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14話 交渉と拷問

 街道を外れ、森の中に忘れ去られた廃墟のような小屋。

 木々の隙間から差し込む月光と、ゆらゆらと揺れるランタンの仄暗い光が、薄汚れた二人の男とうら若き女性の影を壁に大きく映し出していた。


「散々、手間かけさせやがって」


「クソ野郎どもめ!」


「ふふふ、もう、お前がどれだけ大声を出そうと無駄だ、誰も助けには来ない。観念するんだな」


 夜の帳が下り、遠くでフクロウの不気味な鳴き声が響く。

 雰囲気を出すためにちょっと悪党っぽい口調を気取ってみたが、ジェーンはギラギラとした目つきで俺を睨みつけてきた。


「くっ!殺せ」


「……女ガンマンからくっころを言われるとは思わなかった。そして言わせてもらうが、そのフレーズはもう古い」


「古い?」


「くっころってなんだべ、また外国語だべか」


 横で玉蔵が首を傾げている。ネットミームはある意味、外国語より理解困難だ。

 ともかく、せっかくタイムトラベルの手がかりを手に入れたと思ったのに、この女は隙を見せればすぐに襲い掛かってきやがる。意思疎通がここまで困難だとは思わなかった。


 だが、この廃屋を見つけられたのは不幸中の幸いだった、こんな目立つ女を縛った状態で連れ歩きたくないし、あたりまえだが宿場にも泊まれない。

 そもそも、こうして縛り上げる羽目になったのも、意識を取り戻した彼女がどこからともなくナイフを取り出して暴れ出したからだ。念のため、護身用にバールを工具バッグから持ってきておいて助かった。


 名誉のためにいうが、縛ったのは決して俺の趣味ではない。

 

 手に持ったナイフをバールで叩き落とし、取り押さえて服を確認すると、ブーツの脇、腰の後ろ、太もものホルダー、袖口と……出るわ出るわ、合計10本以上。

 この女、予想以上にヤバい奴確定だ。

 どこぞの暗殺者かよ、それとも西部開拓時代はこれが当たり前だったのか?


「ただ質問に答えるだけでいい、本来あんたと関わり合いになりたくないんだ。ちゃんと答えてくれさえすれば、解放するし食料だって分けよう」


「断る。おまえら悪党が欲しがっているものなんてわかりきってる。それなら俺は名誉の死を選ぶ。吊るすなら早く吊るすんだな」


 ニヒルな笑みを浮かべてはいるが足がぶるぶると震えているのは隠せていない。

 そもそも俺たちはお前の様に銃をちらつかせて強盗はしていない、どっちが悪党だ。


「残念だ。だが、俺も鬼じゃない。素直に話したくなったら言ってくれ。じゃあ玉蔵、やってくれ」


「本当にいいんだべか。なんだかドキドキするべ」


「何をする気だ、やめ、やめろおおお!」


 ◇


 クチャ……クチュ……


「どうかな、素直に話す気になったか」


「は、話すから、もう、止めてくれ、お願いだ」


 クチュ……クチャ……


「止めてくれ? ふーん。玉蔵もっと激しくだ」


「止めてください! お願いします!」


 椅子ごと身をよじり、半泣きで懇願するように俺を見上げる彼女の青い目には、うっすらと光るものが滲んでいた。


「最初からそう素直になっていれば、こんな辛い目に合わなくても済んだものを。玉蔵もういいぞ」


「わかったべ、いやぁ、うめがったうめがった」


 その唇はランタンに照らされテラテラと光り、怪しく糸を引いていた。


 玉蔵は女から離れると茶碗の残りの納豆を一気に口に放り込み美味そうに飲みこむ。

 辺りには納豆独特の臭いが漂っていた、外国人が靴下の臭いと比喩する、あの臭いだ。


 それにしても馬の鞍に挟み込んで作っていた納豆が、まさかこんなところで役に立つとは。

 外国人の彼女には、耳元で見知らぬ男が延々と納豆を何度も咀嚼するASMR(拷問)に耐えられなかったようだな。

 しかも臭い付きなんて、この女はよく耐えた方だ、関西人ならもっと早いかもしれない。


「なんてひどい男だ、お前は」


「よく言われる。さぁジェーン、話してもらおうか」


 縛られて身動きできないくせに、なんて目をしてやがる。

 まるで捕食者のような目だ、これはとても良くない。


 用事が済んだらさっさとコイツから離れよう、おっかねぇ。


「カリフォルニアには何のために向かっていたんだ?」


「金の為さ、子供でも知ってるだろ、ゴールドフィーバー。金を掘るもよし、酒場で用心棒をやるもよし、より取り見取りさ」


「ゴールドラッシュのことか。ロッキー山脈を越えるならキャラバンを組んでたはずだろ。それが何でまた迷子になる」


「愛馬が何かに怯えて逃げちまったんで追いかけたのさ。銃撃戦の中でも欠伸しながら干し草食ってるような奴が逃げたんだ、流石に慌てたよ。追いかけていくうちに霧が深くなって、前も碌に見えなくなった頃、目の前に小さな墓みたいなものが見えてきたんだ」


「墓?」


「石に何か刻まれていたから多分墓だとおもうが、馬は見つからないし、周りは霧に包まれてるしで下手に動くのも危ないと思ってその石に座って一服したんだ」


「罰当たりな、墓に座るなよ」


「聖書に汝、休憩に墓を尻に敷くなかれとは書いてなかったんでね。それでパイプを吸い始めるとこう、うまく言えないんだが、頭がグラグラとし始めて寝てしまったんだ。目が覚めたら腰かけてた石もないし、周りの景色も変わってて驚いてたら、アンタらの叫び声が聞こえたから助けに入ったってわけ」


「助けに来た割には俺しか撃ってないだろ、まぁともかくその墓の形とか刻まれてた絵でも文字でも覚えてるか」


「ぜんぜん、でも同じもの見ればわかるよ。記憶には自信がある」


「うさんくせぇ、でも状況は理解できた」


 もし車の近くとか下とかに同じような墓みたいなものがあると仮定するなら一回村に戻った方がいいのか?

 でも車の下にあるならどうにかして車動かさないといけないしな。

 やっぱり何をするにしても金が必要だな、予定通り旭川でどうにかして金を稼ごう。


 伸びてきている無精ひげに手を当てながら考えていると縛られたままのジェーンから声がかけられた。


「こっちからも質問だ。あんた、ここが1901年って言ったよな。証明できるものはあるのか」

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