22話 豪華な食事、殺気付き
「さぁ、どうぞ遠慮なくお上がりください」
目の前には見るからに高そうな御膳が所狭しと並んでいる。
わざわざ料亭から呼んだ板前にでも作らせたんだろうな、この人。
「ねぇ、シュウ。これどうやって食べるの? この棒で刺せばいいの?」
うーん、こんなところで異文化交流するとは思わなかった。
ここまでの道中はスプーンかナイフしか使わない料理ばっかりだったしな。
「食べたいように食べればいいよ。他に人はいないんだし、誰もマナーなんて気にしないだろ」
そう言うとジェーンは箸を投げ出し、尾頭付きの焼き魚を手づかみで豪快にかぶりついた。
「シュウ! これうごい!」
「ごめん、流石に飲み込んでから話してくれ」
いい食いっぷりだ、凜さんがすごい目で見てるけど気にした風もないな。
それにしても、こんなにいっぱいだと全部食べられる気がしないよ。
「坂井さんはどうやってこちらに来られたんですか、もちろんこの時代にって話です」
身を乗り出して、いきなり本題とはせっかちだねぇ。
もうこの人の中では俺が未来から来たことで確定してるんだろうな。
ハイエースで崖から落ちたら来てましたとか言えるはずもねぇ。
「遠藤さん、その話の前にお互い自己紹介でもしませんか。急転直下過ぎてちょっと自分でも考えがまとまらないもんで」
座布団に座り直した遠藤さんは思案顔だ。
「……まぁ、いいでしょう。時間はたっぷりありますし。では私たちのことからお話しましょう」
遠藤さんが言うには遠藤一家を支える組長である遠藤大吾、その妹である遠藤凜が旭川に来たのは今年の春のこと。
衛戍地ができて商売人も増え、歓楽街も賑わう旭川に東京から一旗揚げに来たという。
その筋の人間も群雄割拠する中、遠藤組はあれよあれよと手を広げ、北地区の歓楽街や遊郭、果ては銭湯まで仕切るようになったそうだ。
どんな手を使ったのかは濁していたが真っ当にお話してたらそうなった、と言ってるから誠意が籠った深い深いお話し合いでそうなったんだろうよ。
信じる信じる、興味もねぇ。
「では、坂井さんとジェーンさんの番ですよ」
キラキラというより脂がのったギラギラした目で見るなよ、暑苦しい。
あんたが腹を割って話せば、こっちだって多少譲歩はするのにな。
「気づいたら山の中にいた、以上」
「ふはしも、なんふぁ、やはのなふぁにいたの」
それ以外にどういえばいいんだよ。
あと、ジェーン食ってから言え。
遠藤は「つれないなぁ」と芝居がかったため息を吐いた。
そんな問答をしていると障子を隔てた廊下から子分が遠藤を呼ぶ声が聞こえてきた。
「皆様お食事の所、失礼いたしやす。組長、佐々木様からの使いが来ておりやす」
「後にしてくれ、大事なところなんだ」
「至急の件と言われておりやす」
先ほど俺たちに見せたものとは違い、本当に落胆したため息を吐いて立ち上がった。
「坂井さん、少しばかり所用で席を外しますので帰ってきたら色々とお聞かせ願います、いいですね」
そう言うと子分を引き連れ出ていった。
遠藤の足音が遠ざかるのを見送り、俺は深くため息を吐いた。
ジェーンはといえば、口の周りを脂でテカテカにさせながら、今度は刺身の皿に手を伸ばしている。
「あの、お召し物ですが」
静かに口を開いたのは、凜さんだった。
「お二人のお召し物は、随分と汚れておられましたので、下男に命じて綺麗に洗濯して庭に干させておきましたわ。乾くまでその浴衣でお寛ぎください」
親切な「おもてなし」だこと。
手際が鮮やかだねぇ、逃げる気もないけど。
「ちょっと! 私のカウボーイハットと銃はどこへやったのよ!?」
「物騒な物は別室でお預かりしておりますの。それとも、この家で誰かを撃つおつもりですの?」
撃ちそう。
それは預かってもらっていた方がいい。
二回も撃たれた俺が言うんだ、間違いない。
「それはそうと凜さん、さっきお兄さんが言ってた一旗揚げるって嘘でしょ?」
嫌なところを突かれたように一瞬、彼女の顔に影が差した。
「坂井様、あなたは随分と胆力がおありになるんですね。この状況でそんなことを仰るなんて、命がいくつあっても足りませんよ」
次の瞬間、ぞわっとするような殺気を感じてジェーンが思わず箸を握り、後ろに飛ぶ。
怖いねぇ、妹さんはただもんじゃないとは思ってたけど。
「命ねぇ、確かに惜しいが今は安全でしょ。流石にお兄さんの客を殺しちゃ外聞が悪すぎる、それにここ半月で何度も死にかけてれば慣れるよ」
「何度も、とは?」
「熊に襲われる、母熊に襲われる、もっと大きな熊に襲われる、あとこいつに二回銃で撃たれた。ほら、この傷がそう」
俺は死にかけた回数を指折り数えながら、ジェーンに撃たれた顔と腕の傷を見せると、彼女はキョトンとした顔を見せた。
いつの間にか彼女から放たれていた重苦しい殺気も消えていた。
「命ってものが儚いものだって実感したよ、でも要は使いどころだろ。こんなもん。」
高そうなぐい飲みに貰ってきた酒を注いで飲み干す。
やっぱり旨い、現代の酒に勝るとも劣らん。
「あははは! そんなこと言う人は初めてです。確かにそうね、その通りですわ」
凜さんが目に涙を浮かべて腹を抱えて笑っている、何がおかしいんだ。
こちとら死にかけた話をしただけだぞ。




