7話 荷馬車改造と出発の日
村長と話してから3日後。
早朝、空は快晴で南の山にも雲がかかっていない。
肌寒いが旭川へ向かうには絶好の出発日和だ。
現代に戻る手掛かりを探すにしても、まずはちゃんと毎日飯を食えるようになることが先決だ。
ここの集落は思った以上に貧しい、食うや食わずで人に分け与える余裕なんてない。
親父さんはよく見ず知らずの俺に朝飯を分けてくれたもんだ。
ここ3日程は緊急用の乾パンやカロリーブロックばっかり食べていた。
玉蔵がじっと見てくるので塩辛い粥と交換したら、甘い甘いと滅茶苦茶喜んでいたが。
旭川への路銀にしたって炭運びを手伝い、着いたら腕時計を質にでも入れて返そうと思っていたから、村長から貰えるポンプ修理の報酬は渡りに船と言ったところだ。
旭川への移動は天候を見て出発日を決めると言っていたので、余裕のあるうちに俺ができることをやってみた。
つまり荷馬車の改造だ。
いつ現代に戻れるか分からないので、出し惜しみは無しにした。
車に積んでいた保守部品で必要なものを取りに行き、できる限り荷馬車を改造しまくった。
車軸に防錆加工した炭素鋼棒を取り付けて補強、受けには高負荷に耐えられるテーパーベアリング、防振ゴムに簡易板バネもつけてみた。
車輪にも薄い鉄板を釘で打ち付けた。試しに坂道を下ってみると、スピードが乗った荷馬車にひき殺されそうになったのでブレーキもつけた。
いや、ほんと死ななくてよかった。
こうして俺にも馬にも優しい荷馬車が誕生した。
出来上がった荷馬車に2人でどんどん炭俵を積み込む。
全部荷物を積み終わったら上からブルーシートで囲い、莚でも被せてしまえばダミー兼、防水仕様の出来上がりだ。
「よし、これで25個目、ラスト!」
「ラスト? ラストってなんだべ?」
「終わりってことだ、英語、外国の言葉だな」
「ほえー、学校で習うんだべか、俺ぁ学校さ行ったことねぇから分かんねぇや」
「そっか、まだこの辺にゃ尋常小学校もないのか、色々知りたきゃ教えてやるぞ」
「本当け、ありがとなし」
地頭が良くても勉強する機会が得られない人たちってのは現代でもいたが、この時代はそれが当たり前なんだな。
「さて、準備も済んだし出発するとしようか」
「ちょっと待ってくなんしょ、試しに俺が曳いてみでぇ」
荷物は炭俵25個(約700キロ)、他は馬のエサ、旅荷物と俺の工具類だ。
あと、荷物の中には親父さんから貰ってきたミズナラの板もちゃんと入ってる。
「そんな板っきれどうすんのけ」と言われたが、これで俺の趣味も捗るってものだ。
玉蔵に渡した日本酒の一升瓶も大事に藁に包まれ、ちゃっかり乗っている。
「おお、俺一人でも動かせるべ。手ぇ入れると、こんなに違うもんなんけ。重でぇは重でぇげんじょ何とか曳ける、すんげぇな、こいづ」
「さっき教えた通り、速度が出てきたらそのぼっこ(棒)を車輪に押し付けてくれ」
「分かってっべ。荷車に潰されそうなあんたを見てっから忘れらんねぇよ」
「……ならいい、馬に繋ぐか」
馬のひき具に荷馬車を取り付けていくと馬が嘶いた。
「ん?誰か来たのか」
そこには村長がきんちゃく袋を手にもって佇んでいた。
「これから出発だってな、約束の銭こ持ってきたべ」
差し出された1円札は2枚ともしわくちゃで粗末な作りだったが村の状況を見れば、やけに重たく感じるな。
「ありがたい、大切に使わせてもらうよ」
「こっちこそ、水も出るようになったし、玉蔵がポンプ直せるようになれば言うこと無しだべ。ここへはまた来るのけ?」
「ちょくちょく来ると思う。そんときゃお土産持っていくよ」
「そったに気ぃ遣うな、そんなもん無くてもいつでも来っせ」
「ああ、ありがとう。じゃあ行ってきます」
「気ぃつけでな」
見送る村長を背にゆっくりと荷馬車が動きだした。
◇
「そういや、旭川まではどんな道を通っていくんだ?」
「ああ、10年ぐれぇ前にぽっとできだ道だ、なんでも網走の囚人使って作ったんだと。脱走した奴らがこっちさ来て悪さしたことあっから、ガキんとき、おっかなかったなぁ」
網走……ああ、網走監獄ね。じゃあここは悪名高い中央道路かぁ。
仕事で網走向かう途中に鎖塚とか土饅頭みたことあるし、なんなら網走監獄にも仕事と観光で入ったことあるわ。
「網走監獄に入ったことあるわ」
そう言うと前を歩く玉蔵がビクッと立ち止まりゆっくりと振り向いた。
「おめぇ、なにしたんだ!? 脱走してきたんか!?」
「いや、仕事仕事。何もしてねぇわ」
「本当けぇ、本当に本当けぇ?」
「……私がやりました」
「何やったんだい、吐げ!」
「冗談だよ、本当に仕事だよ。電気関係の奴」
「たまげさせんなよ! あんた、何か本当にやらかしてそうでおっかねぇんだから!」
「そんな風に見られていたとは……」
軽くからかうつもりが思わぬダメージを受けてしまった。




