第9話:プライドと屈辱
シュウノは金縛りにあって身動きが取れないまま口を開く。
「ロジ、頭を冷やせ。キャベツは俺たちの常識や想像を超えた怪物だ。刺激を加えるほど強くなる...下手に手を出せば奴をさらに強くするだけだ…」
「え?…キャベツ?なんですかその拍子抜けと間抜けと気抜けな3拍子は?それが山羊男の名前なんですか?」
ロジは不満そうな表情で「こんな名前の敵を倒しても見栄が悪いですね…」と愚痴り
「そうだ!僕が名前を付けますよ。邪神エスカトスとかどうですかね?」
「もっと山羊男について教えてくださいよ。先輩は色々、知ってるんでしょう?」
ロジがそう言いだした矢先に静かにも聞こえる怒号が響いた。
「何をしている?なぜその青年は倒れている?」
眼帯を付けたあの時の清掃員が駆け寄ってきたのだった。
ロジは「やばい、怖い人っぽい…」と小声でいい『マイルールブック』の書き込まれた“金縛りの状況”に斜線を引いて急いで立ち去った。斜線を引くとその文字は消えていった。
「先輩、すいません!また今度!」
噴水広場からロジは角がある方へ走って行った。
「あれ?解けたのか?動ける…」
シュウノは金縛りが解けて立ち上がったところ清掃員が心配そうに尋ねる
「大丈夫かね?汗をかいているようだが…医者に診てもらわなくていいかね?」
「俺のせいだ。異能者相手に甘く見た行動をしたからだよ。あんたに心配させてすまなかった。」
清掃員は「あんた…」と小声で思わず呟き、シュウノの言葉の礼儀の無さを注意する。
「私が言っても無駄かもしれんが、あまり不注意に礼儀を欠くなよ?その口調や態度が余計な揉め事を引き起こすことを忘れるな。相手の立場で自分が言われた気分も考えることだ。」
「あ、ああ……はい……」
シュウノは清掃員の気迫に少し畏怖を感じ押されてしまった。
「噴水広場で何をしている?大方、山羊男の話をしていたのではないかね?」
「さっきの若造に尋問されて倒れていたのか?」
「もう、俺になんでも聞かないでくれ!!」
シュウノは心の限界だった。山羊男にセイルの妊娠にロジからの屈辱。プライドもボロボロだ。
「あの若造が山羊男に向かう気なら巻き添えで大勢死ぬかもしれんな。君の扱いを見ても思慮が足りなすぎるとしか思えん。」
そう吐き捨てるとシュウノを見て「君も周囲から見てどうなのか考えて行動することだ。」と苦言を残して歩いて行った。
「ああ、そうか…俺の時代は過ぎたんだな…」
そう独り言をつぶやき、噴水広場にあるベンチに座ってぼんやりと空を眺めるのだった。
メイリアが生きていたら今の自分をどう思うか嫌でも考えてしまうのだった。
***山羊男への結果報告
風見族の街シルバナにて
ピー太郎とバロットはキャベツの部屋に遺体を運んでいた。
ピー太郎は会いたくもないキャベツに目を合わせて要求通り運んできた遺体を引き渡す。
「あの…遺体を持ってきました…これでよろしいですか?」
それに対してバロットは無神経なことを聞いている
「腐らないように急いで飛んできたんですよー?ボクは偉いでしょー?」
山羊男は悩んだような眼差しと耳の動きでバロットに尋ねた
「…偉い?つまりどういうことだ?」と不思議そうに聞いている。
「偉いとはよく役に立った人や勝った人が偉いんですよー。」
「言うこと聞いた下っ端を褒めるのが族長なんですよー?今の族長はキャベツさんですよー。族長は一番、強いか賢い人がなるんですよー。」と無邪気に返した。
ピー太郎は気味が悪そうな表情で会話を聞いている。
「つまり俺が負けるまでしか偉くないということか。偉いとは暴力や競争による勝者のことならいつ自分が敗北し、偉くなくなるかも分からない……ということだ」
「キャベツさんに勝てる奴はそういませんよー」とバロットが相槌を打つと山羊男は
「さっきから“キャベツ”とは俺のことか?…そうか…“あの男”が言っていた言葉は俺の名前だったのか…」
珍しく、恐れを感じた表情になり独り言を言い出すのだった。折れた左角を触りながら目は虚ろになる。
ピー太郎は(カタム領主が話していた名前は当たってたようだな。こいつ…情報通り、マジでただの山羊だったのか?)と勘ぐっていたところキャベツがピー太郎を見つめたので寒気が走った。
「わかった。今回は言う通りに遺体を持ってきたからお前たちは“偉い”。これでいいのか?」
キャベツに褒められて異常さに混乱するピー太郎だったがバロットは少し手柄をとった表情になり
「また何かございましたら呼んでくださいよー。その代わりといったらですが他の風見族よりは特別扱いされたいなー」と口を達者に動かす。ピー太郎はバロットに内心、軽蔑と苛立ちを募らせるのだった。
キャベツは掴んだ袋の口を逆さにしてから遺体を乱暴に引きずり出し状態を確認した。
ピー太郎は口を押えて(この化け物…俺の前で堂々と…やっぱ情緒も道徳も糞もねぇ…)と恐怖と吐き気に板挟みになる。
「男の方はダメだな。時間がたって痛みすぎている。それに“頭が無事”でないから使えない。」
そう呟くと乱暴に遺体を袋に詰めなおしピー太郎に袋を突き出して雑用係に頼むように
「捨ててこい。今日はもういいから帰れ。」
「バロットは残って街の連中の俺に対する反応と奴らが遺体を引き渡したやり取りを話せ…」
と言い放ち、ピー太郎は(こいつ、どんどん賢くなってる…)と危機感を露わにして袋を引きづって退席するのだった。
しかし、その直前にバロットは「ボクが運んだ袋が男だったからお前の袋を運びたかったな。それならボクの手柄だったのに―」と小言を漏らしてピー太郎の気分を最悪にするのだった。
「ああ、メイリア様…どうかお許しを…」ピー太郎はうわ言のように呟いて袋に風の軽量魔法をかけて飛び立つがその前に疑問が浮かぶ
「遺体を何に使う気なんだ?頭がどうとか言ってたが…剥製でも作る気か?」
と思ったがこれ以上は考えたくなかった。今は風見族を一日でも早く、シュウノ達が救いに来ることがピー太郎の希望だった。




