資金不足
来月に迫った『選抜模擬戦』に向けて、俺たちは特訓……ではなく、深刻な資金不足の解消に迫られていた。
「マスター! 本日のエネルギー補給ですが、駅前に新しくできた高級パフェの店に行きたいと具申します!」
「却下だ。今の俺の財布には、牛丼並盛りを二人分頼むだけの余裕すらない」
「なんと……! それは由々しき事態です。
私の永久機関は万全ですが、マスターの精神衛生上、速やかなる資金調達が急務と見受けられますね!」
学園が休みの日曜日の朝。
無駄にキリッとした顔で宣言する桜花を連れて、俺は再び探索者協会へと足を運んでいた。
目的はもちろん、ダンジョン探索によるドロップ品の獲得と換金だ。
「月島様、本日はどのダンジョンへ向かわれますか?」
すっかり顔馴染みになった受付嬢が、苦笑混じりに尋ねてくる。
初陣でイレギュラーのオークを討伐したとはいえ、俺のマスターランクはまだ一番下の『Fランク』スタートのルーキーだ。
順当にステップアップしていく必要があった。
「今日は……ここの入場申請をお願いします」
俺が提示した端末の画面を見て、受付嬢は少しだけ表情を引き締めた。
「Eランク・鉄屑の廃坑、ですね。
ここは出現するゴブリンたちが粗悪とはいえ鉄の鎧を纏っているため、刃こぼれには注意が必要ですが……月島様はお一人ですよね?」
「ええ。まあ、うちの桜花の刃が鉄の装甲にどこまで通用するか、模擬戦の前に少しずつ試しておきたくて」
「……わかりました。FランクからEランクへの順当なステップアップですが、どうかご無理だけはなさらないでくださいね」
心配そうな受付嬢に見送られ、俺たちはEランクダンジョンへのゲートを潜った。
転送された先は、むき出しの岩肌に錆びついたトロッコのレールが続く、薄暗い廃坑道だった。
Fランクのスライム迷宮と比べると、空気に含まれる魔素が少しだけ濃く、肌がピリッと粟立つ感覚がある。
「マスター。前方に複数の魔力反応を捕捉しました。来ます」
桜花が白鞘に手を添えた直後。
カチャ、カチャという不快な金属音と共に、坑道の奥から人型の影が三体、姿を現した。
「アーマードゴブリン……!」
子供ほどの背丈の醜悪な小鬼だが、その全身には分厚い鉄板やスクラップで作られた粗悪な鎧が着せられている。
駆け出しのマスターが汎用ドールに持たせた安い剣など、簡単に弾き返されてしまう厄介な魔物だ。
「ギギャァァッ!」
俺たちという侵入者を認識したアーマードゴブリンたちが、錆びたナタを振りかざして一斉に飛びかかってきた。
「桜花、あいつらは鉄の鎧を着てる! 斬れるか!?」
「愚問ですよ、マスター」
桜花はふわりと微笑み、姿勢を低くして鯉口を切った。
「私の刃に、斬れぬものなどありません」
次の瞬間、桜花は地を蹴った。
迫る三体のゴブリンの真正面へと、躊躇うことなく飛び込んでいく。
先頭のゴブリンが、勢いよくナタを振り下ろす。
――チャキ。
暗い坑道の中で、一筋の銀閃が瞬いた。
「『桜花一刀流・弐の型』――『白妙』」
キンッ! という澄んだ音と共に、桜花の姿が三体のゴブリンをすり抜けて、その背後に着地した。
一秒、二秒と静寂が落ちる。
ガキンッ……!
直後、先頭のゴブリンが纏っていた鉄の鎧が、中の肉体ごと袈裟懸けに綺麗に真っ二つにズレて崩れ落ちた。
それを皮切りに、二体目は水平に両断され、三体目は十文字に細断されて、ただの黒いチリとなって消滅した。
「お見事……」
俺は感嘆の溜息を漏らした。
刃こぼれ一つしていない刀を鞘に納める桜花。安物とはいえ鉄の装甲を着た魔物を、まるで豆腐でも切るかのようにあっさりと解体してしまったのだ。
「ふむ、少しばかり手応えがありましたが、造作もありませんね」
「いや、いくら粗悪な鎧とはいえ、鉄をあんなにスパスパ斬れるのはすごいぞ」
「そうですか!?実は刃に独自のエネルギーを乗せることで、結合を直接断ち切る……(以下略)」
「わかったわかった。お前が規格外なのはもう十分に理解したよ」
「そ、そうですか……」
ドヤ顔で専門用語を並べ立てようとする桜花を遮り、俺はゴブリンの残骸から魔石を三つ回収した。
Eランク魔物の魔石だ。
Fランクよりは高く売れるため、いくつか集めれば十分な稼ぎになる。
「よし、この階層のゴブリンを狩りまくれば、クレープもパフェも食い放題だぞ、桜花」
「本当ですかマスター!? では、この階層の鎧持ちどもをすべて資源に変えて差し上げましょう!」
目をキラキラと輝かせ、意気揚々と坑道の奥へ駆け出していく桜花。
俺と桜花のコンビにとって、Eランクへのステップアップは、順調な成長の証であり『美味しいお小遣い稼ぎ』の場でもあった。
来月の選抜模擬戦。
剣崎をはじめとする、俺をバカにしてきた奴らの度肝を抜く準備は、着々と整いつつあった。




