55話 帰る理由と先祖の業
夜通しの作業で、輓馬の嘶きや縄を牽く男衆の音頭が響く中、ハイエースが坂の上へゆっくりと引き上げられていく。
「ふぅー、寒っ」
その光景を煙草の煙を吐き出しながら横目で見て、さっき凜さんと話したことを考えていた。
未来の子供や家族の為に国を作るかぁ。
同じ立場だったら確かに何かせずにはいられないだろうけど、それが国を作ってしまおうって話になるのは彼女らしいといえば、らしいよな。
石を触って見たビジョンを思い出せば、確かに説明できない繋がりのようなものを感じた。つまり、あのヤバい女やインディアンは誠に遺憾だが俺の先祖だと言うことだ。俺の先祖は複雑怪奇もいいとこだ。
右手に力を入れてみれば何だかよくわからない力も纏っているように見える。なんだこれ怖っ。
そんなことより、まず祖先の情事を見せられる子孫の気持ちをもう少し考えて欲しかった。まぁ、石碑が壊れて本来の性能じゃないみたいだけどさ。
物思いに耽っていると遠藤さんと玉蔵がこちらに近づいてきた。
「坂井さん、あなたについて来て良かった。妹のことは残念でしたが、こんな体験ができるとは思いませんでした」
こんな酷い目にあって、そう言えるのは遠藤さんぐらいなもんだよ。今日何回殺されかけてると思ってるんだ。
「俺は完全にとばっちりだべ」
それはそう、誠にごめんなさい。
でも、すっかりいつもの二人に戻ったようだ。
「お前ら何を見たか知らないけど大丈夫だったか?」
「そうそう、宇宙に行ったんですよ! 空を飛ぶどころか宇宙ですよ! 宇宙! まさに無重力! 地球は青かった!」
いつの時代の宇宙か知らないが、そりゃショックが凄すぎて幼児退行するのも頷ける。
「その宇宙で火星に人を送り込もうとしていたのが俺の子孫だ、人はどこまで行くのやら……」
「おおっ! 是非お話を聞かせてください!」
玉蔵が標準語で話すと違和感しかない。
見た内容も俺の時代より先の未来みたいだし。
共通の話題があるせいか二人の距離が一気に近づいたようでわちゃわちゃと話している。
でも、凜さんが北海道を独立国にしたら今こいつらが見た未来も変わるんじゃないのか?
んー、まぁ今更か。
「愉しそうですわね」
いつの間にか凜さんが横に立っていた。
この人の神出鬼没ぶりにもだんだんと慣れてきた。
「……凜さん、俺に協力して欲しいって言ってたよな。協力してもいいが条件があるんだ」
「お伺いしましょう」
居住まいを正してこちらを向いた。
「俺はどうやっても自分のいた時代に戻りたい、凜さんが家族を大事にするのと同じ理由でな。だから、帰る為の情報を集める助けが欲しい」
「なるほど、私の持っている組織としての力が必要なのですね」
「そうだ。旭川で思い知ったが小さな組織では人と金に限界がある。大した情報も集まらなかった」
遠藤組の手下たちに街の噂や聞き込みをお願いをしていたが有力な手掛かりは残念なことに一つもなかった。
シノギの片手間と言うこともあるがフワッとした情報だけでは聞きようが無かったのかもしれないな。
「よいでしょう。実際に未来を生きた人の知識や手練手管が手にはいるならば安いものです。時間を超えられる手段があるのならば、それこそお互いの利益にもなりますわ」
「利害の一致だな。宜しく頼む」
……信用できるのは、本当に利害が一致している時だけだな。まあ、ヤバくなったらとんずらするか。
右手を差し出すと、一瞬躊躇してから握り返される。
「こちらこそ、くれぐれも裏切らないようにしてくださいね、追いかけるのも手間ですから」
力入れすぎ! 痛い痛い!
無理やり手を離すと彼女は勝ち誇ったような顔をしていた。握力までゴリラ並みかよ。
「そういや、凜さん。石を触ってもその人の血縁しか見れないなら技術とか兵器とかは知識を持ってる人に行き当たるまで試すのかい?」
ずっと聞きたかったことだ。
石を触る人間は増やさない方がいいと思うんだけどな。
「いえ、無闇やたらに触らせることはありません」
「じゃあ、どうやって」
そう尋ねると外套のポケットから見覚えのあるものを取り出してみせた。
「あっ」
「ええ、これのせいで酷い勘違いもしましたが解決策も思いついたのですわ。思えば石には車と私が一緒に触っていたんですものね」
手に持っていたのは愛車のダッシュボードに置いていた怪獣の首振り人形だった。
「試しに部下へ銃を手に持たせたまま石に触らせたところ火縄銃から始まって見たこともない連発銃の構造まで頭に入ってきたようですわ」
マジか、物の記憶を頭にダウンロードみたいなことができるのか。それは知らなかった。サイコメトリー? なんか昔、漫画で見たことがあるようなないような。でも凄い負担かかりそうだし、大丈夫?
「ですが、困った事にその部下以降は石を触ってもうんともすんとも言わなくなってしまって。また新しい石碑を探さなくてはいけないかもしれません」
「あー、電池切れみたいなもんだな」
「電池?」
怪訝な顔で彼女が聞き返す。
「あれ、魂で動いてるから。因みに作ったのは俺の祖先みたい」
……ほんと冗談みたいな話だよ。




