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44話 後悔と見える赤い光

「吶喊! 吶喊!」


 村長の家の戸板を蹴り倒し、俺たちが銃を持ってなだれ込むと女たちが悲鳴を上げ、何人かは子どもを抱きかかえるようにして壁際へ逃げた。

 部屋の中にいた二人の男は手に持ったコップを捨て銃を取ろうとしたが、頭へ突き付けられた銃口を見て両手を上げた。

 ジェーンは男に近づき、後ろ髪を掴み膝裏を蹴って強引に引き倒すと手慣れたように腕を縄で縛り上げた。


「人質取るとか男の風上にも置けないわね、クソ野郎」


 俺も辺りを見渡し、声を上げた。


「村長はいるか!」


「……こ、ここだ」


 奥の柱に縛られた男が掠れた声を上げた。

 ランプの灯りで姿を照らしてみれば襲撃してきた男たちに抵抗したのか殴られた顔は腫れ、服はボロ布の様だ。


「村長、俺だ、坂井だ。一体なにがあったんだ、教えてくれ」


 縛られた縄を側にあった包丁で切りながら尋ねると体の痛みに耐えながらポツリポツリと話し出した。


 早朝、日も昇らないうちに輓馬を数頭引き連れた男たちが村の門を潜り、住人たちを銃で脅してこの家に押し込めたという。

 リーダーらしき男からはここにあるという機械を探していると言われ、村長が知らないというと執拗な暴力と尋問を繰り返したようだ。

 そいつも外にいた奴らと同じ外国人で、話していた日本語は片言だったという。


「おなごや子どもさ手ぇかけんべとしたとこで、玉蔵が案内すっからやめれって男と出て行ったんだ」


 村長はそこで言葉を切り、腫れた口元を歪めた。


 俺の車と行動が原因でこんなことになってるのか。

 自分のこれまでしてきた軽率な行動を思い出し、傷ついた村長たちへの申し訳のなさ、そして襲撃してきた奴らへの怒りで気持ちがぐちゃぐちゃだ。


「……あんた、ウェンディゴ(化け物)みたいな顔してるわよ」


 ジェーンがうつむいた俺の顔を覗き込み呟いた。

 その意味はわからないが相当酷い面をしていたのか。


「坂井さん、感傷に浸るのは後でもできます。一刻も早く、そいつらに追いつかないといけません。場所は分かりますね」


 ……ああ、遠藤さんの言うとおりだ。

 後悔なら生きていれば後からいくらでもできる。

 今は早く奴らに追いついて玉蔵と親父さんの無事を確認しなければ。


 自分の顔を両手で強く叩き、気合を入れ直した。

 持っていた鞄から銃と銃弾を取り出すと村長の手に握らせた。


「村長、銃を預けるからここに敵が来たら使ってくれ。それと、俺たちが戻ってきたら奴らへの報いも含めて、償いをさせてもらう」


 俺の目を見て、頷く村長を見て外に出た。


 ◇


 味方数人を村に残し、玉蔵の親父さんがいる炭小屋を目指して辺りを警戒しながら早足で進む。

 小一時間ほど経った頃、俺の横を走る遠藤さんが少し息を切らせながら口を開いた。


「住人から村にいた奴らの他に少なくとも後二人は居たと聞きました。輓馬も村にいなかったので一緒に現地に向かったようですね」


 そいつらも車を引き上げる為の準備をしていたようだが、どこまで情報が洩れているんだ。

 金になるかどうかすら分からない情報に時間と人と金をかけてまで動くんだ、確実に何かを掴んで動いた奴がいるはずだ。


「だが、そんな人数と馬だけじゃあ、あの重たい車はそう簡単に引き上げられないぞ」


「ええ、でも物の本当の価値を分かっていない輩に車を壊されでもしたら大変です。彼らには疾く消えてもらいましょう」


 遠藤さんも口調は穏やかだが、怒り心頭といった風だ。

 この人は怒った時に雰囲気が穏やかになればなるほどヤバい。


「しかし、良かったんですか? ジェーンさんを村に残してきて」


 縛り上げた男たちを吊るそうとして皆に止められていた姿を思い出した。

 女子供の人質を取っていたことがアイツの逆鱗に触れたらしい。

 無言で淡々と吊るす準備をしていて男どももその姿に「Помоги мне!」と叫んでいた。

 ロシア語が分からない俺でも意味は分かったぞ。


「ああ、勝手に縛り首にしないようにはちゃんと言い聞かせたしな。それにアイツが来たら最悪、俺の車が燃えだしてもおかしくない」


「……賢明です。想像できるところが恐ろしい、味方が一番怖いなんて冗談にもなりませんね」


 よく理解していますといった顔で答えた。

 半月一緒にいただけで遠藤さんにこんな顔をさせる女はアイツしかいないんだろうな。


「そろそろ炭小屋が見えてきてもおかしくないはずなんだが……この臭い、まさか!」


 小一時間走ってきたところで辺りに焦げたような臭いが漂い、道の奥に赤く揺らめく光が見えた。


「奴ら小屋を燃やしやがったな! 玉蔵たち無事でいてくれよ!」


 走る足に力を込め地面を蹴った。

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