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43話 夜間作戦

 村の入口近くの森で白樺と笹やぶに囲まれ、息を殺しながら斥候が戻ってくるのを待っていると、陽が落ちきる直前に風で揺れる笹の音に紛れて渋い顔をした猟師が姿を現した。


「デカい家の前に一人、入口と井戸の前に一人ずつ。全員銃持ち。女子供の声はデカい家からしか聞こえん」


 猟師が村の状況を端的に話す。

 予想通り、単なる押し込みではないらしい。何者かは分からないが装備が整い過ぎているし、そもそも一か所に住人を集める理由もない。


「外にいるのは三人か、住人は村長の家に集められているようだが、奴らの仲間が家の中にいるかは未知数だな。さて、どうするか」


「こっちから仕掛けて一気に三人倒しちゃえばいいじゃない」


 ホルスターから抜いたドラグーンを手で撫でながらジェーンが気軽に言う。


 お前が早撃ちの名手で百発百中ならそれもありだったんだがな。

 仲間があと何人いるのか分からないのに先制攻撃をすると、村人を巻き込んだ撃ち合いになるかもしれない。

 それはできるだけ避けたい。


「他の場所から離れている入口の奴から倒しましょう。この距離なら奴らの使ってる松明くらいじゃ、誰かとすり替わっていてもバレませんよ」


 遠藤がそう話すと、ジェーンがふくれっ面をした。


「えー、つまんない。でも、一人ずつでいいなら私に任せてよ」


 こいつも俺とは命の価値観が違うなぁ、自分の命も他人の命もカードの掛け金程度にしか考えてない。

 現代日本がどれだけ恵まれた環境だったか思い知るなぁ。

 任せると言ってもいないのに楽し気に準備をするジェーンを見つめて、そう思った。


「ほら、コレ。あたし実は銃の次にこれが得意なんだ」


 輪っかを作った縄を取り出し笑みを浮かべる。


「投げ縄か、でも銃の次じゃダメすぎるだろ、ダメだ、ダメダメ、却下だ」


「ダメダメ言い過ぎ! ちょっとは信じなさいよ、コレをこうして」


 言うや否や、手のスナップを使って縄を高速回転させ始めた。


「あ、お前!」


 投げられた縄は五メートル以上先のハンチング帽をかぶった男の首に見事にかかった。次の瞬間、ジェーンが思いっきり縄を引くと男は声を上げる暇もなく松明を手から離して地面へ引き倒された。


「やべっ! 松明! 松明!」


 急いで落ちた松明を拾い、男が立っていた位置に戻った。

 井戸にいる奴の松明に動きがないのを見て、大きく息を吐いた。


「ジェーン! お前、いい加減にしろよ!」


 大声を出すわけにもいかず小声で怒鳴った。

 だが、ジェーンを含め誰一人こちらを見ずに引きずられて気を失った男を見て、持ち物を探っていた。


「……何か、あったのか?」


 ここからでは倒れている男の足くらいしか見えない。

 しゃがんでいた遠藤さんが立ち上がり俺に近づいてきた。


「坂井さん、これを見てください。あの男はおそらくロシア人です」


 手渡された女性の映った小さな写真の裏には『Спаси и сохрани тебя моя любовь. (私の愛する人が救われ、守られますように)』とロシア語が書かれていた。


 なぜ、こんなところにロシア人が。

 いや、考えるのは後でいい。まずは外にいる奴らを無力化していくぞ。


 井戸の横にいる男は俺がここで松明を振り回して気を引き、その隙に遠藤さんたちが回り込んで村長の家の前にいる男を倒すことになった。


 落ちていたハンチング帽の埃を払い、深めにかぶる。

 手に持った松明を井戸の方に向かってグルグルと回した。


「Чё стряслось? Опять какие-то проблемы?(どうした、何かトラブルか?)」


 俺と同じぐらいの身長の男が足早に近づき目の前までくると、何かが擦れるような音と共にジェーンの投げた縄の輪が見事に首にかかった。


 俺の。


「シュウ! 邪魔!」


 本当にいい加減にしろよ、お前。


 いきなり目の前の男の首に縄がかけられ、慌てて肩にぶら下げていた銃を構えようとしていた男に向かって肩から体当たりをかました。二人して地面に転がると縄を掴んで男の首に巻き付ける。


「Кто ты, черт возьми, такой!(なんだ、お前!)」


 黙れ、何言ってんのか分かんねぇんだよ。

 俺と仲良くお縄になれ。


 起き上がって男を背負うように両手で縄を引くと激しく抵抗していた男の動きが次第に鈍くなっていき、身体から力が抜けたように重たくなった。


 村長の家の方を見ると誰かが手に持った松明をグルグルと回っている。

 あちらの方もうまくいったようだ。


「ふぅー、もうダメかと思った」


 荒縄を自分の首から外し、強く握ったせいでジンジンと痛む手をプラプラとさせながら、倒れた男を見ると白目を剥いて気を失っていた。胸は上下しているので呼吸はできているようだ、念のため動けないようにキツめに縛っておこう。


 こいつもロシア人か。

 爺さんたちから聞いた昔話のせいか、こいつらにいいイメージ無いんだよな。


 そういや、日露戦争ってもうすぐだったっけか。

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