「「はい!」」」
おまえら、いつ寝てるんだよ。
健康は大切だぞ?
「遠藤さん、地下工場だけじゃなく軍隊との融合を見せたかったんだな、さすがに驚きすぎてぐうの音もでないわ」
遠藤は俺の顔を見てきょとんとした表情を浮かべた。
「いえ? 一番見てもらいたいものはまだ見せてませんが」
「まだなにかあるの……? 凄く嫌な予感するんだけど」
「まぁまぁ、こちらへどうぞ。ちょっと暗いですがすぐに明るくなりますので」
言われるがまま最奥の手すりまで進み鉄板の上に立つと遠藤が操作盤を弄り始めた。
数秒するとサイレンが鳴り響き、あちこちで回転灯が回り始めた。やがて、頭上から地響きのような音が響き、天井の向こうから陽の光が差し込んできた。
陽の光で照らし出されたのは、翼にエンジンが四発ついた銀色の大型機、そして地表まで斜面に沿って敷かれた鋼鉄のレールだった。
「ま、まさか!?」
「ふふふ、気づかれましたか。そうです斜坑エレベーターです。そしてこの飛行機はこの時代の技術と部品だけで作られた正真正銘、世界初の飛行機です」
遠藤が指を鳴らすと同じ帽子とユニフォームを着た搭乗員たちが駆け足で集まり、チェックリスト片手にエレベーター上の飛行機に注油や飛行前確認をし始め、指差し確認を終わらせると続々と機内に入っていった。
……気のせいじゃなきゃ、秋本さんと長瀬も乗り込んだように見えたんだけど。
「もしかしてこれから飛ぶつもりなのか? 凜さんいないぞ?」
「これは私が飛ばします。毎日ちゃんと練習しましたので安心してください。油圧は完璧、武装も完璧、さぁ運転席に行きましょう、坂井相談役」
「え、俺も?」
つか、武装も完璧って言った?
「当たり前でしょう、喜びは分かち合うものと教わりませんでしたか? さぁさぁさぁ」
本当にそれ俺にとっての喜び?
幸せの押し売りは誰も幸せにならないぜ?
俺のぼやきを聞き流し、満面の笑みで背中を押してくる遠藤に逆らえず、タラップを登る。
……だが、この時の俺たちはまだ気づいていなかった。
搭乗員の中に、小柄な女性が一人混じっていたことに──




