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第8話:新たな勇者が名乗り出る

シュウノは悩みで頭がいっぱいだった。魔王を倒して地位も名声も富も老後も女性関係も明るかったのに山羊男が現れてから全てが逆の方向に向かっていったのだった。

シュウノはセイルに口を開き


「セイル、俺には山羊男と戦わないといけない。メイリアが殺された上に遺体も奪われたんだ。」

「俺が倒してメイリアの遺体を取り戻すつもりだ。そのために行動をしないといけない」


「…そんな、馬鹿な!? 魔王を倒した一員の一等冒険者のメイリアが殺されたのですか?メイリアは体力と剣術ならシュウノより上だったのでしょう?」


「そうだ。近接戦なら冒険者たちの中でも指折りの強さだった。それが山羊男に投げられて壁にぶつかって潰れて死んだ。俺だけのうのうと生き延びる訳にもいかないし、被害が増えないためにも奴に対抗する手段を探す必要がある。だから、そのための行動は邪魔しないでくれ。」


シュウノの言葉には、英雄としての自負というよりは、もはや自分の命も捨て石のような自嘲が混じっていた。

セイルはシュウノが死ぬことを恐れた表情を浮かべながらも励ましの言葉を送る。


「山羊男とやらはそれほど恐ろしい存在なのですか?―シュウノには戦って欲しくなかったのですが…このセイル・ルトプッシも高貴な生まれの者です。」

「生まれた来るわが子のためにもシュウノを全力でお支えいたしますわ。例えいばらの道であったとしても。」


「ありがとう。…すまないが山羊男を倒すまでは結婚式とかはまだ言わないでくれ。頼む…」


セイルは不満そうな顔を浮かべたがしかたないという表情になり


「わかりましたわ…ですがわたくしはあなたと夫婦の間柄でよろしくてよ?」と圧迫を強める。


シュウノは「責任はとるよ…」とポツリと漏らし情報収集してくるといい外出するのだった。



***新たな一等冒険者の野望


シュウノは噴水広場のすぐ近くの冒険者ギルドに来ていた。部屋の向こうには学校のように巨大な黒板があり、大きなニュースや任務の求人などがトピックスのようにチョークで書かれている。

その中の一文に目を見張るものがあった。


「3等冒険者のロジ・ジョット氏が1等へ昇格。2等を飛び越えての異例であり、その理由は危険度A級の魔物の討伐によるもの。アシッドドレイクの大群の討伐を5件。オークリーダーの討伐を3件。雷大蛇を2件であり驚異的ながら個人での活動である。わずか2カ月で達成。記録によれば個人での達成において歴代2位の早さである。」


シュウノが目を疑いながらもう一度、黒板を眺める。


「一等になる条件は兵隊千人を相手にできる最高危険度のA級の魔物を一年以内で十体倒す必要がある。俺はチームを組んで11カ月かかったんだぞ?それをロジが一人で?」


そう呆気にとられていると高笑いが受付の窓口から響いてきた。


「はっはっは!B級の任務しかないんですか?困りましたね。これじゃ簡単すぎて、僕の1等の名が泣きますよ」


「B級は戦略と兵士が五百人以上は必要な場合や2等の方でも命を落とす場合も多いですがそれでも簡単でございますか?」


そう、受付嬢が困った顔で返事をしているとロジが空気を読まず自信過剰に自分を語りだす。


「しかたない。B級任務で我慢しますか…僕より先に1等になった奴は誰なんでしょうね?大昔の眉唾なんでしょう?僕が歴代最速じゃないのが気に入りませんが過去の威光が今でも残ってるのは困ったものですね。」

「それなら僕も、後に誰も越えられない絶壁になると思いますよ。その眉唾よりも確かな記憶でね!」


受付嬢はロジの質問にひきつった笑顔で返事を返した。


「…今でも語り継がれる『アルシオン』というお方をご存知ありませんか?」

「そのお方はまだ冒険者ギルドができる前の千年前の記録ですが一か月の内に今で言うA級の魔物を10体と世界を征服しようとした龍人2名を倒した記録がありこの国の王族のご先祖であるというおとぎ話でも有名な『アルシオン』の伝説の話ですが…」


「…千年前の記録で1ヶ月で12体って…それもロジャノさんみたいな龍人を2名含む討伐なんて、どう考えても後世の作り話でしょう?だったら、もっとすごい伝説を僕が立てますよ。例えば最近噂の山羊男を倒すとかどうですかね?」


受付嬢は困った表情で壁に貼ってある紙に指をさした。その紙は冒険者組合に所属してるならみな知っている基礎的な魔物の危険度の等級の説明だった。


~魔物の危険度の等級について~


E:兵士1名であれば対処可能。


D:兵士10名と連携で対処可能


C:兵士100名の連携と充実した武装であれば対処可能


B:被害を抑えるために事前に作戦を立てるなど準備が必要で安全に討伐するには地形や罠を利用するのが望ましい。兵士500名の作戦活動が必要。


A:単体か群れで活動する危険な魔物。兵士1000人以上の人員とまとまった武装と食料や医薬品の補給が必要。一般兵が損耗なく討伐は前例無し。


特殊:極めて危険で組合での依頼や受注は不可。作戦の参加にはその地域の指導者や国王の許可が必要。街に壊滅的な被害を与えるような危険度で一般兵が数をそろえて対応するのは不可。

