56話 勾玉と夢
石碑を触ってから朧気に感じるようになった感覚を信じて、兵士から借りたスコップで石碑の裏側をひらすら掘る。
「ろくでもないもん作りやがって、そもそも放置すんなよこんなもん。どんだけ深く埋めてんだ……」
ぶつぶつと文句を言いながら固い土を掘り進めると、スコップの先が空洞に行き当たったのを感じた。
掘った穴にライトを当てて覗き込むと色褪せた朱色が残る木片がグズグズになって散らばっていた。元は漆塗りの木箱だったようだが長い年月で腐ったようだ。
「あった、これか」
肩まで入るくらいに深い穴へ右腕を突っ込む。
指先につるつるとした石の硬さと、仄かな生温かさを感じた。気持ち悪いが気にせず掴みゆっくりと持ち上げるとあの女が持ち出した勾玉が姿を現した。
「うへぇ、マジであったよ」
それはネックレスではなかったが、確かにあの時見たものだ。穴の中を探してみても箱の中から見つかった勾玉は一つだけだった。
でも、これであの女がこれを作ったか、もしくは作ってなかったとしても関係しているのは確定だ。
「……この勾玉、他にもどこかに埋まってるってことか?」
手に持って振り返ると、俺が穴を掘るのを見ていた奴らは揃って後ずさりした。まるで見てはいけない悍ましいものでも見たような反応だ。まぁ、当たらずも遠からずと言ったところだが。
「坂井さん、それはなんですか。見ていて凄く気持ち悪いというか、ざわつくというか……」
何にでも興味を持つ遠藤さんでもこの勾玉は見ていて気持ちの良いものでは無いようだ。
放たれる怨念のような何かに中てられた敏感な兵士は、顔を真っ青にしてへたり込んでいる。
「これがエネルギー、えっと、なんというか燃料みたいなものを貯めるやつだ、たぶん」
「燃料……さっき仰っていた魂と言うものですか、にわかには信じがたい」
俺だって信じたくないよ、こんなのが現実にあるなんて。こう言うのはフィクションだから面白いのであって実際にあるとなると厄ネタでしかない。
「それについちゃ同感だけど、あるものは仕方ない。正直手に余るけどいいように使うしかない」
「それがあればどこでもこの石碑の現象を再現できるんですの?」
口を手で隠しながら苦しそうに凜さんが尋ねた。
気持ち悪いのを我慢しながらも目を逸らさないのは流石だね。
「御影石と石工と俺が居れば出来るでしょうね、後は墓場にでも置いておけば勝手に充電? されるんじゃない?」
まるでワイヤレス充電だが違うところと言えば電気ではなく魂とかよくわからないものだというところだ。しかも過充電したら爆発どころか化け物が零れ落ちるクソ仕様だ。
こんなの呪物以外の何者でもない。
さっさと仕舞っちまおう、なにか入れ物あったかな。
とりあえず車にあったウエスに包み、入れ物を探していたが、なんとなくキーホルダーに括り付けてあった北海道神宮の御守り袋に入れポケットに仕舞った。
「熱っつ!」
太ももに熱を感じ、急いでキーホルダーを取り出すと勾玉を入れた御守り袋が黒ずみ、煙を出していた。
どうやらお気に召さなかったようだ。
健康祈願の肌守じゃ駄目ですか、そうですか。
袋から取り出して工具のバッテリーパックのケースに入れると熱を発してる様子は無かった。
お前やっぱりバッテリーじゃん。
俺が穴を掘ったり埋め戻したりしてる間に、上の道までハイエースが引き上げられたみたいだ。各々焚き火を囲んで野営の準備を始めている。
いつの間にか空も明るくなっているが、徹夜は色んなミスが増えて良くないので俺も仮眠することにした。
村が心配なので先に戻るという玉蔵にはジェーンや村長への伝言をお願いした。
親父さんも戻っていてくれると良いんだか。
車から車中泊用に積んでいた毛布を取り出してくるまるとドッと疲れが出たのか、あっという間に睡魔が襲ってきたので瞼を閉じた。
◇
……目が覚めるとそこは見慣れた実家の前に立っていた。
いや、夢か? 明治時代にいる方が夢っぽいんだが、どっちがどっちかわからなくなってきた。
植木鉢に水をやっていた親父がこちらに気付いて振り向いた。定年してから花を育てるのが趣味になったようだ。
「おう、修一。帰ってきたのか。随分と久し振りだな、たまには電話くらい寄越せ。母さん心配してたぞ」
「ああ、ただいま親父。腰の調子はどうだ?」
俺の家系は背が高いせいか、ヘルニア持ちが多い。
俺も気をつけにゃ。
「あんまり良くはねぇな、まぁうまく付き合っていくさ。それより隣の女性は誰だ?」
「隣?」
親父に言われて横を見るとお洒落な麦わら帽子と淡いピンクのワンピースに身を包んだ女性が立っていた。
顔が見えないな、誰だ?
「初めまして御父様、私修一さんとお付き合いをさせていただいております遠藤凜と申します」
「ぶっ!? おえっ!」
ビックリし過ぎて夢から目が覚めた、そして吐いた。
「なにっ!? どうしたのシュウ!」
駆け寄ってきたジェーンに背中をさすられて、頭がはっきりしてくると周りには親父さん、玉蔵がいてビックリしたような顔でこちらを見ているのに気付いた。
「……ジェーン、なんでここに?」




