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みんなで継ぐ世界

 セルヴァンを倒しても、王都と灰冠城グレイヴォールを繋ぐ歪みは完全には消えなかった。


 城核は起きた。王都結界の崩落も止まった。けれどハクの報告では、“世界継ぎの座”に残るひびがまだ浅く脈打っているという。今なら塞げる。けれど、私一人で継げばまた何かを失う。


「じゃあ、皆で継ぎましょう」


 言い出したのはミレイユだった。


「祈りって、本来そういうものだと思うんです。誰か一人が犠牲になるんじゃなくて、皆で願うもの」

「理屈は分かるけど、どうやって?」

 私は訊く。

「灯りと同じです」

 ミレイユは答えた。

「灰冠城の灯りに祈りを乗せたみたいに、人の“守りたい”を少しずつ集めるんです」


 それは大胆で、でも灰冠城らしい発想だった。


 その夜、城下町ハイゼルの人々が中庭へ集まった。兵も、鍛冶屋も、パン屋も、子どもたちも。王都から来ていた使者たちまで灯りを持つ。誰も大きな魔法は使えない。ただ、自分の灯りを掲げるだけだ。


 私は城核の前に立ち、レオンハルトとミレイユと手を繋ぐ。


「壊れたものを、元の形以上に戻すことはできないかもしれません」

 私は静かに言った。

「でも、次に壊れにくい形に継ぐことはできると思う」


 灯りがひとつ、またひとつと集まる。


 ミレイユの祈りがそれを繋ぎ、レオンハルトの守りが枠を作る。私はその真ん中で、無理に全部を背負わず、流れを整えることだけに集中した。


 世界継ぎの座に走っていたひびが、ゆっくりと閉じていく。


 眩い奇跡ではない。静かな、地味な、でも確かな修復。


 終わった時、私は何も失っていなかった。


 代わりに、胸の奥へ温かいものが残っていた。


 たぶんこれが、“みんなで継いだ”という感覚なのだと思う。


 片づけが一段落してから、私は自然と灰冠城の回廊か、城壁へ続く階段の途中へ足を向けていた。石に触れるたび、戦いと修復の痕がまだ新しく、城そのものが次の選択をじっと待っているようだった。何かが大きく動いた日ほど、あとから見つかるのはいつも片づけきれなかった小さな道具の重みのような細部だ。けれど経験上、そういう小さな見落としの方が、放っておくと案外長く尾を引く。


 私は足を止めるたびに今日の言葉と沈黙を反芻し、それが誰の覚悟に繋がったのかを確かめるように息を整えた。手を動かしていると、不思議と頭の中の順番も整っていく。誰に何を伝えるべきか、どこまでを今日のうちに済ませるべきか、何を明日の自分や別の誰かへ渡すべきか。考えるべきことは多いのに、以前ほど一人で抱え込む焦りは強くなかった。


 大きな戦いや決断の前後では、力そのものよりも、誰が何を引き受けるかの方が人を変える。私はようやく、抱え込むことと支えることは別だと身体で分かり始めていた。 私はようやく、強さとは全部を背負えることではなく、綻びを早く見つけて、正しい相手と分け合えることなのだと理解しつつある。だから今日の出来事も、感情だけで終わらせず、記録と手順と小さな改善へ落とし込んでおきたいと思った。


 私が今見ているのは、片づけきれなかった小さな道具の重みのような、誰かが見落としても不思議ではない細部ばかりだ。けれど実際に町や城を支えるのは、いつもそういう小さな部品の方だった。派手な奇跡より先に、綻びを見つけて、記録して、次の人が迷わず触れる形へ直しておくこと。そういう地味な手順が積み重なって、ようやく暮らしは丈夫になる。


 きっと明日になれば、また別の形をした不足が見つかる。勝ったあとに残る座の重みは、戦場の終わりとは別の難しさを持っている。。それでも今は、次に何を直すべきかを考えること自体が、前へ進んでいる証拠だと知っていた。 終わったはずの一日が、そうして少しだけ明日へ食い込んでいく。その感覚を嫌だと思わなくなったことが、たぶん今の私の一番大きな変化だった。

ここまでありがとうございます。次話『壊れた国の王座』も、楽しんでいただけたら嬉しいです。

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