48話 星の海
……ああ、星空がきれいだなぁ。
やっぱり秋は四辺形の星が良く見える。あっ、流れ星。
「貴方には二つの選択がありますの、我々に進んで協力するか、それとも強制的にご協力していただくかですわ。前者をお選びになるのでしたらある程度の自由も許しましょう。有益な技術や知識を教えていただければ女郎だって宛がって差し上げましょう。まぁ、後者は言わなくてもお分かりになりますでしょう」
後ろ手を縄で縛られた状態で冷たい地面に芋虫の如く転がって現実逃避する俺に、上からいかにも譲歩してますと言った風で一方的な言葉がかけられた。
周りを見れば遠藤さんと玉蔵も同様に転がっている。
玉蔵おまえ今日縛られてばっかりだな、親父さんだけでもなんとか逃げられたようで良かった。
ぞろぞろと森の奥から凜と同じような恰好をした女の兵士たちが数名現れ、彼女に敬礼した後、現場の確認をしている。
ずっと見ていたって訳ね。
全て掌の上だったのは気に入らないなぁ、なんか悔しい。
「そりゃありがたいね、選択肢が陳腐な以外はな。遠藤さんや玉蔵はどうなる。交渉はそれ次第だ」
凜は近づくと革手袋をつけた手で俺の髪を鷲掴みにして、強制的に首を上げさせた。彼女の目には若干愉悦のようなものが見える。
「交渉、交渉ですか、そうですか。お立場がお分かりになられていないようですね」
彼女が他の兵士に目配せすると次の瞬間、銃声が響いたと同時に何かが地面に落ちる様な音がする、それが四回続いた。
「ああ、気になさらないでください、露助を処分しているだけですので。与えられた役割も果たせないものには生きている価値がありませんから」
おっかねぇな、絶対彼女にしたくないタイプだ。
「じゃあ、交渉ではなくお願いごとだ。俺の持っている未来の知識を喜んで渡すからこいつらは生かしてやってくれ」
「坂井さん! そんなゲフッ!」
遠藤が口を開くと凜が容赦なく腹に蹴りを入れた。
「ふふっ、お願いごとですか。ですが、こんなの生かしていてもいいことないと思いますよ。中央のお偉いさんに目もつけられていますし、何より無駄に才があるのに空を飛ぶなんて夢想家みたいなことをのたまっているのを見るのは虫唾が走ります」
妹にこんなの扱いされてるけど、どんだけ憎まれてたのさ、遠藤さん。
あんた、妹になにしたんだよ。
「凜さん、一つ教えてくれ。あんたは一体何がしたいんだ」
女兵士だけの部隊なんて聞いたことないぞ、ロボットに乗って戦う大正ロマンのゲームじゃあるまいし。
「秘密です。でも、本当に未来から来られたならお分かりになられるのではありません?」
未来から来たらわかる? 諜報? いや、安易すぎるか。
じゃあアレか。
「……世界征服とか?」
俺の言葉を聞いて、目の前でにっこりと笑う凜につられて笑い返すと顔を足で踏まれた。
「ぐえっ!」
「……なんでこう男って夢見がちなんでしょう、未来はさぞ平和なんでしょうね。もういいです。連れて行きなさい、私はこれを確認してから向かいます」
彼女がハイエースへと向かっていく後姿を見ながら、兵士に強引に起こされ月明かりが差す道を歩きだした。
◇
帯刀していた刀を部下に預け、軋むドアを開いて車に乗り込んだ。
事故の衝撃の為か、いたるところに荷物が飛び散ってはいるものの各所に見たことのない意匠がそこかしこに見られる。
透き通った硝子は言うに及ばず、床に転がっている軽い金属の缶ですら現代とは一線を画した技術を感じた。
「これが未来の車ですか、なかなか乗り心地は良さそうですね」
シートに腰掛けて車内を見渡し、なんとなく目についたダッシュボードにのっていた首振り人形の首を指で弾いた。
「ふふっ、これがあれば私たちの功績も認められるでしょう。中央で苦労されている隊長殿の面目も立つというものです」
後は、この機械の使い方をあの男から聞き出さないといけませんね。
飄々とした男ですが義理人情に篤そうですし、村人の保護など恩を着せれば意のままにできるでしょう。
愚物な兄の助命もまぁ、飼い殺しなら許しましょうか。
夜明けに馬と人足を使って車を引き上げる差配を考えながら、車を降りる。
その時、ふと潰れた前輪付近に何か心がざわつくような違和感を覚えた。
坂井から取り上げたLEDライトを取り出し、しゃがみこんで車輪の奥を照らすと車に押しつぶされて割れてはいるが何かが刻まれた石が見える。邪魔な草や枝をかき分ければジェーンが言っていた平家の家紋が見て取れ、背筋に冷たいものが走った。
「まさか、本当に……」
おもむろに手を伸ばして石を触った途端、視界に広がったのは暗闇に浮かぶ数多の星、その全てが眩い光の流星となって私の体を打ち抜いた。打ち抜かれる度に様々なイメージが脳裏を駆け巡る。
次々に流れ込んでくる洪水のような情報。
歯を食いしばり、目を見開いて受け止めてはいたが……。
だめっ! 頭が割れる! もう、受け止めきれない!
「あああああ!!!」
「副隊長殿!」
限界を迎え、自我が壊れそうになった刹那、数人の部下が駆け寄って強引に石から私の体を引きはがすと視界はすでに闇が広がる先ほどの森の中へと戻っていた。
「はぁー! はぁー!」
口から吐き出される荒い息は止まらず、手は震え続け、全力で何里も走った後のように体中から汗が噴き出しており、服が肌に張り付いていた。
肩を揺さぶり心配そうに声を掛けてくる部下や、何事かと近寄ってくる猟師など、もはや意識の外だった。
……今はとにかく、坂井に話を聞かなければ!
部下に預けていた刀を奪い取るように手に取り、暗い道を一人無我夢中で走り出した。




