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27話 何にしても準備が重要

 ハイエースを山から引き上げる為に、遠藤さんが必死に各所を駆け回った結果、出発は準備が整う一週間後となった。


 その間、俺は妹の凜さんにも手伝ってもらい平家ゆかりの寺などを教えてもらって各地に手紙を送ってみたりと、それなりに忙しい日々を送っていた。


「よし、この手紙で終わり。凜さん、手伝っていただいてありがとうございました」


 同じ部屋で、机に置いた封筒に糊で封をしている凜さんに頭を下げた。


「いえいえ、こんなことでお礼はいりませんわ、坂井様のお話も面白いですし、かえってお邪魔をしていなかったか心配でしたの」


「いやいや、邪魔なんてそんな! 調べものから代筆までしていただいて本当に助かりましたよ」


 俺たちが謙遜合戦をしていると、カウボーイハットを被ったジェーンが白けた目で俺たちを見ながら庭から廊下に上がってきた。


「何やってんの、あんたら。まぁどうでもいいけど、シュウ、鹿取ってきたわよ、鹿。肉は用意したんだから美味しいステーキ作ってよね」


 門を見れば、遠藤さんの手下たちが棒に吊るされた鹿を運び込んできた。

 街の外で処理してきたらしく頭も毛皮も内臓もない枝肉状態だ。


「いいね、俺も久しぶりに肉々しいステーキを食いたかったところだ、これだけあるなら組の皆で食えるな。ふふふ、腕が鳴るぜ」


「坂井様は料理もお出来になるんですの?」


「料亭とはいきませんが、一応人の食べられるものは何とか。ちょっと材料買ってきます、源さんついてきて貰えますか」


「へい、お供しやす」


 なんでも、この坊主頭の源という男は遠藤さんの右腕らしい。

 助手として好きなように使ってほしいと遠藤さんに言われたが、俺のお目付け役に他ならない。

 何にせよ、人手はあって困ることがない、ありがたく使い倒させてもらおう。


 街の大通りに出ると、行きかう荷馬車の馬が嘶く声や揺れる鈴の音、店前から聞こえる威勢の良い呼び込みのかけ声に溢れていた。


「賑やかだねぇ、でも流石にラーメン屋はないんだな」


 駅前にあったラーメン屋で食べた味を思い出し、未来の味が懐かしいなんておかしい話だと笑った。


「なにかありやしたかい?」


「いや、前に食べた飯の味を思い出してたんだ。今度似たようなものを作るから感想聞かせてよ。ああ、あと商店ってこっち?」


「へい、ご入用の品が置いてありそうなのはそこの秋本商店で」


 立派な店構えの屋根に掛けられている看板には『青果物 食料品 秋本商店』とあった。

 ペンキの色も新しく、最近できた店らしい。


「お邪魔するよ」


「いらっしゃいま……せ、今日は何か入用で」


 俺の後ろからぬっと入ってきた源さんの姿を見て、一瞬言葉を詰まらせたが流石は商売人、今は顔に張り付いたようないい笑顔だ。


「ニンニクと玉ねぎ、あと砂糖はあるかな。ああ、あと赤ワインとかって、ある?」


「ニンニク、玉ねぎは、砂糖はございますが、申し訳ございません、赤ワインはございませんね。砂糖は舶来の白砂糖がお勧めです」


 見ると現代の物より少し濁った色の白砂糖と岩の塊のような黒糖が置いてあった。

 店の棚には思った以上に様々な材料や調味料が陳列されている、何だこの缶。


「それは牛乳というものらしく、近くの農場から取り扱いをしてほしいと毎日半ば押し付けられているのですよ。無下に断るのは心苦しく置いておりますが物好きな方が偶に買われるぐらいです。正直、牛の乳は使い道がわからなくて持て余しています」


 おもむろに蓋を外してみると裏側には脂肪分が固まって、膜の様に張り付いていた。


「じゃあ、俺もその物好きだな。この缶に入ってるの全部ください」


 ◇


「坂井様も台所に立たれるのですか?」


 凜さんが、心配そうに腕まくりをする俺を見つめている。


「ええ、綺麗に使わせてもらいますので心配しないでください。凜さんの好みはあっさりですか? それともこってり?」


 いきなり好みを聞かれた彼女は少し悩んで恥ずかし気に「こってり」と答えた。


「お口に合うかわかりませんが、手によりをかけさせてもらいますよ」


 頼むぜ、野郎ども。

 甘味と酒で釣った男衆に指示を飛ばしながら料理を進めていく。


 背後を見れば、上半身裸になった刺青入りの男が奇声を上げながら、持たせた小さな樽をプロシェイカーも青ざめる速度で上下に振り回していた。中の牛乳の脂肪分を分離させてバターを作るためなのだが、絵面が完全に何かの拷問だ。

 

 脇では、源さんがドスを逆手に構え、まるで敵の首を掻き切るような殺気あふれる眼光で鹿肉の筋を丁寧に切り分けている。


 そのうち、サメ皮で玉ねぎをすり下ろしている奴が涙と鼻水を出しながら床に倒れた。


「全部、摺り下ろしてから倒れろ!ばっきゃろめ!」


 飛び交う怒声と笑い声。


「……本当に大丈夫なのかしら」


 凜はガヤガヤと楽し気に料理する男衆を見て呟いた。

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