表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
6/32

6話 村長と交渉

「なんだって、本当にあのポンプ直したのけ!?」


 村長に報告しに来たら、本当にあの祠壊したんか!? みたいな勢いで言われた。


 この人、結構若く見えるけど何歳くらいなんだろう。村長っていうから髭もじゃの爺さんが出てくると思ったけど。

 ワナワナと震え、俺たちを押しのけて家を出る村長に続いた。


「み、水が出てる、本当に直ったのけ」


 出たところに立ち尽くしていた村長が見ている先には

 井戸の周りに集まって、楽し気に子供が漕ぐポンプから桶に水を汲んでいる女たちの姿が見えた。


「みんなポンプ直ったとこ見てたんだべな」


「よかったよかった」


「……まんず中に入ってくなんしょ」


 促され、囲炉裏を挟んで茣蓙の上に座る。

 婆さんが湯呑に白湯を出してくれた、体が冷えていたからありがたい。


「村長、この坂井さんがポンプ直してくれたんだべ。ものは相談なんだが修理の銭、出してくなんしょ」


 目の前の彼は白湯を飲んで一息つくと俺をジロジロと見つめてきた。


「なして俺に断りもなく、勝手にポンプ直した奴に銭払わねばなんねぇのけ、まずは筋を通してからだべ。それにまたすぐ壊れるかもしんねぇべ、そんなもんに銭は払えねぇ」


「え!?」


 玉蔵さんは驚いているが、もっともな話だ。

 まったくもって正論だな。


 直せるか確認した時点で彼に相談していたら、もうちょっとスムーズに話が進んだかもしれない。

 いつもの仕事なら必ずそうしていたが、今回は先走り過ぎたな。反省。


「しっかし、村長!」


「しっかしもかかしもねぇもんだ! 直してくれたことには礼を言うども、銭はだせねぇ」


 おろおろと俺と村長の顔を見ている。

 白湯を飲み干して俺も一息ついた。


「うん、村長の言う通りだ。相談しないで勝手に直した俺たちが悪い」


「んだ!」


「んだけど!」


「だから勝手に直したところは元に戻しておこう」


 立ち上がり、白湯を出してくれたお婆さんへ礼を言う。


「ん?!」


「いや、本当に申し訳なかった。今後はちゃんと相談して見積出して、契約書作って、納得してもらった上で作業に取り掛かるよ。さぁ、玉蔵さん、行こう」


「ちょっと待て!元に戻すってどういうことなのけ」


「いや、勝手に直したのが申し訳ないから直す前に戻すんですよ」


「やり方が汚ねぇぞ!おい、玉蔵、なんだこいつぁ!」


 村長に怒鳴られた玉蔵は目が泳いでいる。

 しゃーない。


「村長、聞けば大枚はたいてポンプを買ってきたのはあなただと聞きました。でも、それは村の為を思ってでしょう。寒い時期にお母さんや女子供に少しでも辛い水汲みをさせたくなかったからでは?」


「そうだべ!この時期、男衆は出稼ぎに出てっからな、少しでも良くするためだべ」


 うんうんと頷きながら村長の反応を見る。


「分かりますよ、皆の手を見りゃあかぎれや擦り傷が酷いですもんね。ましてや井戸なんて、子どもが落ちたりしたら大ごとだ。ポンプで蓋をしておけば、それも防げる」


「んだ。ここはわらさんど(子供たち)が多いべ。目ぇ離した隙にどうなるか分かんねぇ」


「だから、良かれと思って取り付けたポンプが動かなくなったときは随分落ち込んだんじゃないですか。

 みんなの為を思って買ってきたのに動かなくなったら、陰で高い銭払ってとか言われて」


「……」


「ちゃんとポンプが動けば楽なのは皆知ってます。だから、村長のやったことは皆のことを考えてのことだったんだって、価値があったことなんだって認められないのは悔しいじゃないですか。俺だってそんなのは見てて嫌ですよ」


「……知ってたべ。親父が死んで何とか立派に努めようと思ってさ、良かれと思ってやったはいいげんじょ……」


 下を向いたままの彼の肩は少し震えていた。


「でも、これからは違いますよ。ポンプは毎日使うものですから。当然壊れもしますが直し方は俺が責任をもって、この玉蔵さんに教えます」


「え?俺?」


 そうだよ。頑張れ。村の皆と俺の銭の為だ。


「そうか……分かった、銭払うべ。玉蔵に直し方まで教えてくれるんなら文句はねぇ。いくらさ」


「そうですね、玉蔵さん。旭川までの路銀っていくらぐらいかかる?」


「うーん、旭川まで新しい道もできたし、野宿なら2円ありゃ足りるべか」


「よし、じゃあ村長さん。今度玉蔵さんが炭を売りに旭川に行くんですが、俺も同行してその道中で直し方をしっかり教えます。その路銀を出してもらえればありがたいです」


「分かった。しゃっきり覚えろよ、玉蔵」


「えぇ……、大丈夫だべか」


 ◇


 その後も村長と話していたので家を出ると、外はもうすっかり薄暗くなっていた。

 婆さんがどんどん注いでくる白湯で腹がタプタプだ。


「どうなる事かと思ったべ」


「わはは、すまん。でも村長が純朴で良かったよ」


「ええ?」


「いくら道理が通ってようが、感情的に納得できようが銭を出さないやつはごまんといる。そういうのは宥めすかしても泣き落とししても駄目なんだ」


「したらそんな時はどうすんだ」


「今回みたいに勝手に作業してから銭の相談して断られるならそりゃ仕方ない。あっさり諦めるさ。

 こちらに非がなければ直したところを元に戻して、はいサヨナラよ」


「うわ、おっかねぇ」


「ポンプの直し方だけ教えるのも何だし、そこら辺のことも良ければ考え方まで教えるよ。我流だからちょっと偏ってるけどな」


「なんでいつの間にか俺が直すことになってんのけ」


「わはは、村で役に立つ男は女にモテるぞ」


「頑張っべ! 師匠!」


 正直で現金で大変宜しい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