45話 思わぬ再会と手練れ
日の落ちた深い森の中でもうもうと立ち昇る煙と炎。
パチパチと爆ぜる火の粉に遠くからでも感じる熱。
初めてこの時代で人と出会い、一緒に仲良く酒を酌み交わした場所が消えようとしていた。
「……くそっ」
あまりの光景に思わず毒づく。
敵に気付かれないようにと顔や腕に泥を塗り、出来るだけ近づいて笹やぶの隙間から燃え盛る家を覗き見ると、入口があった付近に誰かがうつ伏せに倒れていることに気がついた。燃え盛る炎に照らされているとはいえ、遠目では誰なのか分からない。
まさか、親父さんか?!
今、見つかる危険を冒してまで倒れている人を確認するか悩んだが、玉蔵や親父さんの笑った顔が脳裏に浮かび、どんどん焦燥感が募っていく。
引き止める仲間をなんとか説得して周囲の警戒を頼み、人の気配がないことを何度も確認する。ゆっくり地面を這いずって近づくと、倒れている人の服を掴み、急いで笹やぶへと引きずり込んだ。
暗がりの中で、どうか知っている人ではありませんようにと心の中で祈りながら小型のLEDライトのスイッチを入れた。
「うっ、死んでいる……」
仄かな光に照らし出されたのは無惨にも首を横一線に掻き斬られ既に絶命している外国人の男だった。
その顔は怯えなのか、驚愕していたのか、大きく目が見開かれたままだ。
ふー、とりあえず良かった。
……良かった?
極度の緊張か、それとも強行した峠越えや村での戦闘の疲労で気持ちが高ぶっているのか、明らかに殺された死体という非日常を見てもさほど驚きがなく、それどころか玉蔵たちじゃなくて良かったと、安堵すらしている自分に驚いた。
ゴリッ
仲間が死んだ男の持っていた小物入れやポケットを探っているのを見ていると、突如背中に感じる固い感触と共に押し殺したような声が耳を打つ。
「にしゃだれよ」
「!?」
俺も仲間も全員が神経を張り詰めて警戒していたにも関わらず、何の気配も感じなかった。実際に今ですら仲間は誰一人として気付いてすらいない。
だが、この声には聞き覚えがある。
溢れ出そうな涙をこらえ、深呼吸してから問いかけた。
「その声は親父さんかい?」
数瞬の沈黙。
「あれ、坂井さんでねか。なしだの」
背中に突きつけられていた銃口と殺気が消えると、あの人懐っこい声が後ろから掛けられた。
◇
いきなり俺の後ろから現れた玉蔵の親父さんに、仲間の猟師ですら驚いている。
親父さんの姿を見れば俺たちと同じく顔と体に泥や炭を塗っていたが、身につけている蓑にはまるで隠密作戦で使われるギリースーツのように落ち葉や枝で擬装がされていた。
とにかく親父さんが無事で本当に良かったと話すと、親父さんは鼻を擦りながら今日あったことを話し始めた。
「玉蔵がりっぱん馬と知らね男らつっちきて(連れてきて)、坂井さんの車のどこ案内してんだっていうのさ。なもはんもいわねがったけんど(何も言わなかったけど)、顔の傷さ見れば脅されてんだなすぐ分かっだ」
親父さんは顔をしかめて頬の辺りを指差した。
「そんで、ここさ馬と男二人置いて一緒に森んの奥に入っていがったんだ。玉助けに行こうとすた、わすに銃突きつけてくるもんだからさ、こう、ばっさりと」
こう、ばっさりと?
そのばっさりってあの首を横一文字に切り裂かれた死体のこと言ってんの? 銃持った相手を一人で?
「男二人って言ってたけど、もう一人はどうしたんだ?」
その辺の木の枝でも払うみたいな普段通りの調子で話す姿に、俺は絶句してしまった。その代わりに仲間の猟師が尋ねた。
「小屋ん中で倒したけんちょ、ランプ割れてまっであん中よ、あーあ、派手に燃えちまってまー」
口を尖らせて燃え盛る小屋を差した。
どうやら二人とも倒していたらしい、しかも襲われた事より小屋が燃えてしまったことにご立腹みたいだ。
……親父さん、本当にただの炭焼き職人なのか?
なんか、手慣れすぎてない? それともこの時代の人たちはこれが普通なのか?
「坂井さん、この方は?」
頭の中が煮えそうになっていると遠藤さんが声をかけてきた。
「ああ、この人は俺の恩人で右も左も分からないときに助けてもらったんだ」
「そうだったんですね、私は遠藤と申します。もし、ご協力頂けるのであれば立派な小屋を建てて差し上げますよ」
遠藤さんが親父さんの話を聞くや否や仲間に引き入れようとしたが、親父さんは首を振った。
「小屋はまたわすが建てればええ、坂井さんには倅が世話んなったもの、そったらことしなぐても手ぇ貸すべ」
「……親父さん、ありがとう」
「ええのええの」
照れたように言う親父さんはいつも通りだ。
まぁ、びっくりはしたが心強い味方が増えた事には違いない。
よし待ってろよ、玉蔵。
今助けに行くからな。




