5話 ポンプ修理
「おっこいしょっと!」
持ってきた炭を玉蔵と一緒になって四角い俵に移し替え、積み上げる。
出来の良い炭と屑炭を分けて、出来の悪いのは集落で使うみたいだ。
「手伝ってくっちゃ、ありがとなし」
額に浮かぶ汗を拭いながら、狭い小屋に積み上がっている炭俵を見上げた。
もう手が真っ黒だ、汗を拭ったから多分顔も真っ黒になっているんだろうなぁ。
「いいってことよ、それにしても結構あるんだな」
「明日も晴れだら、こんしゅにでも旭川さ、たがってぐさ(持っていくさ)」
絶対に現代に帰ると意気込んだものの、どうすれば帰れるのか全く見当もつかない。ひとまず衣食住を確保しないことには帰る手立てどころじゃないな。
「なぁ、玉蔵さん。何か働き口ってあるかい?」
「旭川ならあるんじゃねぇか、人もちっと多いしな。でもおめぇ、稼ぎあるんじゃねぇの」
「車が壊れてしまったから開店休業だよ。食ってくのには働かねばね」
「開店休業? よくわがんねけんど、働かねば食えねのはわがる。おめ、何がでぎるのさ」
「工場の機械の点検、修理っても工場も機械もないのか」
「機械ってなじょなもんだ? あれがい、旭川で見だ汽車のことかい? あれはたまげだ~」
目をキラキラさせて話す彼を見ると頷いた。
わかる、あれは浪漫を感じるよな、もうこの頃は旭川に蒸気機関車が走ってたのか。
でも、蒸気機関は専門外なんだよ。道の駅とか三笠の記念館で見たことあるけど、あんなの直せる気しない。現代だと、もはやロストテクノロジーに片足を突っ込んでいるじゃないか?
どうしたものかと唸っていると、玉蔵も隣でうんうん唸りだした。
こいつ本当にいい奴だな。
「んだ、井戸のポンプが調子悪ぃがら見でほしいのさ。村長が旭川さ行っだとき舶来品だってよ、めんたま飛び出る銭で買ってきでよ、初めはちゃんと水が出だんだげども、じきに水出んぐなって結局つるべに戻っちまったんだ。そりゃもう騙されたんだって村の衆が大騒ぎしてさぁ」
「え、井戸のポンプ? 構造は想像できるけど触ったことないな」
「ここに運ぶのさも銭使って、井戸にくっつけるのさも銭使ってんだがら、直せたら村長から銭貰えんじゃねぇべか? だめだべか?」
「んー、直せるかわかんないけど見てみるか。案内してもらえるか」
彼に案内され広場に設置されている井戸に来てみた。
確かに田舎で見たことのあるガチャポンプっぽいものが取り付けてあるな。
表面がなんだかすごいゴテゴテとした装飾だらけだけど、なんだこれ。
「ちょっと、いつも通り使ってるところ見せて」
玉蔵がレバーを握って勢いよく上下に漕ぎ始めた。
肌寒い空気の中、息を切らして汗ばむほど漕いだところでようやくチョロチョロと水が出てきた。
そのまま漕いでもらいながら、井戸の蓋をずらしてLEDライトを当てながら中を覗き込むと水面にパイプのような管が伸びている。水もないわけじゃないし、パイプから漏れてる感じもしないなぁ。
「はぁはぁ、も、も、いいべか!?」
息も絶え絶えの玉蔵に「止めていい」というや否や地面に座り込んだ。
休んででくれと伝え、ポンプ本体を上から覗きこむと水もある程度溜まってるし見てても井戸に抜けていく感じもない。
「水をうまくピストンで引っ張れてないのかもしれんな」
レバーからボルトを外して上に抜き抜くと木製で作られたピストンの周りの皮が擦れたようにべろべろになっていた。
ポンプの中に手を突っ込み、ピストンに当たる面を触ってみると紙やすりみたいにざらざらとした感触だ。
こりゃすぐパッキンが駄目になるわけだわ。
工具バッグからホースを取り出してサイフォンの要領で水抜をする。
ホースに水を満たして吸うのは最初だけと言っても、口に水が入りそうになって何度かむせた。
削り粉が下に落ちないよう逆止弁の上にウエスを敷き、シリンダー内壁の凹凸を耐水ペーパーでひたすら磨いてツルツルに均す。
仕上げに、すり減ったピストンのパッキン代わりに、玉蔵が持ってきてくれた馬の革を切り抜いて釘で固定した。
綺麗に掃除してっと、削り粉も落ちてないし、よし。
「玉蔵さん、呼び水入れたからもう一回やってもらえる?」
「あいよー」
数回漕ぐとチョロチョロと出てきた水が次第に多くなってきた。
「おおっ! なおっだ!すげー!」
「ピストンの革は張り直したばっかりだから数日様子みてね」
「うひー」
よほど嬉しかったのか漕ぐのに夢中で俺の声が聞こえてないなあ、全く仕方ねぇ。
桶になみなみと満たされた水で腕や顔を洗った。
「ひゃー、つめてー」
とりあえず直せてホッとしたよ。




