46話 救出作戦と車泥棒
「うーん、思ったより人数いるなぁ」
木に貼り付けたテープを頼りに辿り着いたはいいものの、少し離れた崖の上から車のある斜面を覗き込むと五人くらいがドアから乗り込んだり、周辺をランプ片手にウロウロしているのが見えた。
勝手に人の愛車に入るなよ。
こんなことなら施錠しとけばよかった、ドア歪んで閉まらないけど。
それにしても自分の車を盗もうとしている奴らをリアルタイムで見るとこんな感じなのか、怒りで頭の血管が切れそうだ。
肝心な玉蔵と言えば、車の近くにある木に縄で縛り付けられているのが見えた。
ぐったりもしてないし今のところ元気そうだ。
玉蔵の側で二人の男にランプで手元の紙を照らさせている男がいる。
白髪の偉丈夫だ。
「アイツが日本語話していたって奴かい、親父さん」
「んだ、あの白髪頭ぁ、あんちきに違いねぇ」
縛られた玉蔵を見て親父さんも鼻息が荒くなっている。
そりゃ息子が捕まって縛られてりゃ、怒り心頭だよな。
「もうちっと厳しく鍛えでおげばいかったなぁ」
あ、ちがったわ。
玉蔵が簡単に捕まったことに怒ってるわ、親父さん。
……まずは何としても玉蔵を助けださないとな。
助け出せれば土地勘のある親父さんがいるし何とかなるか。
いや、車にあるアレが使えれば無力化できるか?
「遠藤さん、ロシア語で爆発するってなんていうか知ってる?」
横で鼻から荒い息を吐きながらハイエースを凝視していた遠藤さんに話しかける。
「なんですか藪から棒に。残念ですが存じません、何かいい案でもあるんですか? 私は皆殺しがいいと思うんですが」
いやいや、遠藤さん。
あんた車を見たい気持ちが先走りすぎておかしいことを口走ってるぞ。
ポケットからスマートキーを取り出して見せた。
「今、あいつら俺の車に乗り込んで好き勝手やってるだろ? ここから遠隔で車の施錠ができるんだが、いきなり鍵が閉まると奴らびっくりして車から我先に出ようとするんじゃないかな。でも、その状態でドアロック、えっと、扉の鍵を開けようとすると……デカい警報が鳴り響くんだよ」
車中泊の時に鳴り響いてえらい目にあったことがある。
セキュリティは大切なんだけど敏感すぎる時があるのよね。
「そんな時にロシア語で爆発するー!って叫んだらあいつら逃げると思わない?」
「なるほど! それはいい案かもしれませんが、ロシア語ですか。誰か知っている者はいますか?」
仲間たちに聞くと皆揃って首を振った。
ですよね。爆発する、ばくばつ、ボンバーは英語か。ボンバイエはなんか違う気がする。
駄目か、他にいい案あるかな。
「一人ずつ撃っちまえばいいんじゃないですかね、遠藤の親分」
仲間の猟師が放った言葉に、ハイエースを凝視していた遠藤がゆっくりと振り向いた。嫌な雰囲気を感じたのか猟師の男は「軽率でした!」と震える声で謝罪した。
その態度に軽く息を吐いて仲間を見回した。
「撃ちあいなんかになったらあの、技術の結晶である自動車が壊れてしまうでしょうが。何としてでも無傷で手に入れなければなりません、それは肝に銘じてください、万が一少しでも傷をつけたら……わかってますね」
得も言われぬ迫力でいう遠藤にみんなが無言でうなずいた。
いや、あれ俺の車だしフロント大破してんだけど。
とは、なんだか言いだしづらかった。
◇
俺の立てた作戦はこうだ。
一番に玉蔵の身柄確保、その為の敵の無力化。
遠藤さんは不服そうだったが、目的のためには車に傷がついても構わないと皆に言った。それを聞いた皆は目に見えて安心したように息を吐いた、車を庇って怪我したり死んだりしたら元も子もないしな。
そもそも俺の車だし。
できるだけ奴らに近づき、遠隔で施錠をしたのちセキュリティーアラームが鳴るのを待って混乱に乗じて奴らを倒していくことにした。
ただし、出来るだけ白髪のボスは生きたまま捕まえたい。
どこから情報が漏れたのか確認しないとすっきりしないしな。
親父さんの後に続き、獣道とも言えない細道を風で揺れる笹やぶの音に紛れて進むと、ほどなく男たちの話声が聞こえるところまで到着した。
仲間に強い光とびっくりするような音がなると事前に伝えたが、本当に大丈夫だろうか。
「じゃあ、行きますよ。ぽちっと」
かしゃん!
車のランプが点滅し、ドアの施錠音がした。
思った通り、車の中で男の声や何かを叩く音が聞こえてきた。
ガチャガチャとドアを開けようとする音が響く中、オートアラームが作動して森に囲まれたハイエースから『ビー!ビー!』という、けたたましいアラーム音とハザードが辺りを明るく照らし出した。
「今だ! いくぞって、ええ?!」
飛び出した俺の他には誰もその場から動いておらず蹲り、遠藤さんですら、聞いたことのない爆音と光に硬直していた。
敵も同様で誰一人動けずにその場で立ちつくしていた。
「嘘だろ! 刺激が強すぎたのかよ! 俺一人だとヤバいだろ!」
走って車の後ろに滑り込むとバックドアを力任せに跳ね上げて、念の為に買って無造作に段ボールへ突っ込んでいた二本の缶を手に取った。
「これでもくらえや! くそったれ車泥棒ども!!」




