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49話 カラ元気と未来

 俺たちを載せた馬車がトコトコと暗い夜道を進む、道の凸凹がある度に縛られた俺たちはゴロゴロと荷台を転がっていた。


 色々ショッキングなことが多くて正直頭が追い付いてない。

 凜さんがヤバい軍人なんて誰が思うよ、ちょっと頭のねじが外れてるけど兄貴思いのいい妹さんだと思ってたのになぁ。


 もうそろそろ焼けてしまった小屋に到着する頃じゃないだろうか。そういや、親父さんに倒されたあのロシア人の遺体も埋めてやりたいなぁ。


 荷台に転がったまま、御者をしている女兵士に声を掛けた。


「なぁ、姉さん。この先の焼けた小屋あたりに野ざらしの遺体があるんだが、ちょっと寄って埋葬させてくれないか」


 俺の声には反応したが、こちらをちらりと見ると無言のまま前を向いてしまった。


「……無視されちゃったよ」


「俺だってそうすっべ、あんの痛い屁みたいなのひっかけられたらたまんね」


 玉蔵はさっきから、クマよけスプレーをぶっかけてしまったことに腹を立ててまともに話してくれない、頬も膨らみっぱなしだ。


「いや、あれは悪かったって。あんなに飛び散るとは思わなかったんだよ」


「うそこげ! この!」


 縛られたままジタバタと俺にぶつかってくるな、落ち着け。


「あの噴射は一体何だったんですか? あんな缶にあれだけの噴射剤が詰まっているなんて驚きです!」


 遠藤まで縛られたままで会話に参加して口々に話すと、さっきまで無視していた女兵士は苛立ったように、手に持った鞭を御者席に叩きつけ大声をだした。


「お前ら! 黙っていられないのか!」


「はーい、反省してまーす。痛って!」


 俺の尻が鞭で叩かれるのをみて玉蔵が笑った。

 なんだよ、俺の真摯な謝罪がそんなに気に食わなかったのか。


 俺の車もどっかに持っていかれてしまうみたいだし、現代に帰る手段も手掛かりも万策尽きかけてる。その上、この先監禁生活が待ってると思うと気も沈んじまう。


 だけど、落ち込んでいても現状は勝手に改善しない。

 こういう時には馬鹿話でもして気分転換するに限るな。

 カラ元気も元気の内だ、絶対に諦めねぇぞ。


「姉さん姉さん、ちょっと凜さんのことについて聞きたいんだけど」


 凜という名前を出すと、さっき無視した時とは違ってピクリと体が反応した。

 何を聞かれるのかと体が強張っているように感じた。


「凜さんって俺の作った鹿肉料理とか豆羊羹とかバクバク食ってあの体形維持できてるの不思議なんだけど、いつもあんなんなの? てのひら位の大きさとはいえ一気に羊羹五本はぺろりと平らげてたよ」


 実際、出るところは出ているがスリムなんだよな。

 やっぱり明治時代の人はカロリー消費が激しいのかね。


「……副隊長殿はいつも健啖だ」


 おっ、反応返してくれた。


「作った飯をたくさん食べてくれるのは見てて嬉しいんだけどさ、この前なんか俺が卑猥な小説書いてたら折檻されたんだよ。喧嘩して帰ってきたとこなのに正座させられて足の上に石載せられたんだぜ、遠山の金さんでもやらねぇぞ」


「坂井さん、旭川でなじょなことしてたのよ?」


 玉蔵があきれ顔だ。

 女兵士を見れば肩が小刻みに震えている。


「そういえば遠藤さん、あんた凜さんに何したんだ。あそこまで妹に恨まれるのは相当じゃないか?」


「思い当たる事がないんですよ、妹には好かれてると思ってたんだけどなぁ」


 ため息と一緒に吐き出された言葉に嘘はなく、辛いという気持ちが伝わってくるような声色だった。


「本当かよ」


「本当ですよ。子供の頃、崖の上から自作の滑空機に乗せてあげた時も喜んでいましたし、それもう震えるほど喜ぶものだから何度も何度も飛ばしてあげましたよ」


 原因、それじゃね?

 震えというか、ひきつけ起こしてね?


 遠藤さんの発言にドン引きしていると、馬車の荷台のへりに革手袋をはめた手がかけられた。


 ◇


「仁村! 馬車を止めなさい!」


「副隊長殿!? は、はい、ただいま」


 突如として現れた凜はここまでずっと走ってきたのか髪を乱し、息も絶え絶えだ。

 声を掛けられた仁村と言われる兵士が手綱を引き、馬車を止めた。


「はぁー!はぁー!」


「凜さん、そんなに急いでどうしたんだ。俺の車を弄るんじゃなかったのか」


 皮肉交じりの言葉を投げかけても反応せず、膝に手を置き大きく息を吐き出して呼吸を整えるとまっすぐに俺の顔を見た。


 なんだ、何があった。


「そんなことはどうでもいいんです、貴方に聞かなければならないことがあります」


 その体から放たれる迫力に圧され口が開けなかった。

 車のことがどうでもいいなんて、本当に何があったんだ。


「あの摩天楼を薙ぎ払う巨大な恐龍は何ですか!? この日本は滅びるんですか?!」


 は?


 まるで世界の真実を覗いてしまったような緊迫感を持ってワナワナと震えている。彼女は汗と涙で瞳を潤ませて、こちらを睨んだ。


「未来にあのような怪物が蔓延る世界になるなんて、それに巨大な蛾まで! 私たちが命を懸けてやってきたことは全部無意味なんですか! 答えろっ! 坂井!」


 んー、怪獣映画でも見た?

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