住民の生活区域に来る時期が予測できる場合は速やかに非戦闘員の避難に協力すること。

一般兵は支援に回り異能者や魔法使いと連携して対処する必要がある。無許可で関与した場合は免許はく奪の上に厳罰もあり。


「1等ならばおわかりでしょう?その件は“特殊“でございます。」

「山羊男に関しては戒厳令が敷かれております。詳しくは一等であるならばアポを取りカタム領主にお伺いお願いします。無断で山羊男に関与すれば重い罰則がございますのでご注意の程を…」


ロジは面倒くさそうな表情を浮かべながら聞いてもいないことを話し出す。


「実は僕、山羊男を倒すためにこの街に情報収集で来たんですよ。それなのに情報が上から抑えられるなんて冒険者組合(ギルド)も結局は権力者の言いなりなんですね~。」

「まあいいですよ。先にB級任務から終わらせて箔をつけて領主に納得していただきましょうかね…」


ロジが窓口を背に振り返ったその時、視線の先に呆然と佇むシュウノと目が合い、ニヤリと口角を上げた。


「あれ?先輩ですか?3か月ぶりですね。お久しぶりですね~。」


「おい、ロジ。これはどういうことなんだ?俺が知ってるお前はC級の任務にも躊躇していたじゃないか。何が起きたんだ?」


「いや~。会っていきなり成功の種を聞くなんて寂しいですね~。先輩らしく“元気にしてたか?”とか普通気遣うもんですよ“シュウノ”さん」


シュウノは少し、苛立つがそんな場合ではないと思い質問を続ける


「ソロでA級を10体は無理だろ。しかもその内のアシッドドレイクは1グループあたり五千以上の群れをつくり強酸も吐く魔族も扱いきれない異常に獰猛な肉食の小型竜だぞ。」

「どんな手を使ったんだ?」


「先輩?もしかしてイカサマしてるか勘ぐってますか?ふふふ…無理もありませんね。冒険者組合ではA級を戦う時は遠くから観測者が記録をとるからイカサマなんてできませんよ。知ってますよね?」

「それより、先輩。噂で聞きましよ?山羊男に出くわして先輩でもビビッて動けなかったって。」

「嘘ですよね?魔王倒した先輩がシュールな山羊頭の怪人に怖気づいてしまうなんて…」


シュウノはトラブルの連続とストレスの蓄積で沸点に達してしまった。


「ロジ!!メイリアが殺されたんだぞ!コケにするような言い方はするな!」


つい、大声で言ってしまったシュウノだった。

ロジは目を丸くして山羊男の存在に驚きを見せたが受付嬢が怒鳴った。


「戒厳令中です!施設内で問題を起こすなら二人とも免許は没収しますよ!」


シュウノは静かになり「とりあえず、噴水広場に行くぞ。一緒に来い!」とロジと一緒に噴水広場に向かうのだった。



***清掃が終わった噴水広場


「そうですか、ここで事件が起きたんですね。今は奇麗ですけど人の通りは少ないですね。血みどろの騒ぎがあったためですか?」


「お前は一体、何ができる?その自信は前に話してた能力のガチャで強い能力が当たったということか?」


ロジは「あちゃー」と空気を読まないようなセリフを言いながら


「先輩、すぐ核心の部分を言っちゃいますか。まあ重要なのは“何が当たったか”ですがね。」

「実は僕、詳細は伏せますが、いわゆる『概念系能力』を当てちゃったんですよ!」

「よく、世界のルールとか法則とか干渉したり変更したりできる神がかりなあれっすよ!」


シュウノは呆れた表情で「冗談で言ってるのか?」と声を漏らす


「ほら。話しても真面目に聞かないじゃないっすか。まあ、無理もないですがね。使い手の僕ですら力の強大さに理解がまだ追いつかないですから。」

「僕はこの異能を『マイルールブック』と呼んでますがね。」


「神がかりな力があるなら見せてみろよ?」とシュウノは苛立って聞くが


「先輩?魔法使いや異能を持つ者は下手に他人にネタを見せませんよね?作戦の打ち合わせなら説明する理由になりますが僕は先輩と組む気はないですよ?挑発されて見せるなんて3等でもしませんよ」


シュウノは思わず、ロジの胸倉を掴んだ。


「おい!煽るために俺に話しかけたのか?あまり他人の気の長さに甘えるなよ?」


「先輩。山羊男にはビビッて後輩の僕に強がるのはダサいっすよ。」


そういうとロジの右手には万年筆を握り、その下に白紙の本が宙に浮いて何かを書き込んでいる。

シュウノとページタイトルを書いてその下に“金縛りの状況”とスラスラと記入していく。


「ぐっ…!?」


シュウノは手に力が入らず身動きがとれずに倒れてしまった。


「すいませんね。先輩も色々あってストレスが溜まってたんでしょ?でも八つ当たりはよくないっすよ。」

「ちょっとだけ見せちゃいましたが僕の力がわかったでしょ?魔王を倒した主役はその時までが最高の瞬間。その後まで輝くのは後の世代にも良くないですよね?」


そしてロジはシュウノに勇み声で宣言をする―


「今度は僕の番です。英雄ですら恐れる山羊男はこの勇者ロジ・ジョットが倒して過去最高の栄誉を手に入れますよ。」



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